【EVバッテリー レポート2011-12 vol.1】脱内燃機関、そしてEVシフトの鍵を握るバッテリー技術

エコカー EV
6日に発表された、改良型の三菱i-MiEV。低価格仕様には東芝製のリチウムイオン電池を採用した
  • 6日に発表された、改良型の三菱i-MiEV。低価格仕様には東芝製のリチウムイオン電池を採用した
  • 東芝のリチウムイオン電池
  • EV-neoプロトタイプ。バッテリーは東芝製チタン酸リチウムイオン電池を搭載する
  • オートモーティブエナジーサプライが開発したラミネート型リチウムイオンバッテリー オートモーティブエナジーサプライが開発したラミネート型リチウムイオンバッテリー
  • 三洋電機リチウムイオンバッテリー
  • リーフに搭載されるリチウムイオンバッテリー(日産・NECの合弁会社オートモーティブエナジーサプライ製)
  • 【EVバッテリー レポート2011-12 vol.1】脱内燃機関、そしてEVシフトの鍵を握るバッテリー技術

2005年から2008年夏ごろにかけて発生した、1バレルあたり150ドル近辺をつけるという原油価格の暴騰は、世界を文字通り震撼させた。さらに東日本大震災時に日本各地でガソリン供給不足が発生し、ガソリンスタンドに長蛇の車列が発生した話題などは記憶に新しい。

経済活動に欠かせない物流の主役、道路交通は、ほぼ全面的に石油エネルギーに依存している。近年、世界の油田の劣化によって石油生産がピークアウトするのではないかと危惧されていたが、石油の枯渇を待つまでもなく、燃料価格が暴騰するだけで経済が壊滅的なダメージを負うことがハッキリしたのだ。

各国の政府やメーカーが電気自動車(EV)の開発に躍起になって取り組んでいる最大の動機は、今後急速に深刻化することが確実視されているエネルギー危機への対応なのである。

EVの開発動機としてしばしば挙げられるもののひとつに、地球温暖化の原因物質とされる二酸化炭素の排出量削減があるが、これは副次的なものだ。アメリカのオバマ大統領が推し進める「New Energy for America」というエネルギー政策では、脱石油社会を進めるだけでなく、新規雇用までも創出し経済を安定させることを見据えている。

自動車メーカーはそれに対応する技術を確立させることが、今世紀後半に向けて生き残る唯一の手段だという認識を持っている。ゆえに、今日においてはまだ商業的に成立しているとはとても言えないレベルにとどまっているEVの開発に執心しているのだ。

そこで今回、これらビジネスソリューションで要求されるEVの高いバッテリー技術に焦点を当て、開発者インタビューや試乗会・発表会などの取材を交えつつ、4回にわたり「EVバッテリー レポート」として連載する。第1回は導入として、脱内燃機関そしてEVシフトを加速させる環境変化と、その普及への鍵を握る技術課題について考察したい。

◆エネルギー危機への対応がEV開発を加速

EVを爆発的に普及させるには、EVをマーケット商品にしなくてはいけない。マーケット商品にするために、各社はどのように戦略を練っているのだろうか。

EVの普及を実現するために不可欠な要素は、さらなる低価格化だ。バッテリーやモーター性能の著しい向上に支えられて、身近な価格になってきたとはいえ、同クラスのエンジン車に比べて2倍ないしそれ以上の価格が現状ではつけられている。ユーザーの大半は政府や自治体、あるいは運輸業者などのフリートユースであり、エンドユーザーがEVを購入するケースはまだ少数例だ。

アウディの電気モビリティ戦略担当者、ハイコ・ゼーガッツ氏は「多くの顧客がEVに強い関心を示しているのは確かだが、実際に購入する場合、既存のクルマに上乗せして支払ってもよいと考えている金額はごくわずかだ。またガレージで充電可能な住宅の割合も、EVのメイン市場となる都市部では低い。価格、性能、インフラなど、いろいろな面で適切なソリューションを提示できたとき、EVは一般化するだろう」とインフラの拡充整備がEVの普及の鍵とみている。EVが実験段階から市販段階への移行期であるこのタイミングで、日米欧の各国では、充電ステーションの急ピッチでの拡充や最新テレマティクスを駆使した給電・充電ソリューションの構築に向けて積極的に取り組んでいる。

2009年に登場した三菱自動車の新世代EV『i-MiEV』に端を発したクルマの電動化のムーブメントは、いまや世界に広がりつつある。日産自動車『リーフ』、本田技研工業『Fit-EV』、三菱自動車『MNICAB-MiEV』などの市販EVが次々に生まれ、また発電用エンジンを搭載して高価な電池の搭載量を減らしたレンジエクステンダーEV(E-REV)、ハイブリッドカーのバッテリーを外部電源から充電できるようにしたプラグインハイブリッドカー(PHEV)など、ソリューションも急速に多様化している。さらに、フランス政府や福生市が推し進めるEVシェアリングサービスプロジェクト等、新たなビジネスソリューションの形態も確立されている。

◆EV普及の鍵を握るバッテリー技術

石油以外で人間が利用可能なエネルギーは、実は結構豊富である。非在来型天然ガスであるシェールガスやバイオエネルギー、水力や太陽光、風力などの再生可能エネルギー、核エネルギー等々、枚挙にいとまがない。が、それらのエネルギーは、輸送、貯蔵、補給などの利便性の点で、いずれも石油に比べて大幅に劣っている。現状では、多少燃料価格が上がろうと、クルマは石油エネルギーで走らせるのが最も効率的というのが実情だ。

しかしながら、その状況はEVの登場と共に大きく変わりつつある。エネルギーを電力として効率的に蓄えることが出来る電池技術の発展である。

が、そのチャレンジはまだ始まったばかり。EVや燃料電池車が一般的な技術となるには、これから様々な技術革新を実現させていかなければならない。なかでも課題とされているのは、EVのバッテリーである。電力はもともと、発生させたものはリアルタイムで消費しないと消えてしまう。たとえば電力需要が低いときに発電所をフル稼働させても、熱エネルギーの多くは電力に変換されず、そのまま捨てられてしまうのだ。

◆耐久性の向上と急速充電性能の要求を満たせるか

本来は貯蔵性のないエネルギーである電力を保存しておくのに最も一般的なのが、蓄電池に充電しておいて、必要なときにそれを引き出して使うというやり方だ。不特定のルートを走り回るEVは、電車のようにパンタグラフから電力を採って走るというわけにはいかない。必要なときにEVを即座に走らせるために必要不可欠なのが電力貯蔵技術であるバッテリーなのだ。

一般に、自動車を構成する部品点数はガソリンエンジン車の場合およそ3万点だが、このうちエンジンとその補器類がおよそ1万点で、全体の1/3以上を占めている。これをバッテリーとモーターに置き換えれば部品点数が大きく減り、パッケージングに大きな変革を実現できると見込まれている。部品点数の低減は、大幅な軽量化やコスト優位性への可能性も秘めており、ひいては電費の向上にも寄与するものとも考えられている。もちろん、排出ガスを出さない、パワートレーンからの振動や騒音がないことなども、EVのメリットとしてよく知られているポイントだ。

今日、世界で胎動を始めているクルマの電動化。そのムーブメントはまだ、未来に向かって一歩を踏み出したばかりであるが、EVがコンセプトカーから実用車へとその存在意義が変化していくなかで、消費者はバッテリーの性能差を意識する必要が出てきた。そしてまた、バッテリー技術のブレークスルーを実現する可能性が登場しつつあることも確かだ。次回では、EVの課題を打ち破る新たな技術として東芝のSCiBにフォーカスを当ててレポートする。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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