ノキアとの提携の先にある狙いとは…クラリオン市場戦略室担当部長に聞く

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クラリオンの市場戦略室担当部長 宮澤浩久氏
  • クラリオンの市場戦略室担当部長 宮澤浩久氏
  • ターミナルモード
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  • クラリオン モバイル商品企画グループ 岡田元己氏

クラリオンは6月、フィンランドの携帯電話大手ノキア・コーポレーションとの業務提携を発表した。その目的は、両社は携帯端末と車載情報システムを接続する「Terminal Mode(ターミナルモード)」の開発協業だ。

ノキアと標準化団体「Consumer Electronics for Automotive(CE4A)」が提案しているスマートフォンインターフェースの開発を共同でおこない、ノキアの「Ovi Store」を活用した車載機器向けアプリケーションサービス事業を構築するという。

今回の提携に至った背景と狙いについてクラリオンの市場戦略室担当部長 宮澤浩久氏とモバイル商品企画グループの岡田元己氏に話を聞いた。

◆ノキアの強力なブランド力に将来性を見いだした

----:クラリオンがノキアとの提携を発表した背景について、お聞かせください。

宮澤:スマートフォンの趨勢を握るプレイヤーは『iPhone』『iPad』のアップル、『Android』を展開するグーグル、そして世界最大手の携帯電話メーカーであるノキアの3つに絞られつつあります。アップルについては独自のエコシステムをすでに構築しており、グーグルはオープンプラットフォームでメーカーの枠を越えてさらに攻勢を強めるでしょう。そしてノキアは、スマートフォン分野では2社に遅れを取っているものの、モバイルの世界では常にトップシェアを維持しています。特に中国やインド、ブラジル、ロシアなどの新興国を中心に大きなシェアと強力なブランド力を持っていることも強みと考えています。

----:スマートフォン事業の拡大に本腰を入れ始めたノキアですが、車載の情報端末を扱うクラリオンとはどのような接点があるのでしょう。

宮澤:携帯機器とECUとのインターフェースの標準化を進めるために組織された「Consumer Electronics for Automotive(CE4A)」というコンソーシアムがあります。このCE4Aはアウディ、BMW、ダイムラー、フォルクスワーゲンといったドイツの自動車メーカーが中心となっています。ノキアはCE4Aに対して、自分たちの仕様をオープンにすることで、標準化に率先して取り組んでいます。ナビゲーション端末を開発している当社としても、デファクトスタンダードに近い規格に早くから参画することで、先行者利益を得たいというのが狙いです。ノキアとの提携は、当面は欧州市場を考慮していますが、ゆくゆくは新興国の市場も視野に入れています。

----:現状はiPhoneで先行したアップルをAndroidが急追している状況です。少々意地悪な質問ですが、あえてノキア陣営に参加した理由はどこにあるのでしょう。たとえば、グーグルと連携できればもっと違った話題になったのでは?

宮澤:OSやサービスという視点で見ると、たしかにグーグルとの提携のほうが話題性は高いかもしれません。ですが今回のアライアンスは“スマートフォンと車載器との連携”が根幹にあります。基盤はハードウェアです。OSがAndroidでもコネクティビティを確保しようとすると、ハードメーカーとの連携しかないのです。ターミナルモードは、OSやプラットフォーム全体をまたぐものではなく、ハードウエア上のAPI仕様を標準化するものです。

岡田:ノキアは欧州の自動車メーカーと歩調を合わせています。また、欧州がひとつに方向性にまとまると、新興国もその流れに追随する傾向があります。将来のビジネスの広がりを考えると、ノキアとの提携には将来性があるという判断です。

◆スマートフォンのパワーとコンテンツを車載器へ

----:ノキアが提唱している「ターミナルモード」と呼ばれるものはモバイル端末と車載器をどのようにつなぐのでしょうか。

宮澤:「ターミナルモード」はスマートフォンのアプリを車載端末に表示させ、タッチパネルやステアリングスイッチなど車載の入力インターフェースから操作を可能にする技術の総称です。車載器のモニターではスマートフォンアプリの描画領域に加えて、エアコンやオーディオなど車両装備品の操作UIも設けられる仕様になっています。パケット通信はサーバーとスマートフォンとの間でのみ発生するので、端末を土管として車載器で通信するより通信費の問題もクリアできますし、車載の入力デバイスが利用できるのでドライバーの負担も減らすことができます。

----:たしかに、車載器と携帯電話の通信はパケット料金やBluetoothの相性問題もあって、なかなか普及が進みません。

宮澤:ナビゲーションをはじめとして車載情報端末は著しく高度化が進んでいますが、通信を取り持つ携帯電話のインターフェースがバラバラなため、車載器との接続が保証できない状況になっています。接続検証なども端末ごとにおこなう必要もあり、携帯電話メーカーにとっても、われわれ車載端末メーカーにとっても喜ばしくありません。

