【池原照雄の単眼複眼】燃料電池車提携‥‥“単独走行”は大きなリスクに

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会見のようす
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  • ホンダの燃料電池車 FCXクラリティ(参考画像)
  • シボレー・エクイノックスがベースの燃料電池車

日本勢が世界の「競争と協調」をリードする

燃料電池車(FCV)をめぐり、この1週間にホットな動きが相次いだ。ホンダと米GM(ゼネラルモーターズ)は7月2日、基幹技術と水素貯蔵システムの共同開発で提携した。先週末には、国連の国際標準の関係機関がFCVの安全基準について、日本案に沿った基準を採択した。今世紀半ばには中核的な自動車パワートレインとなるのが必至と目される技術で、日本勢が世界をリードしながら「競争と協調」を推し進める態勢が整ってきた。

日本メーカーはFCV技術で世界のトップを走っており、今年になってトヨタと独BMW、日産自動車と米フォードモーターおよび独ダイムラーという2グループの提携が動き出していた。

ホンダは累計85台に及ぶ十分なリース販売の実績、太陽光発電と水素製造を組み合わせた独自の燃料供給システムの開発など、FCVでの存在感を示してきた。それだけに、提携戦略が注目されていたが、米メーカーでは最も技術蓄積のあるGMと組むことになった。

開発スピードとコスト低減は単独では‥‥

両社は、2000年にエンジンなどの相互供給で提携したことがあり、GMは03年から一時期ホンダのV6ガソリンエンジンと自動変速機を調達した。そうしたホンダの技術を評価してきた経緯が、今回の提携につながったといえる。ホンダとしても、技術蓄積で先行はしているものの、他の国際提携グループによる商品化が20年までに一斉に始まるというのは脅威だったはず。

開発から生産技術の確立、量産化へと至る期間を縮め、かつコスト低減での競争力をつけるには、もはや単独で走るのが大きなリスクになっている。それがFCVの開発競争だ。ホンダの伊東孝紳社長も今回の提携について「両社の得意技術を融合させて、高性能で低コストの燃料電池システムを共同開発する」必要性を強調している。世界の主要メーカーでは今後、独VWや韓国ヒュンダイといった企業も他社との連携を急ぐことになろう。

日本各社は1990年代の初頭から燃料電池の技術開発を進めてきたが、02年にトヨタとホンダが公道を走ることができるFCVを数台ずつ日本政府にリースで納入。そこから世界でも先進的な開発を加速させていき、国内外でのリース事業を通じて車の性能や水素供給システムの実証実験などに取り組んできた。

政府は「世界最速普及」へ大胆な後押しを

トヨタ、日産、ホンダは、それぞれ日米欧3グループの連合体で開発を進める一方、いずれも15年には市販化をめざしている。採算性を度外視した実証実験のためのリース販売から、妥当な価格での売り切りに踏み出すもので、価格は500万円レベルが目標と見られている。

国内では安倍晋三内閣が6月に、成長戦略の一環として規制緩和などによるFCVの「世界最速普及」方針を閣議決定した。FCV普及のインフラ面での最大のハードルとなる水素ステーションでは官民の取り組みが本格化している。現状では15か所程度のステーションを各社の市販が始まる15年度までに、まず大都市圏を中心に100か所まで増やす計画だ。1か所あたりで4~5億円程度と投資がかさむため、経産省は国が半額を補助する事業を今年度から始めた。

FCV技術でのリーダーをしっかりキープすれば、少なくとも今世紀半ばまでオールジャパンとしての自動車産業は、世界で現状のトップシェアを守ることができるだろう。世界初の量産化から15年を経たハイブリッド車(HV)は、民主体の努力で本格普及期を切り拓いたが、FCVでは政府が国家戦略として描きつつある後押し策を大胆に進めるべきだ。

《池原照雄》

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