「魂動」の哲学は伝統工芸作品でどう表現されたか?…マツダと職人のコラボレーション

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玉川堂の鎚起銅器『魂銅器』
  • 玉川堂の鎚起銅器『魂銅器』
  • 「This is Mazda Design. CAR as ART」の展示風景
  • 玉川堂の鎚起銅器『魂銅器』
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  • 玉川堂の鎚起銅器『魂銅器』
  • 金城一国斎の卵殻彫漆箱『白糸』
  • 金城一国斎の卵殻彫漆箱『白糸』
  • 金城一国斎の卵殻彫漆箱『白糸』

マツダが10月に東京ミッドタウンでおこなった「This is Mazda Design. CAR as ART」には、ふたつの伝統工芸作品が展示された。これはマツダとのコラボレーションで「魂動デザイン」をそれぞれの解釈で表現したものだ。

マツダは「クルマで日本の美意識を表現する」ことを目指しているが、このコラボレーションはそのための試みのひとつと考えればよさそうだ。ひとつは新潟県で鎚起銅器を手がける玉川堂の職人が作り上げた『魂銅器』、もうひとつは広島県の漆職人、金城一国斎による卵殻彫漆箱の『白糸』。

マツダによれば、プロジェクト開始当初は「なにを作ってもらうか?」「どう表現してもらうか?」ということはまったく決まっていなかったという。ディスカッションを重ねながら「魂動」の精神を伝えたとのことだが、これは職人たちの理解を促すだけでなく、マツダ自身にとっても「魂動とはなにか、そしてどう伝えればよいのか」ということをあらためて見つめ直す機会になったようだ。

『魂銅器』は鎚起銅器という名称の通り、銅板を叩いて成形されている。ただし魂動の精神を解釈した結果、現在では用いられていないプロセスで作られることになった。現在の銅器は切り出された銅板から作られているが、魂動器は銅板が流通する以前の技術が使われている。

それは銅塊を数人がかりで打ち延ばし、板状にしてから器の製作に取りかかるというものだ。玉川堂では魂動の哲学を、創業当初から受け継がれてきた自分たちの創作精神と同じものと受け止めた。そしてすべてのプロセスにおいて自分たちの想いを込めるため、過去の製法を際限したという。

叩き出された銅板は切削することなく、そのまま器として成形するプロセスに移行。そして無心に叩き続けた結果として出来上がった形状が魂銅器となった。成形作業の前に「こういう形にしよう」と考えてそれに近づけるのではなく、結果的に生まれた形をありのままに、感情に基づくダイナミックさを保ちつつ美しく仕上げたものだ。

卵殻彫漆箱の『白糸』は、漆を塗り重ねた外箱に細かく砕いた卵殻を一片ずつ貼り付けている。さらにその上に漆を塗り重ねてから研ぎ出し、ふたたび表面に卵殻を浮かび上がらせるという、気が遠くなりそうな工程を経て作られた。

金城一国斎は「高盛絵」と呼ばれる作品を手がけているが、これには植物や昆虫などが具体的に描かれる。しかし白糸には、そうした動植物の姿はない。マツダ車の造形が「生き物の生命感や躍動感」を表現していることを考えると、これは意外にも感じられる。

しかし一国斎が表現したかったのは、具象化された生命体ではなく生命感に満ちた世界。光や水、風といった自然が持つエネルギーを生命の源として描き出そうとし、白糸の滝をモチーフに選んだ。そして卵殻の精緻さと、磨き上げられた漆のグラデーションが見せる艶やかさが同居するさまは、まさしくマツダの言う「凛と艶」の関係そのものといえる。

ふたつの作品は、マツダのクリエイターたちがそれぞれの言葉で語った「魂動」の哲学を、それぞれに解釈し、表現したものだ。根源的な哲学が同じであっても、その回答は人によって異なり、実に多彩だということを理解させる。

また伝統工芸は過去の様式として固定化されたものではなく、まだまだ多くの可能性を秘めたものだということも実感させる。職人たちそれぞれの精神に基づく「魂動」の解釈と、手作業で生み出された作品はマツダのデザイナーやモデラーに大きな刺激を与えたという。

マツダデザイン本部・アドバンスデザインスタジオの中牟田泰部長は「魂動デザインの本質は“美しく動きのあるアート”を作ること」だと言う。そして「マツダは魂動デザインを、日本の美意識に基づいてさらに進化させようとしています。東京ショーで公開するコンセプトカーそのひとつです。期待していてください」と締めくくった。

《古庄 速人》

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