【ホンダ N-BOXスラッシュ 試聴】サウンドマッピングに最適な音楽ジャンル、そして弱点とは…井元康一郎

試乗記 国産車
ホンダ N-BOXスラッシュのサウンドマッピングシステムを試した
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カスタムカー風の内外装を特徴とするホンダの軽トールワゴン『N-BOXスラッシュ』。その売りのひとつで、上位グレードの「X」「Xターボ」に標準装備されたオーディオシステム「サウンドマッピングシステム」をじっくり試す機会があったのでリポートする。

発売直後の試乗会でもサウンドマッピングを試聴、ファーストインプレッションをお届けしたのだが、そのときはHDDに格納された3曲しかサンプルがなく、幅広いジャンルを試すことができなかった。今回はクラブミックス、ハウス、クラシック、ジャズ、ヴォーカルを伴うポップスなどを聴いてみた。その結果、サウンドマッピングの優れた部分と弱点の両方を確認することができた。

サウンドマッピングのシステムをおさらいしておく。ボディの四隅にメインスピーカーとツイーター(高音ユニット)をひとつずつ、合計8個配置。加えて、センターコンソールの下にFOSTEX社製のバックロードホーン式スーパーウーファーを置き、重低音を補完するという、8+1構成である。そのスピーカー群を駆動するアンプは出力360Wと、軽自動車用としては結構な大出力。また、光ディスクプレーヤーやチューナーなどピックアップデバイスを内蔵したカーナビもノイズ削減のため、イコライザーやサラウンドなどのエフェクトをかけるDSP機能に特化させたコントロールアンプのみを内蔵する専用機を開発するなど、それなりに力を入れている。

◆「プレミアムオーディオ」と名乗るだけの実力はあるか

発売直後のファーストインプレッション時と印象が変わらなかった第一のポイントは、室内容積の小さな軽自動車用としては十分なパワー感。それが最もよく合うのは、バスドラムやベースのボリュームが大きく、サウンドもエレクトリック系を主体とするクラブミックスやディープハウス。現代的なアシッドジャズ系のカバーだけでなく、シャニス・ウィルソンやジャネット・ジャクソンなど、現代よりはるかにパワー重視だった時代のクラブサウンドも、スーパーウーファーの威力も手伝ってたっぷりと鳴り響かせる。

パワー系の音楽をボリュームを最大にして聴いても音割れはなく、スピーカー側の受け入れ性は十分に高い。出力360Wといってもメインスピーカーとツイーターを1セットにした2ウェイスピーカーが75W×4、スーパーウーファーが60Wと考えれば、そこまでとんでもないパワーというわけではないのだが、それでもフルボリュームだと住宅ではとても再生し続ける勇気を持てないくらいの大音量は出せる。

第2の美点は、カーオーディオで最も難しいと言われる中高音が結構綺麗に出ること。高音を受け持つアルミドーム式ツイーターが過剰にシャリシャリとした音を立てず、メインスピーカーの音に豊かな倍音を付加する。メインスピーカーのほうも中高音域の再生は得意なようで、結果、なかなか艶やかなサウンドデザインと言える仕上がりに。

フランスのシャンソン歌手クレモンティーヌの歌うボサノヴァをかけてみたが、ボリュームの大小によらず声の艶成分、ハスキー成分などのディテールの描写は非常に良かった。また、クラシック分野でも世界的フルート奏者、エマニュエル・パユによるフランス近現代曲をかけてみたところ、人間の肉声と同様、管の共鳴感もある程度再現できていた。コスト制約の厳しい純正オーディオとしては非常に良好な中高音域であった。

一方、いろいろなソースを試す中で気になったのは中低音域の再生密度の低さで、極低音と中高音の良さとのギャップは小さくなかった。前述のエマニュエル・パユのフルートによるJacques Ibert(ジャック・イベール)作曲のソナチネ第2曲「Tendre(タンドル)」。パユの伴奏を務めたのはエリック・ル・サージュは、器楽曲のピアノ伴奏で世界トップレベルの評価を受ける人物で、この曲においてもタンドル(柔らかく)という楽語をそのまま体現したように神秘的なフランス和音を優雅に奏でている。

そのピアノ部分だが、比較的音域の高い右手のパートはよく聴こえるものの、左手の奏でる低域はディテールが溶けてもやっとした印象に終始。エリック・サティ、あるいはクロード・ドビュッシーに始まるフランス近現代音楽は、全音音階やドッペルドミナントなどを利用した頻繁な転調を持ち味のひとつとしているが、それを支える和声がしっかり聴こえないと、どのような曲なのかが伝わりにくくなってしまう。

これはプレミアムオーディオを名乗るにはちょっと弱いところで、アコースティック楽器をメインとするモダンジャズのベース、ボサノヴァの低音ドラムであるスルドなどの音も同様にディテールが失われるシーンが多々あった。スーパーウーファーを装備したことで、メインスピーカーユニットは高音寄りのものをチョイスしたのかもしれないが、軽自動車はエンクロージャー(スピーカーの箱)がわりとなるドアの容積が小さく、もともと中低音域を膨らませるのは簡単ではない。スーパーウーファーはメインスピーカーの低音に倍音を与えるためのもので解像感を高めることには貢献しないので、ユニット自体をもう少し低域寄りの特性のものに置換したほうがいいのではないかと思う次第だった。

◆価格に見合うだけの価値はありそうだが

オーディオ本来の資質以外でのサウンドマッピングの特徴は、ワイドレンジなイコライジング、サラウンドエフェクを豊富に実装していること。カーナビのオーディオメニューを見ると、「SRS CS auto」というサラウンドモードが表示された。SRSとはアメリカのSRS研究所が開発した、ステレオで擬似的に立体音響を作るサラウンドシステムだ。が、フルオーケストラのクラシックからエレクトリックまで、音楽のジャンルによらずこれをONにすると再生音の密度が落ち、あまりいい結果が得られるとは思えなかった。通常のDSPも同様。もともとの音質がそう悪いものではないので、音加工をやるとしてもイコライザーで音の厚みをユーザーの好みに合わせるくらいにとどめておいたほうがよさそうだった。

いろいろ検証してみた結果、サウンドマッピングは音響的に苦しい軽自動車としては高い満足度を得られそうな能力を備えていると言ってよさそうだった。もっとも、多様なソースで試してみると、取り切れていないアラもそれなりに見えたのも確かだ。サウンドマッピング未装備のベーシックグレード「G」の安心パッケージ装着車に対して、NAで17万円、ターボで15万円高になる。シートヒーター、ステアリングヒーター、インテリアイルミネーション、またNAではクルーズコントロールの有無といった装備差があることを考慮すると、オーディオの価格は12万円くらいか。その価格に見合うだけの価値は十二分にありそうだったが、発売直後に限定的なソースを試して書いた、後付けの高額なプレミアムオーディオともある程度対抗可能ではないかとした評価はさすがに盛りすぎで、取り下げたい。

サウンドマッピングのもうひとつの弱点はヘッドユニットとなるサウンドマッピング対応カーナビの高さで、今どき20万円以上もする。これがN-BOXスラッシュの支払額を膨らませ、販売を鈍らせる主因と思われる。スマホを接続してカーナビに使える7インチディスプレイオーディオなら6万円で収まるものの、スマホとカーナビを分けたいユーザーも少なくないことを考えると、カーナビももう少し安くしたほうが販売面ではプラスになろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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