■CR-Zがカラーアウォードで大賞
車体や内装の色はクルマのデザインにおける最重要ファクターのひとつである。今年1年で発表されたクルマを対象に優秀なカラーデザインを顕彰する、日本流行色協会主催の「オートカラーアウォード2011」の最終審査が15日行われた。各社から計25台がエントリー、第一次審査を通過した15台の中から大賞に選ばれたのは、ホンダ『CR-Z』の「ホライゾンターコイズパール(外装)/ブラック×シルバー(内装)」だった。
カラーデザインを担当したのは本田技術研究所の橋本栄子氏。この賞はまず部門賞やファッションカラー賞などの各賞から発表され、大賞は最後に発表されるのだが、橋本氏は「大賞をもらえるとは全く予想していなかった」と驚いていた。実際、大賞が発表された時は帰り支度をしていて、慌ててコートを脱いだほど。
「ホライゾンターコイズパールはCR-Zのために作った新色で、テーマカラーなんです。アースブルーをイメージし、本当にこだわりをもって調色しました。その色が高く評価されたことは本当に嬉しいです」(橋本氏)
参加者からは、せっかく交流ができる懇親会もあるのにさっさと帰るなんてもったいないのにという声もあったが、橋本氏が受賞を予想しなかったのには無理からぬ事情がある。エントリーから選抜された15台のカラーがことごとく個性的で、例年にないほど豊作だったからだ。
■“新色ラッシュ”だった2010年の日本自動車市場
今年は日本メーカーがジャパン・パッシングじゃないかと言われるほどにニューモデルが少ない年となってしまったが、カラーの面ではまさに“新色ラッシュ”となった。新型車を出せない中で少しでも新味を出そうという苦肉の策という側面もあるが、各メーカーともカラーデザインへのこだわりを急速に強めている。
オートカラーアウォードの今年の受賞モデルは日本流行色協会のサイトに掲載されている(http://www.jafca.org/uploads/ACA2011%E5%8F%97%E8%B3%9E%E8%BB%8A.pdf)が、各賞に選ばれなかったものの中にも注目を集めたカラーはあった。たとえば三菱自動車『RVR』の「カワセミブルー」。日本流行色協会の馬場彰理事長は長年、アパレル企業のオンワード樫山の舵を取ってきた人物で、日本の財界きっての洒落者として知られる人物。自らは審査に加わらないが、懇談会の場で「あの色はオシャレだったな」とRVRの色について語っていた。
市販モデル全体を見ても、新色追加はトレンド。ホンダは10月にコンパクトカー『フィット』をマイナーチェンジした際、いっぺんに4色もの新色を出した。ライバルとなるトヨタ『ヴィッツ』は12月22日にフルモデルチェンジされるが、こちらも新色が多数登場すると言われている。
■付加価値を求められる日本車
1ドル=80円台という円高の中、日本の自動車メーカーはクルマの付加価値をより拡大する必要に迫られている。その成否のカギを握る最重要ファクターのひとつがデザインなのだが、こと市販車のカラーデザインについては日本メーカーはこれまで、世界の中ではトレンドセッターになることができていなかった。
塗装の質を左右する高分子化学は、日本にとっては比較的得意な分野。鋼材にニオビウムをわずかに添加すると高い表面の質感を得られるといった被塗される側のノウハウの積み上げも豊富だ。が、グローバルでカラー技術の主導権を握っているのはアメリカのデュポン、ドイツのBASFなどの海外勢だ。また、人間が特定の色の取り合わせを見てどう感じるか、それが季節、気象、精神状態などによってどう変化するかといった、人間工学に関するノウハウでも欧米の後塵を拝しているというのが実情だ。
「どんなに自由に色を作ることができても、人を引き込むカラーデザインのアイデア、イメージを生むのは人間のセンスです。デザイナーの自己満足ではなく、鮮烈かつ心地良いアイキャッチのパワーを持つカラーデザインは、間違いなく付加価値を高める。今後、日本が絶対に頑張っていかなければいけない分野なんです」(自動車メーカーのカラーデザイナー)
余談だがこのオートカラーアウォードには、会場となった文化女子大学の学生も多数参加している。若者のクルマ離れが取り沙汰されるようになって久しいことから、会場にいた大学生に「本音のところ、クルマのことをどう思っていますか?」と話を聞いて回ってみた。すると、多くは「クルマでドライブするのは好き!」「でも助手席に乗せてもらうのはもっと素敵かな」と、肯定的な意見が圧倒的に多かった。
一方で、クルマに対する見方が非常に堅実なのも、昭和や平成一桁の時代とは圧倒的に違っている部分だ。面白かったのは「男子が高そうなクルマに乗っていると『ああ、親のクルマかよ』『自分で買ったんじゃないんでしょ』などとマイナスに感じる」という意見が少なからず聞かれたことだ。雇用の流動化が進み、企業と労働者の家族的な結び付きが崩壊している今日、若年層は“自力で生きていく”ことを重要視しているようだった。