【池原照雄の単眼複眼】年明けに後遺症はないか? 軽2社のシェアトップ争い

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ダイハツ ムーヴ(左)と スズキ ハスラー(右)
  • ダイハツ ムーヴ(左)と スズキ ハスラー(右)
  • スズキ鈴木修会長
  • ダイハツ工業の三井正則社長
  • ダイハツ ウェイク
  • ダイハツ・コペン
  • ダイハツ タントカスタム
  • スズキ ワゴンR
  • スズキ ハスラー

スズキに8年ぶり奪還のチャンス

2014年の軽自動車の新車販売は、2年連続で最高を更新するのが確実となっている。消費税引き上げの影響はあったものの、3月までの貯金が大きく、その後の反動減も登録車よりは軽微だった。加えて、スズキとダイハツ工業による激しい首位争いが市場を過熱させたのも否めない。

2006年以来、8年ぶりの首位奪還をめざすスズキは11月までにダイハツを5000台強リードしており、両社の攻防が続く。実需の伴わない新車届け出が膨らむようでは、年明け以降のマーケットに後遺症が必至だが、果たして…。

1~11月の軽自動車販売は前年同期を6.6%上回る207万台と、すでに過去2度しかない200万台の大台に乗せた。通年では13年の約211万台を超えて2年連続の最高となる。また、11月までの新車総販売に占める軽自動比率は40.4%と、1970年代以降では初めて4割を突破している。

スズキの『ハスラー』、ダイハツの『ウェイク』といった新ジャンル商品の登場に加え、ホンダや日産自動車・三菱自動車連合による新製品強化も軽市場を拡げた。ハスラーが1年を通じて販売増に寄与しているスズキは、1~11月のシェアを30.7%とし、ダイハツの30.5%を抑えてトップに立った。

この7年間は2位に甘んじていたが、首位奪還が見えてきた今年は違う。鈴木修会長兼社長は11月の決算発表時に「ダイハツさんとは20年から30年トップ争いをやっている。企業の発展に競争は必要だし、永遠に続く。死に物狂いでやっているわけだから」と述べた。ライバルを名指しして強く意識した発言は、そのまま「奪還宣言」と取れるものだった。

◆「未使用車」生みやすい独特の流通ルート

ダイハツがトップに立った2007年当時まで、軽自動車業界では「新古車」と呼ばれる商品が相当出回っていた。販売業者名義の新規届け出によってナンバーを取得したクルマのことで、いわばシェア争いの副産物だ。実際のユーザーは付いていないので実質は「新車」だが、ナンバーは交付されているので「中古車」でもあることから「新古車」と呼ばれた。

その後は業界1、2位が動かないなか、ほとんど死語になっていった。ところが、このところ「未使用車」という、呼び名は異なるが同義語のクルマを見かけるようになった。最近も軽自動車や中古車を扱う近隣の整備業者(千葉県内)のチラシに出ていた。

新古車や未使用車が出るのは、軽自動車独特の流通ルートも一因だ。それはメーカーと直接取引するディーラーのほかに、ディーラーが卸したクルマを扱う「業販店」の存在である。業販店の多くは地域に密着した整備工場であり、軽自動車を中心とした新車も扱っている。

とくに地方での流通には欠かせない存在であり、軽自動車販売ではスズキが7~8割程度、ダイハツも約5割を業販店ルートに依存している。両社の系列ディーラーは小売りと卸売りという2面性をもっており、ほぼ全数が小売りの登録車ディーラーと大きく異なるところだ。

そうした2面性はメーカーのインセンティブ(報奨金)政策によって、自社届け出による未使用車を発生させやすい体質ともなっている。仮にディーラーが自社届け出を抑制しても、業販店へのインセンティブのさじ加減によっては未使用車の発生を招くからだ。

◆相対目標より自社目標優先で年末に臨むダイハツ

販売量(シェア)でトップになるのは、企業価値やブランドへの信頼性などを高める一定の効果はある。ただし、資金に依存した過度なシェア競争は、逆に収益やブランド価値の劣化をもたらす。軽自動車はいま、メーカー各社の努力によって、性能や品ぞろえ、個性といった商品力の面でかつてない充実期を迎えている。それに伴って販売競争の激化も招いているが、各社が商品への誇りをもって顧客に対峙してもらいたいところだ。

先週12日のダイハツ『ムーヴ』の新型車発表会見。シェア争いについて三井正則社長は「今年暦年の計画である66万台を過達させることを最大の目標にしたい。その結果シェアがどうなるかは、他社のこともあるので分からない」と述べた。ここに来て、シェアという相対目標よりも自社目標優先の構えを明確にした。

同社の11月までの販売は63万台強に達しているので、66万台を超えるのはほぼ間違いない。仮にシェアが2位に後退しても販売目標は達成したということで、“喪失感”を抑えることもできよう。消極策と言えばそうかも知れないが、収益を棄損させる消耗戦より、はるかに健全な目標の立て方だと思う。

《池原照雄》

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