【クラウドカーナビ最前線】リアルタイム性と検索精度向上の飽くなき追求…Yahoo!カーナビ

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Yahoo! JAPANマップイノベーションセンター センター長 石田幸央氏
  • Yahoo! JAPANマップイノベーションセンター センター長 石田幸央氏
  • Yahoo! Japanシステム統括本部 サービスマネージャー 兵藤 安昭
  • Yahoo!カーナビ(iPad)
  • ルート検索では「おすすめ」、「高速優先」、「一般優先」の3種類のルートから選ぶことができる。画面上の「ルート」アイコンをタップすると経由地の追加ができる
  • ガイド中の画面。左上の矢印が大きすぎず、バランスが良くなった。また、タブレットを横位置にすると右端に交差点右左折案内が表示される
  • 今や必須といえる、ETCレーンの表示。画面が大きいので無理なく表示できる
  • ハイウェイモードと地図を2画面で表示できるようになった。やはり高速道路でも地図があったほうがわかりやすい
  • 高速渋滞マップ。今の季節だとチェーン規制や雪による通行止めを確認するためにも非常に便利だ

無料でありながら、スマートフォンでの使いやすさを追求した検索機能とユーザーインタフェース(UI)を持たせながら、VICS対応やガソリン価格や駐車場満車空情報などの充実したオンラインコンテンツを擁して登場したスマートフォン向けナビアプリ「Yahoo!カーナビ」。

2014年夏のリリース以来、1ヶ月足らずで100万ダウンロードに達するというナビアプリとしては驚異的なスピードで普及し、この2月には250万ダウンロードを突破。ナビゲーションの世界に大きなインパクトを与えたYahoo!カーナビは今後、どのような進化を遂げていくのか。

3月11日より開幕する国際自動車通信技術展(ATTT)でのパネルディスカッションに出席予定で、Yahoo! JAPANマップイノベーションセンターのセンター長である石田幸央氏と、サービスマネージャー の職にあって開発現場を指揮する兵藤安昭氏にナビアプリの将来像とビジネスの展望について話を聞いた。(聞き手:神尾寿)

◆カーナビの進化が止まっていた「検索」にフォーカス

----:2014年の7月末に鳴り物入りで登場したYahoo!カーナビですが、ダウンロード数の伸びはいかがですか。

石田:お盆前の2014年7月31日にリリースし、帰省渋滞が発生するタイミングで使っていただけたことは大きいですね。そこから1ヶ月足らずで100万ダウンロードを達成し、年末までには200万を超える勢いです(2月末時点でのダウンロード数は250万超)。

----:好評の要因は無料というところが大きいのでしょうか。

石田:Google Mapsをはじめとして、無料で利用できるカーナビアプリは他にもありますが、Yahoo!カーナビでは、VICSや駐車場の満車空車情報、ガソリン価格情報など、これまで一般的には有料版のナビアプリでしか利用できなかったオンラインコンテンツを揃えたことで、カーナビとして充実した機能面がご好評いただいています。アプリストアのランキングでは、ナビゲーションのカテゴリーだけではなくて、総合ランキングで上位に名を連ねることもあり、想定よりも良好なペースで普及していると思います。

----:カーナビゲーションとしての機能を充実させつつも、スマートデバイス向けに最適化されたUIは他社のアプリとは一線を画していますね。

石田:スマートフォン向けのナビアプリということで、検索機能には特に力を入れています。据え置き型のナビの場合、名称検索はタッチ回数が多く、ジャンル検索だと階層が深いですし、音声検索は精度が良くない。ですがYahoo!カーナビですと、フリーワード検索はYahoo! JAPAN検索のような使い勝手を持たせています。

----:インクリメントサーチ(一部の文字列入力で検索結果候補が即座に表示される逐次検索のこと)が付いているのが良いですね。また、検索結果の出し方もドライブ用途に最適化されています。たとえば、ショッピングセンターを検索した際には、ナビの目的地となりやすいセンター本体がまず出てきて、その下にテナントが並ぶという形式も適切です。

石田:私どもでは「サジェスト機能」と呼んでいて、サジェストすべきランドマークやスポットを私たちが編集した順位で決めていますので、探したいものが検索結果の一番上に表示されるようにという所には強くこだわりました。据え置き型のナビで進化していない部分は、Yahoo!カーナビにとっての勝負の場であると強く意識しました。とくに検索は、スマホらしいユーザーインターフェースに変えて行けば、必ず勝機がある。この当たりの苦労は、アプリ開発を統括した兵藤から話してもらいます。

