【特集クルマと震災】水没した整備工場、泥中から工具を拾い集め営業を再開

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津波が直撃した多賀城市の工業地区に店舗を構えるファースト自動車。整備のため預かっていたクルマや納車を待つ新車も全て流された
  • 津波が直撃した多賀城市の工業地区に店舗を構えるファースト自動車。整備のため預かっていたクルマや納車を待つ新車も全て流された
  • 処分しきれない瓦礫が今も高く積み上げられている
  • 正面入口。津波は2m近くまで及んだ。ガラスは割れ、扉は歪んだ
  • 整備のため預かっていたクルマや納車を待つ新車も全て流された
  • リフトはその形を止めたが、一部は泥が入り込み使用できない
  • 店舗裏手には処分を待つ被災車両が保管されている
  • 津波によりえぐり取られた壁面
  • 【特集クルマと震災】水没した整備工場、泥中から工具を拾い集め営業を再開

「震災から2か月経つが、工場にはまだ電気も来ていない。整備に使う機材も全て津波にやられた。片付けをしながら、ようやく車検の受け入れだけはできるようになった。できることからやっていくしかない」

津波が直撃した多賀城市に店舗を構える自動車整備工場、ファースト自動車の徳永充宏常務は語る。

◆カーラジオで避難指示

ファースト自動車は同市内でも最も歴史ある整備工場のひとつ。車検、一般整備のほか、新車・中古車販売、保険代理店業務を行う。震災前は一月当たり車検が約100台、一般整備で約100台を請け負っていた。同社のある多賀城市栄は、仙台塩釜港に隣接する工業地帯。海岸線からは約1km。3月11日の地震により発生した津波は、2m以上にも達し一帯を飲み込んだ。

地震発生時、営業のためクルマで出かけていた徳永氏はカーラジオを聴き真っ先に店舗に連絡を取り、従業員に避難を促した。咄嗟の判断により、従業員は皆無事だったという。しかし津波は店舗を直撃、整備に仕様する機材や工具、事務所、納品を待つ新車など全てが水没し流された。

同地区は大きな工場が立ち並ぶ工業地帯。大きな建物は壁となり津波の威力を弱めたが、その分高さを増して町を飲み込んだ。ファースト自動車は、幸い建物の形をとどめていたものの、併設していた住居は泥と瓦礫で埋め尽くされたため避難所生活を余儀なくされた。「店がどうなっているのか知る術がなかった。津波の規模すら、10日ほど経って避難所を出てから初めて知った」(徳永氏)。

そこから3週間ほど塩釜市の親戚の家に身をおき、仮の事務所として顧客への連絡や保険の手続きなど、できるところから業務に取りかかった。その間多賀城市では自衛隊などによる復旧作業がおこなわれた。しかし電力は4月中旬になっても復旧しない。先に回復した水道だけで従業員たちと協力し、店舗の修復を少しずつおこなった。

「工具は拾い集めたが、電気を使う機材は全てダメになった。すぐに水洗いができればまだよかったのだろうが、海水で錆びてしまった。泥は膝の当たりまで積もっていたし、その上に瓦礫。重機を借りてなんとか片付けた。それもつい最近の話だ」という。

4月末、店舗での営業を再開した。「お客さんの中には亡くなった方もいる。まだ避難所で生活している人もいる。クルマそのものを失った人もいる。それでも客足は徐々に戻りつつある。まずは営業再開したことを知らせていかなければ」(徳永氏)。

◆車検の受け入れから再開

4月末から車検の受け入れを再開したものの、コンプレッサーやエアツール、鈑金に使用するサンダーやガンなどは使用できず、一般整備や修理業務の再開の見通しは経っていない。電力の供給も未だ復旧していない状態だ。重量があり地面に固定されていたリフトも形はとどめているが、「一部は泥が入り込み使えない状態。一から機材を揃えて行かなければ」と頭を抱える。

車検整備の指定工場として営業している同社だが、テスターも津波の被害を受けたため、テスターの部分のみ外注をおこない対応している。ただこれにより、「2時間で済む作業が、1日預かりになってしまう」と作業効率の低下を挙げる。また、同社内で出来る作業の中でも、震災の影響で交換部品などが手に入らない場合もあるため、やむなく納期を延長することもあるという。

多い時で一日5件程度の車検の受け入れをおこなっていたが、震災後は目に見えて減っているという。多賀城市では車検切れのクルマに対し、有効期限を6月11日まで延長する猶予措置を取っていることもあり、「多くの人は車検切れのクルマを乗り続けている。特に企業は営業車の台数が減った中で業務に使わなければならない。車検どころではない、というのが正直なところだろう」と徳永氏は語る。

◆自動車との付き合い方も変えた震災

自動車販売については、「今はお客さんも慎重になってきている」という。「多賀城では家を流されたり、家族を失った人も多い。実際に津波の被害を受けなかった人も含め、今回の震災を受けて生活のプランや人生設計を見直していかなければ、と考えている。家の修繕費用がいくらになるかわからない状態で、クルマを買うことはできないという人も多くいる。買う事ができる人でも、普通車を軽自動車に変えたりするなどしている」(徳永氏)。

同業者の中には震災を受けて廃業する業者も少なくないという。「元々、この地域の工場では事業主の高齢化や跡継ぎの問題から、廃業する店舗が出てきていた。今回の震災で、ますます淘汰されていくだろう」と徳永氏は分析する。

また、今回の震災で深刻な燃料不足に陥ったことで、ハイブリッド車や電気自動車など次世代カーに注目が集まったことを挙げ、「今後は次世代エコカーの専門知識を持ち整備などにも対応していかなければ。ただ整備士も高齢化が進んでおり、技術や知識を新たに学んで行くのは厳しい状況。我々も、どうやって今後お客さんと付き合い、どうやってクルマと付き合っていくか、今後のプランを見直していかなければいけない」(徳永氏)とした。

《宮崎壮人》

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