【池原照雄の単眼複眼】隠れた数字がでかい「日産パワー88」

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日産パワー88発表
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  • 日産ティーダ新型(上海モーターショー11)
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目標は絶対値から相対値に

日産自動車が2011年度から16年度までの中期経営計画「日産パワー88」を公表した。ふたつの「8」は、いずれも%で示す世界シェアと売上高営業利益率の目標値だ。シェアを目標に掲げるのは、99年以降今回で5回目となるカルロス・ゴーン社長による中期計画でも前例がなかった。

経営再建に始まり、その後の拡大路線の指標であった同社の中計は、販売台数や売上高の伸び、利益率など「絶対値」を目標としてきた。周囲には余り目を向けず、あくまで自社の絶対目標の達成にひた走ったが、新計画ではシェアという「相対値」をゴールに掲げた。世界のなかでこれだけのポジションは取れるという自信の表れだ。

「何かをリカバーするなどといったハンディキャップのない初めての計画であり、スタートから攻勢をかけられる」---ゴーン社長は、中計発表の冒頭にこう発言した。最初の中計「リバイバルプラン」は文字通り、経営を再建するものだったし、前計画の「GT2012」(当初は08~12年度)は金融危機によって中断し「リカバリープラン」に変更した。

◆8%はコミットメントではない

「パワー88」は昨年来の世界市場での勢いを駆って、突っ走ろうという計画になった。ただし、シェア8%については相対目標となるだけに「コミットメントではなく、努力目標」と位置付けている。

8%達成時の販売台数についても言及を避けたが、「一定の仮説は必要」として16年度の世界市場を9000万台強と想定していることを明かした。9000万台の8%は720万台であり、これが社内で絶対値として仮置きされている目標値となる。

過去最高の419万台を販売した10年度のシェアは、日産の試算では5.8%であり2ポイント強の拡張を狙う。シェアの拡大は業界平均以上の成長力を持続させないと実現しない難しいものだ。つまり、市場の拡大期はそれを上回る成長が必要だし、リーマンショック後のような縮小局面では市場レベルを下回るように落ち込みを抑制しなければならない。

だが、持続的成長を目指すうえでは分かりやすい目安になる。トヨタ自動車は1980年代半ばに「グローバル10」(世界シェア10%)を超長期で達成すべき目標に掲げた。02年策定の2010年グローバルビジョンでは10年代に「15%程度を視野」に入れるとし、リーマンショック前におおむね達成した。

◆スタートラインのポテンシャルは最高潮

日産の8%は一見、掴みどころのない目標だが720万台という絶対値に置きかえると、「ハードルの高い内容」(ゴーン社長)ということが分かる。10年度の419万台から6年間で300万台の拡大を目論むものだからだ。年平均50万台の拡大が必要となる。

今世紀初頭から07年まで年平均60万台規模の拡大を続けたトヨタのケースに匹敵するのである。カギは成長セクターである新興諸国の攻略であり、ゴーン社長は「日米欧が市場の中心であった10年前とは全く違う組織体制が必要」と見る。

人材の現地化、つまり新興諸国人材の積極登用だ。ゴーン社長は日産グループの上位100人のマネジメント層のうち、45%は日本人以外で占めることを引き合いに出し、「世界でもトップレベルの人材の多様化が進んだ」と、自賛する。

暗に、現地への権限委譲の遅れが品質問題の原因のひとつともなったトヨタの跌は踏まないと言っているようでもあった。いま、世界の自動車産業で勢いのあるのは「VHN」(独フォルクスワーゲン、韓国ヒュンダイ、日産)だ。日産は東日本大震災からの生産回復も早く、志賀俊之COOをはじめ経営陣の表情にも自信がみなぎる。過去の中計同様に目標は高いものの、スタートラインではかつてないポテンシャルを蓄えている。

(自動車業界の休日振替に伴い、当欄の掲載日は来週以降9月末まで、原則土曜日に変更いたします)

《池原照雄》

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