兵藤:Yahoo!カーナビの開発に当たっては、ローンチするまでに4回くらいUIを変えているんですよ。その度にいろいろと揉めました(笑)。やはり既存の車載カーナビを意識しているところがあるので、「ここは車載ナビに合わせても良いんじゃない?」という気持ちになるんですよね。でも、やはりスマホのアプリとして出す以上はスマホならではの使い易さにとことんこだわった方が良いんじゃないかと。社内のいろんな人に使ってもらったり、インタビューしたりして試行錯誤を繰り返して作り込んでいきました。

◆音声検索はコマンド型・エージェント型両面を見据えて進化目指す

兵藤:また音声検索も、想定していたよりよく利用されており、正直驚いています。

----:音声認識は、最初の何回か試してみて上手くいかないことが何回か続くと「もういいや」と、大多数のユーザーが利用するのをやめてしまうんですね。でもYahoo!カーナビはほとんど間違えずに認識してくれます。

石田:かなり長いセンテンスで発話しても最後まで聞き取って検索してくれるというのは、私たちも気に入っていて、実際テストなどで利用する際も音声で検索する頻度の方が高いのです。

----:音声検索は、従来のカーナビのようなコマンド型とAppleの「Siri」やドコモの「しゃべってコンシェル」に代表されるエージェント型に大別されると思いますが、御社はどちらを重視していますか。

石田:精度を上げていくということでは、両方に対応するというのが前提ですが、情報の精度を高めて行くというのは実用面では必須といえます。一方、自然言語解釈で次のアクションを推測していく方向は、エンターテイメントという面で可能性を感じています。

◆Yahoo! JAPANの資産を有効活用

----:検索やルートのパーソナライズについてはどのようにお考えでしょうか。

石田:Yahoo!カーナビはスマホのアプリなので、車内で検索しなくていい便利さがあります。家や車外で目的地を予めセットして、運転席に座ったらあと起動するだけ、という使い方なのですね。「出かける前にどこ行こうかな」と楽しんで探したり、以前の行き先がもう履歴で表示されているということで、リコメンドの機能がすでにある程度カタチになっていると思います。今までの車載カーナビではこういうことは全くできませんでしたから。その意味ではより個人に寄り添ったカタチでのサービスが提供できていると思っています。

----:Yahoo! ロコの施設情報もかなり活用されています。Yahoo! ロコのPOI(スポット情報)は情報の量・質ともに非常に充実していますが、これも設計段階から取り込むつもりだったのでしょうか。

石田:Yahoo!地図とロコは、強く連携していますので、このままYahoo!カーナビでも採用しようと考えていました。私たちの集めたものだけでは、非常に基本的な施設情報しかありませんので、Yahoo! ロコが集めた付加情報を表示する方が利用者の満足度が高いはず、という判断です。

----:他に既存のナビアプリとの差別化ポイントはどういったところにあるでしょうか。

石田:Yahoo! JAPANの持つ潤沢なインフラを利用できるということでしょうか。無料で、なおかつ本格機並みの機能を(地図や検索データベースを端末本体に収録しない)オフボードの通信ナビで実現し、多くのユーザーに使っていただけるのは、インフラ資産のおかげだと思っています。

◆マネタイズは多角的に検討

----:それでは核心部分のマネタイズについて伺います。ここまで機能を充実させたカーナビアプリを無料で提供することの背景には、どのような狙いがあるのでしょうか。

石田:Yahoo! JAPANとして、車に特化されたサービスはこれまで皆無でした。首都圏であれば、車を使わずに電車やバスなどの公共交通の利用が多いですが、地方に行くほどに交通手段としての車の役割は高くなるはずです。またYahoo! JAPANは首都圏以外のところでの認知があまり高くないということも分かっているので、地方にお住まいの皆様の認知度を獲得するには、車空間というのは非常に重要だという結論に至りました。

----:そうして立ち上がったYahoo!カーナビプロジェクトですが、現状を見ると、VICS対応をはじめとしてかなり戦略的な投資ですね。ナビアプリを通じて、リアルの人の動きがどれだけネット側から把握できるか、カバーできるかという位置づけになるのでしょうか。

