【インタビュー】マツダのグローバルデザインはこうして生まれた…前田育男デザイン本部長

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マツダ 前田育男デザイン本部長
  • マツダ 前田育男デザイン本部長
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  • マツダ 前田育男デザイン本部長
  • マツダ 跳(HAZUMI)ジュネーブモーターショー14
  • マツダ 跳(HAZUMI)ジュネーブモーターショー14
  • マツダ 跳(HAZUMI)ジュネーブモーターショー14
  • マツダ アクセラ
  • マツダ アテンザ

新型『アクセラ』が発売から4か月で国内2万5000台超を販売、『アテンザ』『CX-5』を含めたSKYACTIV技術搭載車が世界生産で100万台を突破するなど、グローバルで好調なマツダ。その一役を担うのが、CX-5に始まる「グローバル・ワン」をスローガンとした、ブランドを強調する統一化したカーデザインだ。

3月にスイスで開催されたジュネーブモーターショーでは、まもなく正式発表される次期『デミオ』のデザインコンセプト『跳(はずみ)』を発表。アクセラ、アテンザなどと共通の新デザインを採用し、小型ながらマツダブランドであることを強烈に印象づけるモデルとなった。

ブランド共通デザインという考え方は、欧州車などではすでにスタンダードだが国産では先駆者とも言えるマツダ。そのコンセプトはどのようにして生まれたのか。マツダが考える「グローバルデザイン」とは。デザイン本部長・前田育男氏にマツダデザインの“今”を訊いた。

懐が深くなったマツダデザイン

----:モデル間での共通デザインというコンセプトはどのようにして生まれ、採用されたのでしょうか。

前田育男氏(以下、前田):デザインチームが主導しました。こうしたイメージというものはロジックで考えるものではありません。我々アーティストがイメージを含めたブランドのデザインを牽引しなければと考えています。海外のクルマ作りではそれが普通ですよね。また、我々デザイン側の要求を、マネージメント側が許容してくれたからこそ実現できたのだと思います。

----:CX-5以前と以後で、デザインに対するアプローチは変化している?

前田:僕の中では全く違います。ブランドを持ち上げてクルマをデザインする、という考え方は『RX-8』や『ミレーニア』を担当していた頃には全くありませんでした。RX-8はいかにスポーツカーとして、スポーツカーらしいものにするかを考えていた。ブランドという意識はゼロではなかったけれど、それを持ち上げるという意識はありませんでした。今、RX-8を作ったらあの形にはなっていないでしょう。

例えば、フロントグリルはシンボルにされるものです。以前は二次元的な「5ポイントグリル」としてマツダブランドのイメージを作っていました。現在の「シグネチャー・ウイング(グリルの下端からヘッドライトを縁取る銀の装飾)」は造形を三次元に流し奥行きを付けるものです。二次元を三次元に変えて行く。造形の始点はフロントのセンターであり、終点はリアのセンターであり、全てはひとつのかたまりなのです。だから律儀に「5ポイント」にこだわらなくてもいい。そういうマインドチェンジもやってきました。

そういう意味では、私の考え方も変わって成長したし、マツダも、ブランドそのものも成長した。同時に、SKYACTIVによってクルマの乗り味も大きく変わった。今、商品とブランドが大きく上に向かっている所なんだと思います。懐が深くなった、そこが大きな違いです。

----:SKYACTIVと新デザインの投入はほぼ同時。これは狙い通りなのでしょうか。

いいえ、僕がこのポジションに就いたのも、SKYACTIV技術の開発も、同時多発的に起こったことで(同時にリリースできたのは)まったくの偶然です。際どい運命が、たまたま上手くリンクした。このタイミングを逃していたら、ブランドは出来なかったかもしれない。だからこそ、我々は必死なんです。

グローバル・ワンで日本らしさを追求

----:「ブランド」を重要視するきっかけは?

前田:日本には9つのブランドがあって、性能は均一化されてきつつあって。値段競争も激しくなり、ごく普通の、一般的なクルマを作り続けるだけではこの数年で消えて行ってしまうでしょう。ではそこで今、何をすべきか。クルマ自体の価値だけでなく、ブランドの価値を高めて行くことです。

(クルマを買う時に)「ブランドを買う」という時代はもう見えている。そんな時に、アベレージ・ブランドから一段上のプレミアム・ブランドに引き上げて行かないと絶対に消えてしまう。だからこそ我々はブランドそのものを強くプッシュしたんです。消えたくはないですからね。

----:そうして出来上がったデザインがグローバルでも評価されています。一方で、地域ごとにアプローチを変えるという方法もありますが。

前田:より大規模な企業であればリージョナル・ベストという考え方もできますが、変化球は投げません。マツダは「グローバル・ワン」です。ある美しさを極めていけば、万国共通で誰もが良いと思うものができると信じています。

----:マツダ車がめざす、グローバルで通用する美しさとは?

前田:(マツダ車は)欧州では欧州の風景に馴染むし、日本では逆に欧州車みたいだと言われる。面白いでしょう。それがオリジナリティなんです。クルマの本質的なプロポーションにこだわっているのが、評価頂いているポイントなんだと思います。

一方で、デザインについては「日本」でなければならないと、特に最近考えているんです。グローバルで戦っていくなら日本らしさは必要。「竹」とか「障子」とか使っちゃだめですよ(笑)即物的な様式を出してはだめ。「研ぎすます」だとか「凛としている」とか、日本の文化や空気感、日本の美が持つ緊張感を表現できたら胸を張って「日本デザインだ」と言える。

ドイツで「ドイツ車みたいだね」と言われたらそれはただのコピー。「日本車っぽいね」ではなく「日本ぽくてエレガントだね」と言われたことがあるんですが、これは嬉しかった。見てくれる人がいたな、と。

----:「赤いクルマ」を強調した展示や広告が印象に残ります。ジュネーブや東京モーターショーではブース全てのクルマが赤で統一されていました。

前田:エモーショナルな会社でありたいという意思の表れです。また、マツダの歴史を振り返るとヒットしたクルマには赤をメインとしたものが多いんです。『MPV』や『ファミリア』もそうでした。「ソウルレッド」ならブランドを体現できるのでは、と。皆さんに「マツダといえば赤だね」と思ってもらえるまでは、これで行こうと思っています。

「魂動」はデザインの哲学

----:デザインコンセプトとして掲げている「魂動(こどう)」と、今のマツダ車のイメージはずいぶんリンクして浸透してきたと思います。今後のマツダデザインの課題とは?

前田:魂動は私のデザインの哲学です。道具に命が宿る、と言いますが同じようにクルマを活きた形にすること。それは、私が死なない限り続けていきたい。

なぜ「生き物のように」とか「命を吹き込む」と言い続けるかというと、クルマをひとつ上の概念として捉えた時に、常に相棒的な存在であり続けたいと思っているんです。マシンでも道具でもなく、相棒。だから尖ったものを作るつもりはないし、身内のような印象を与えることはすごく大切にしています。だけど、フレンドリー=笑った顔、ということではなく、懐の深さとか立体感だとか、そういったデザインを意識しています。

一方で、表現手段は進化していかなければいけないし、同時に革新も必要でしょう。やっぱりデザインは、守ったらだめだから。守った瞬間に落ちて行く。常にチャレンジしていくという姿勢を持っています。

核となる哲学はキープしたままで、どんどん引き出しを広げて行く。皆さんが「こういう手段があったか」と感じてもらえて、でも「やっぱり魂動ファミリーだね」というところを目指して、色んな布石を打って行きたいと思っています。

《宮崎壮人》

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