「仕事場」であることを極限まで追求した“ホンマモン”のオーラ…西川淳

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トヨタ ランドクルーザー70 と西川淳氏
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■気づいていない、ランドクルーザーの本当の凄さ

毎年、ボクは短い夏休みをカリフォルニアのモントレー周辺で過ごす。クラシックカーの祭典があるからだ。世界中の名車たちが、白熱のレースを繰り広げたり、美しさを競いあったり、オーナー同士が交流したり、と、クルマ好きにとっては、まるでパラダイスのような週末である。

毎夜開催されるオークションを見学するのも楽しみのひとつ。ときには20億円、30億円を超えるセリもあったりして、見ているだけでも手に汗握ってしまう。 

昨年の、とあるオークションで、驚きのハンマープライスが出た。トヨタ『ランドクルーザーFJ40』が、日本円にしてなんと1300万円強で落札されたのだ。グリーンに幌の付いたロングホイールベースモデル(FJ43)で、その昔、コロンビアの農園で使われていた個体が完璧にレストアされ、出品されていたのだった。

アメリカのクラシックカーオークションといえば、欧州のスポーツカーブランドや今は亡き米国の超高級車ブランドばかりがもてはやされているというイメージが強い。そんななか、日本生まれの実用車が非常に高い評価を受けた。驚きとともに、日本人として、誇らしい気分にもなった。

「ランドクルーザー」というブランドが、世界中で高く評価されているという知識を、ボクたちはもっている。世界中の道を走り尽くした日本車といえば、真っ先にその名を挙げたくなる。けれども、ランドクルーザーの本当の凄さを、日本にいる多くの人たちは、いまだ気づいてないのかもしれない。去年のオークションを目の当たりにして、ボクはそんなことを考えていた。

帰国すると、タイムリーなニュースが待ち受けていた。海外マーケット用に造り続けられてきた『ランドクルーザー70』が、デビュー30年を記念し、日本市場用として期間限定の“復活”を果たすというのだ。ボクにとっては、夏のモントレーを飾った名車たちに負けず、ホットな話題となった。

■“ホンマモン”だから価値がある

見るからに、クラシック感が漂っている。けれども、決して勘違いしてはいけない。コイツは、流行のレトロモダン・リメイクモデルではなく、世界中の厳しい自然と対峙するために、進化し続けてきた現役バリバリのオフローダーである。それだけに、単なるノスタルジーを超えた、“ホンマモン”のオーラを発している。それは、正に、地上最強の風格だ。

実際に乗ってみれば、さらにその想いを強くする。

昨今、4WDといえばクロスオーバーSUVが主流で、まるで乗用車のように走ることが美点とされている。ランドクルーザー70は、それとはまったく正反対のキャラクターの持ち主だ。経験豊かなドライバーであれば、コクピットによじ上って入った途端に気づくだろう。そこにあるのは、機能を極限まで追求したクルマだけが持ちうる“仕事場”だった。

3ペダル・マニュアルミッションのみの設定で、飾った装備などまるでなく、最新モデルのケレンミたっぷりな演出に慣れきった人は唖然とするはずだ。逆に、道具にこだわった仕事や趣味を極めた人ならば、たちまち虜になるだろう。デザインやマテリアル選びに、純粋な普遍性を感じ取るからだ。

走りは、いたって大らかである。乗り心地も悪くない。最新モデルとはまるで異なる走りアジは、大きなオフロードタイヤと余裕のあるサスペンションストロークによるところが大きく、ワンテンポ遅れてノーズが動く。もっとも、その感覚を身体がリズムとして覚えるまでに、さほど時間はかからなかった。鼻先がシャープに動くスポーツカーとは対極にあるが、それもまた面白いものだ。

もちろん、オフロードの走破性がこのクルマの性能において、イチバン高く評価されるべき項目だけれども、だからといって街中で無用の長物というわけではない。とにかく、泰然として、落ち着き払って走る。クルマも、そしてドライバーも、そうなのだ。最低限の運転操作をこなしつつ、実に冷静なドライブに、知らないうちになっている。ボクには、運転している最中の、あの安心感こそが、今、ランドクルーザー70を選ぶ最大の理由じゃないかとさえ思えた。

それは、世界の道を知っているという自信と、60年に渡って進化し続けてきた誇りの賜物でもあるだろう。その価値は、普遍である。

わずかな期間だけ販売された右ハンドル+MT+ガソリンエンジンという“レア”な日本仕様のランドクルーザー70は、将来にわたって語り継がれる“ランクル史”の1頁になることは間違いない。世界のクルマ好きを魅了した、40年以上も前の、あのグリーンのFJ43のように。

西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近のテーマ。精密機械工学部出身。

《西川淳》

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