石田:VICSやガソリン価格などのオンラインコンテンツは、Yahoo! JAPAN IDでログインしていただく必要があるので、その意味ではYahoo! JAPANサービスとの接触機会増大という狙いがあります。おかげさまでダウンロードは順調に推移しており、その意味で間接的にはビジネス機会の創出には結びついています。ただ、これからは「いかにしてビジネスしていくか」は、私たちとって取り組まなくてはいけない課題です。

----:従来のカーナビアプリベンダーとは全く異なるビジネスモデルで進めていこうとしているところがYahoo!カーナビの強みとは感じます。

石田:ユーザーから回収するよりも、企業からお金をいただくモデルを考えられないかなと思っています。例えば損保会社やアフターマーケットでの連携などですね。ユーザーには無料でのサービス提供を基本としつつ、いろんな形での回収モデルを考えていきたいと思います。

----:将来的には車載器メーカーやカーメーカー向けに、Yahoo!カーナビをベースにしたクラウドカーナビサービスをOEMで提供する可能性もあり得ると思うのですが。

石田:ぜひ、やらしていただきたいと思っているのですが(笑)。自社展開の製品サービスを取り組まれているところもありますし、どのように協力していただけるかを話し合っていければと思います。

◆“攻め”のプローブ活用の可能性

----:OEM提供の如何を問わず、ナビアプリはコンテンツサービス、ナビサービスとしてのクオリティがtoCでもtoBでも求められてくるでしょう。そこで地図と渋滞情報の2つが中でもかなり激しい競争領域になると思われます。

石田:地図は年に数回の更新サイクルで行っていて、そこを補完する形で、施設や道路の重要な部分は、自社でメンテナンスしています。あとは利用者の検索結果を解析しながら上位に表示される重み付けを変更するなどの更新を随時かけています。

----:日本の都市部は道路が非常に複雑な三次元構造になっていて、この対応がナビゲーションの差になってくると思うのですが。

石田:やはり車から取得できるデータを把握することである程度解決可能になるのではないでしょうか。私たちも三次元表現を頑張っていて表示面では対応していますが、高低差をより高精度に検出できれば、よりリアルなナビゲーションが可能になります。

----:次に渋滞の話なのですが、プローブの渋滞情報を今後どう使っていくのか、また渋滞情報の高度化は御社としてどう考えていますか。

兵藤:渋滞情報にプローブを活用することはもちろん視野に入れています。VICSだけでは、表現しきれないところがありますので、そこをプローブで補完できる。もちろん、個人を特定するような情報はすべて除外したうえでの利用です。

石田:渋滞情報のような既存のプローブ活用だけでなく、これまでにない活用法も考えたいですね。一番交通量が多い箇所とユーザーの検索を解析して、何で渋滞しているのかが分かります。例えば、渋滞と交通規制がかかっている、ここに祭りがある、というのが分かります。そのイベントに応じて、周辺の駐車場で空いているところを提案する、という流れが作れます。これがスマホを使ったリアルタイムのカーナビならではのやり方かなと。

◆「スマホカーナビと言えばYahoo!カーナビ」という存在に

----:渋滞や駐車場以外で、注目しているリアルタイムコンテンツは何かありますか。

石田:ガソリン価格投稿サイトの「e燃費」と連携して、スタンド毎の価格情報を提供しています。ユーザー側からも情報をどんどんアップできるので、データの鮮度や質の向上を図っていければ理想ですね。あとはクーポン。たとえば「この時間だけ、4人で来ていただければ、一人100円割引します」というように、リアルタイム性のあるサービスができるのではと思います。Yahoo!予約というサービスもありますので、Yahoo!カーナビとの連携も可能かも知れません。

----:地図表現を含めたユーザーインターフェース(UI)にこだわっているポイントはありますか。

石田:Yahoo!地図もYahoo!カーナビも、すべての地図表現、地図エンジン含めて我々で開発をしました。UI設計が一番得意なところですので、今後もより重視して行きたいと思います。

----:最後に、今後Yahoo!カーナビとしてどのようなポジションを狙って行くのかをお聞かせください。

石田:スマホのカーナビとして、真っ先に使っていただけるカーナビとして位置づけていただけることが理想です。外で探して車の中で使って、地図と連携しながら、ドアtoドアで移動のサポートアプリとして使っていただけるようなものになっていければ良いなと。また、より使っていただくことで、お得になったりとか、便利になるような機能を盛り込みたいですね。Yahoo!カーナビがカーライフ周りにおけるYahoo! JAPANのエコシステムを生み出していければと思っています。

※本インタビューは2014年12月下旬に実施しました。

《まとめ・構成 北島友和》

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