【NEE2013】フューチャースクール3年間の統計学的分析結果…東工大 清水名誉教授

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東京工業大学 名誉教授 清水康敬氏
  • 東京工業大学 名誉教授 清水康敬氏
  • 総務省フューチャースクール推進事業が作成したガイドライン2013年版
  • 協働教育の場面の統計
  • 協働教育とICT機器の関係
  • 学年別協働教育の違い
  • 小学1、2年生によるICT教育の評価
  • 小学1、2年生によるICT教育の評価
  • 小学3~6年生によるICT教育の評価

 フューチャースクールは総務省が主導する、学校教育におけるICT利活用促進プロジェクトのひとつで、特に小中学校を対象に、電子黒板や1人1台のPCまたは情報端末を導入した授業の実証実験を行うというものだ。同プロジェクトについては、公開授業や各種カンファレンスでの講演、プレス発表等で取組みや効果について紹介されることも多い。

 これらの発表や報告会では、電子黒板による授業の効果や子どもたちの意識向上などの効果が紹介されることも多いが、その真偽に疑問をもつこともあるかもしれない。子どもたちは珍しさで「面白い」と答えているだけではないだろうか。

 New Education Expo 2013(NEE)の専門セミナーで、東京工業大学 名誉教授 清水康敬氏は、3年間のフューチャースクールの授業記録やアンケート結果についての統計学的な分析結果の発表を行った。プロジェクトは平成25年度まで行われるため、最終的な調査報告書は2014年3月までにまとめられる予定だが、現在までの統計データの検証を行ったものである。

分析は科学的かつ客観的になるよう配慮

 清水氏は、フューチャースクール推進研究会の座長を務める立場だが、データの分析には科学的手法を用い、客観的な評価につながるように、アンケートの回答結果と年度ごとの変化について、1%および5%の有意水準に対する評価も行った。たとえば、電子黒板の授業について「よくわかった」と答えた生徒が開始時と1年後で増えたとしても、それが回答の誤差の範囲なのか、確率的にも確かに増えたといえるものなのか、その目安も計算したという。

 「1%水準で有意」といった場合、簡単に言えば同じ状況で同じアンケートを100回実施すると1回は違う結果になる状態を意味し、5%水準で有意は、100回に5回は異なる結果になるということを意味する。一般に5%水準で有意ならば、その傾向の信頼性はかなり高いといわれている。また、中学校での実証実験では、文章による記入式アンケートも行われ、これについてはテキストマイニングの手法でキーワードの傾向からも、効果や生徒の評価を分析した。

 なお、分析のベースとなったのは、小学校10校、中学校8校、特別支援学級2校であり、授業数で小学校が16,013授業、中学校で17,699授業となっている。詳細データは、総務省のフューチャースクール推進事業のホームページからダウンロード可能とのことだ。

教員のICT指導力向上は確認された

 まず、授業におけるICT活用の目的のひとつである協働教育について、小学校では同じ課題に対する話合いや、1人の提案を全員で考えるという場面の割合が多く、中学になると数名での教え合いや議論の場面が多くなった。相互に教え合う場面は小中学校での差はみられなかった。清水氏は、これはICT利用による傾向ではなく、年齢に応じた授業スタイルや指導要領の影響もあるだろうとした。

 協働教育と機器利用の関係では、少数によるグループ協働ではタブレット、およびタブレット+電子黒板が活用され、全体協働では電子黒板が活用された(ともに1%水準で有意)。小学校の学年別の傾向は、1、2年が全体協働、4年から6年がグループ協働に1%水準の有意が認められた。3年生は有意水準での傾向は認められなかった。小中学校における教員のICT指導力の変化だが、教材研究、授業への利用、情報モラルの指導、校務利用などすべてにおいて能力向上が確認された(1%水準で有意)。

