ホンダが9月にフルモデルチェンジを予定しているコンパクトカー『フィット』。3代目となる次期型のパワートレインでは新ハイブリッドシステムが注目されているが、グローバル最量販ユニットとなるのは、ベーシックな1.3リットル直4であろう。
次期フィットの1.3リットル直列4気筒DOHCは、現行モデルの改良型ではなく、全面新設計。エネルギー効率の高いアトキンソンサイクル方式を採用しているのが最大の特徴で、最高出力は現行モデルと同じ100ps、最大トルクは0.9kgm低い12.1kgm。
圧縮比をノッキングしない程度に抑え、膨張比を大きく取るアトキンソンサイクル
アトキンソンサイクルとは、エンジンの吸気行程より爆発後の膨張行程のストロークを大きく取る形態のこと。普通のエンジンのオットーサイクルは、気筒内に吸い込んだ空気を圧縮する距離と爆発後に膨張する距離がほぼ同じ。つまり圧縮比と膨張比がほぼ等しい。それに対してアトキンソンサイクルは圧縮する距離より膨張する距離のほうが長く、圧縮比<膨張比となる。
エンジンは基本的に膨張比を大きく取ったほうが熱効率が良くなるという原理がある。が、圧縮比と膨張比がほぼ等しい状態で膨張比を大きくしようとすると、圧縮比が高くなりすぎてノッキング(異常燃焼)が発生する。アトキンソンサイクルは圧縮比をノッキングしない程度に抑え、膨張比だけを大きく取ることで、熱効率を高める方式である。
自動車用エンジンでアトキンソンサイクルを作る場合、吸気バルブを早く、あるいは遅く閉じて擬似的に圧縮の距離を短くするのが一般的で、それは一般的にミラーサイクルと呼ばれる。その意味では新1.3リットル、新ハイブリッド用1.5リットル、トヨタのハイブリッドカー用エンジンなどはすべてミラーサイクルだ。ちなみにマツダは最初からミラーサイクルと称している。
1.3リットルアトキンソンサイクル+ベルト式CVTを試乗…パワーは不足ないが新開発の情感もない
次期フィットの1.3リットルアトキンソンサイクル+ベルト式CVT(連続可変変速機)モデルを、北海道にある同社のテストコース「鷹栖プルービングセンター」で短時間ながらテストドライブしてみた。
発進や中間加速時にある程度大きなトルクを発生させると、いかにも希薄燃焼に近いギリギリの理論空燃比を保っていますよという感じの、ビート感の薄い平板なエンジン音が室内に侵入してくる。ボディ側の遮音はそこそこしっかりしているので騒音レベルが高いわけではないが、“サウンド”というよりは“ノイズ”という表現のほうが似合っているように思われた。パワーはベーシックカーを普通に走らせるうえでは何の不足もなく、さらにパワーが必要なときにはオットーサイクルに近い運転で最大100psが得られるが、さすが新開発のエンジンだと思わせるような情感はない。
よく考えればベーシックカーの実用エンジンはもともとそんなものなのだが、ハイブリッドや1.5リットル直噴に比べると質感は明らかに低い。とりわけ直前に乗った1.5リットル直噴が爽快感抜群だっただけに、変に落差が大きく感じられたのかもしれない。
エンジンの内部損失低減という“頑張り”が垣間みられた
面白みのなさの代償というわけではないが、高効率仕様の恩恵は小さくなかった。アクセルオフ時にはCVTがエンジンの燃料カットが行われる下限の回転を緻密に維持するようにセッティングされていた。エンジンブレーキ効果による失速の度合いは現行モデルと比べてもずっと少なく、エンジンの内部損失が相当削減されているふしが伺えた。
試乗に用いた「EU郊外路」はコーナリングが連続し、路面も荒れているというヨーロッパの山岳地帯にありがちなレイアウトで、もみの木や白樺がブラインドコーナーを作っているところまでヨーロッパ的というコースだった。
最高速度90km、最低速度40km、さらに数か所の一旦停止をこなして帰着した時の平均燃費計の数値は17.5km/リットル。省燃費走行とほど遠いドライブの結果で、エコランを意識して、アトキンソンサイクル領域を上手く使えば燃費を大きく伸ばすことは難しくないだろう。
燃費競争は激化の一途…次期フィット1.3は燃費面でリーディングモデルになれるか
次期フィット1.3のJC08燃費値は試乗会のときには明らかにされなかったが、スペック面で好敵手となりそうなマツダ『デミオ スカイアクティブ』の25.0km/リットルは余裕で超えるという。折しもスズキが『スイフト』にデュアルジェットエンジンなる新技術を投入し、26.4km/リットルを達成してきた。非ハイブリッド分野でも燃費戦争が激化するなか、次期フィットがどの程度リーディングモデルとなれるかも興味深い。