アウディはこの種のクルマを「オールロード」と呼ぶ。そしてVWは「オールトラック」。どちらもワゴンをベースに車高を上げて、クロスカントリーに対応した車種だ。
VWの場合、とりあえずベースとなっているのは『ゴルフ ヴァリアント』。ホイールアーチを無塗装の樹脂で覆うあたりもアウディと味付けは同じだ。もちろん、アウディとVWでは車格が違う…と言いたいところなのだが、それは確かに細部の作り込みなどの上質感では上かも知れない。しかし、このVWオールトラック、いやいやお値段に対する価値の高さは相当なものである。やられちゃったのはまさにこの部分。
まず、オールトラックのシステムは第5世代のハルデックスカップリングを使ったもので、今や電制4WDの定番的システム。ヨーロッパの多くのメーカーがこれを使う。クワトロで名を馳せたアウディも、一部を除けば今やハルデックスを使用するから、「クワトロだから凄い」は通用しない。
路面状況に応じて最適なトルク配分をクルマの方が勝手に決めてくれるから、ドライバーはただひたすらドライビングに集中すればよい。何もオフロードだけで効果が発揮されるわけではなく、オンロードでの発進加速などでも細やかなトルク配分の加減をしてくれるから、安定性も加速性能も高いのだ。さらにドライビングプロファイルという可変走行モードを使えば、スロットル特性からステアリングの重さ等々、細かく制御してくれる。
サスペンションはノーマルヴァリアントより25mm車高を上げたもの。単に地上高を稼ぎたい場合、サスペンションストロークなどに変更はないのだが、このクルマ、ちゃんと専用のサスペンションを使ってストロークも伸ばしているという。乗り心地がソフトに感じたのはこのサスペンションとタイヤハイトの関係らしい。
さらに、電子制御ディファレンシャルロックXDSを標準装備。挙句の果てにプリクラッシュセーフティーから全車速対応のクルーズコントロールACC、さらにリアビューカメラなどがすべて標準装備。この仕様で347万円ときたからやられちゃったわけである。VWに言わせると輸入4WDモデルの中では最もお客様にとって身近な存在だというが、装備などを考慮すると国産モデルだって全然うかうかしていられないレベルの価格だ。
とにかく色々と考えられている。エンジンは『ゴルフ』としてはこのエンジを使うのは初めてとなる1.8リットルTSIユニット。組み合わされるのは湿式クラッチを持つ6速DSGである。従来の1.4リットルでは少し力不足ということでこのエンジンを使ったそうだが、元来このエンジン、『ポロGTI』に装備されているものと同じで、トランスミッションだけ乾式クラッチの7速から湿式の6速へと切り替えた。
その効果があってか、走りは極めて軽快である。少なくともパフォーマンスが不足するということはまずない。ステアリングは印象としてはかなり軽めだが、インフォメーションはしっかりと入力されて、205/55R17と比較的ハイトが有り、180ps、280Nmの性能にはやや細目ともいえるタイヤにもかかわらず、少しぐらいコーナーを攻めこんだところでスキール音の気配さえ見せない。このあたりはオールトラックのトルク配分とESP、DSRなどの効果が感じられるところだ。
こうしたしっかり感を持ちながら、路面からのあたりはソフトで乗り心地も非常に快適。このクルマに相応しい砂利のオフロードも走ってみたが、本来掻き上げるであろう砂利の騒音も全く気にならないほど静粛性が高く、しかも抜群の安定化とこれも非常に快適な乗り心地を持つのには本当に驚かされた。まさに文句なし。挙句の果ては605リットル~1620リットルを飲み込む巨大なラゲッジスペース。いやいや、どんなシーンにも使えそうなホントにゴキゲンなクルマでした。
■5つ星評価
パッケージング ★★★★★
インテリア居住性 ★★★★★
パワーソース ★★★★★
フットワーク ★★★★★
おすすめ度 ★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来37年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。