小学生は全体協働に効果、デバイスの不満解消が課題

 小学生による評価についてもアンケート結果の分析がされた。小学校のアンケートは、低学年は2択、中学年以上は4択の設問で行われた。低学年(1、2年)は、考えること、友達との話合い、集中力などの項目に効果があったことが確認された(1%水準で有意)。反面、もっと勉強したいという設問では効果の減少(同前)、コンピューターに文字を書きやすいという設問では効果が減少したあと(同前)、増加(同前)が見られた。

 清水氏は、文字の書きやすさについては、デバイスに慣れることでいろいろな応用が広がり、不満が出てきたところにソフトウェアの更新や改良などが行われた結果ではないかと分析した。

 中・高学年では、友人の発表を聞いてみたい、授業に集中できる、自分に合った方法・スピードで勉強できる、などの項目で評価の増加が確認された(集中の項目は5%水準で有意、そのほかは1%水準で有意)。コンピューターの画面は見やすいかという設問は評価が減少した(1%水準で有意)。ディスプレイについては電子黒板、タブレットともに、大きさ、照明の映り込み、画面デザイン等に課題があることが示唆されているとし、こうしたところに改善点やビジネスのヒントがあるかもしれないとした。

中学生はグループ協働に効果

 続いて中学生の評価の傾向は、友人同士の話合い、必要な情報の発見、積極的な授業参加、学習目標の達成、考えを深める、自分に合った学習などの項目で増加が確認された(友人同士と積極的な参加は5%水準で有意、その他は1%水準で有意)。逆に評価の減少が見られたのは、電子黒板での話合い、自分専用のコンピューターへの意向、電子黒板授業への意向、画面の見やすさ、文字や図形の書きやすさ、コンピューターでの発表意欲などである(電子黒板での話合い、自分専用コンピューター、発表意欲は5%水準で有意、他は1%水準で有意)。

 清水氏が注目したのは、設問には、コンピューターでの友人の発表は聞きたいという意欲が高いのに、自分で発表する意欲の減少が確認されたことだ。減少といっても、自分でも発表したいという肯定的な回答は65%を超えており、高い水準であることには変わりない。

 なお、ここで紹介されない設問も多数あったが、それらはICT導入直後と1年目、2年目のアンケート評価で数値的な増加や減少が見られたものの、有意な差は確認されなかったものだ。これは前述の小学校での評価分析にも当てはまる。そして、評価の変化に有意な差は見られなかったが、肯定的な回答の割合は、多くの設問で80%を超えるものとなり、児童・生徒の声としての評価は高いといえる。また、肯定回答が90%を超えるようなもの(楽しく学習できた、など)は高率で安定しており、有意な差が出なかった可能性もあると、清水氏は指摘した。

児童用コンピューターと電子黒板に必須の機能

 小学校教員に対しては、児童用コンピューターと電子黒板に必要な機能についてのアンケートも実施された。児童用コンピューターに必要な機能として上位にあげられたのは、「安定動作」「フィルタリング」「教室内ネット」「安定無線LAN」「充電保管庫」などだった。電子黒板については、「実物投影機能」「映り込み防止」「領域拡大縮小」「内蔵スピーカー」などを必須と考えている教員が多かった。

 最後に、アンケートの「感想」欄について、テキストマイニングにより全体の肯定的意見、否定的意見やキーワードごとの肯定・否定を調べた結果についても発表された。

 全体的な意見について、ICT利用開始直後(スタート期)と1年後の変化を比較したところ、肯定的な意見はともに90%近くと高い水準ながら、1年後の割合に有意な差が見られなかった。逆に否定的な意見は1年で有意な増加を見せた(1%水準で有意)。これをキーワードごとに細かく分析すると、わかりやすい、便利といった単語での評価は1年で有意な増加を見せ(1%水準で有意)、楽しい、という評価が減っている(1%水準で有意)。そして、反応が遅い、ペン・タッチの操作性が悪い、不便である、などの意見が増えている(1%水準で有意)。

 清水氏は、今回の分析では「わかりやすい」という視点とキーワードで評価を行ったが、さらに「楽しい」「面白い」といったキーワードも加え、学習度の向上との関連を調査したいと思っていると言う。

《中尾 真二》

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