さらに言えば、いまナビゲーションの開発に費やす工数の8割はHMI(Human-Machine Interface)関連です。実はハードウェア開発はそれほどウェイトは高くない。コンシューマー機器の操作性をどう車載器に取り入れるか、デザインをどうするか、みたいな開発が占める割合が非常に大きいのです。当社はハードウェアを生産するメーカーではありますが、音と情報とモビリティとを繋げるHMI開発会社としての顔も持ち合わせているのです。

----:車載器にアプリをインストールするのではなく、スマートフォンのアプリを車載モニター上に表示させ、操作可能にするターミナルモードの意義はどこにあるのでしょう。

宮澤:スマートフォンは、車載器とは桁違いのスペックを持っています。ギガヘルツのCPUとギガバイトのメモリによって、さまざまなアプリケーションを動かすことが可能です。スマートフォンのパワーとコンテンツを車載器に連携させられないか、という考えが私たちにありました。

◆車載器を“軽く”したい

----:カーナビゲーションを開発しているクラリオン社内で、ノキアのターミナルモードへ積極的に参画することへの意見は出ませんでしたか。

宮澤:ターミナルモードで提唱されているスマートフォンの連携は、カーナビありきの話ではありません。ナビは数あるアプリケーションのうちの一機能に過ぎず、メインではないのです。ではなぜ当社がこの規格に参画するのかというと、ひとつは“車載器を軽くしたい”という理由があります。

たとえばインターネットラジオの『Pandora』のようなコンテンツサービスやソーシャルアプリは、技術やサービスの移り変わりがとても早く、長い開発期間が必要でスペックにも劣る車載器上でアプリを動かすには荷が重すぎます。

当社はOEMで自動車メーカーに対して車載器を提供していますので、安全性/信頼性を確保した上で(一般的な自家用車の保有期間である)およそ10年間はフレッシュなサービスを提供し続けなくてはなりません。また、もうひとつの理由としてはドライバーの負担軽減を考慮したHMIのノウハウを持っていることが当社のコアコンピタンスであるということです。これまで蓄積してきたHMI構築の技術をターミナルモードの活用の場面で大いに役立てるのではという考えがありました。

----:クラリオンとしてノキアのスマートフォン開発に参加するということもあるのですか。

宮澤:われわれはあくまでも車載器メーカーとしての立場を守りますし、その立場を保ったままで有益なビジネスを実現できると考えています。なんと言ってもクルマ側の情報を持っているのが強みですから。例えば車速パルスを取ってその情報をスマートフォンに投げられるとしたら、何ができるか、またドアが開いている、窓が開いている、ワイパーが動いているといった情報を使って便利なサービスを実現できないか。スマートフォンにとって、クルマからの情報のゲートウェイになる部分をわれわれが担うことになります。

----:今のスマートフォンはタッチパネルが主流ですが、インターフェースの考え方はどのように変わるのでしょうか。

宮澤:車載器をOEMで提供することを考えると、クルマのHMIというのは、シンプルで統一されたものであるほど良い、ということが基本にあります。十字キーと中央の決定キーで完結できるUIがひとつの理想です。タッチパネルやQWERTYキーボードまで自由度が増していくスマートフォンのHMIとは異なる思想です。

◆秋にはプロトタイプが完成

----:アプリケーションのイメージはすでにできているのですか。

宮澤:この7月にターミナルモードサミットがノルウェーで実施され、デモンストレーションが披露されました。対応した端末が来年2月に欧州市場でローンチされる予定です。当社も対応車載器を試作中でして、今秋にはプロトタイプが完成する見込みです。

岡田:ターミナルモードを採用するにあたって、技術的にそれほど困難な障害はないと思います。問題は、このオープンなプラットフォームを作って、いったいどんなサービスを生み出すことができるか、ということです。

宮澤:多くの欧州車メーカーは自社でテレマティクスサービスを展開していますが、利用者が伸び悩み、サービス拡充に二の足を踏んでいます。日本国内でもそれは同様ですね。クルマの情報化については車載器メーカーや通信機器メーカーに任せてしまいたいという流れになりつつあるように感じます。

----:自動車メーカーとしては餅は餅屋で良いと。

宮澤:ですが、自動車メーカーのみならずコンテンツサービスを提供しているプレイヤーからすると、顧客情報は喉から手出るほど欲しいはずです。ユーザーの情報を誰がどうやってハンドリングしていくのか、というのが今後自動車ビジネスにとって重要なポイントになっていくと思います。

当社はOEMで自動車メーカーに機器を提供しているので、ここの部分で力を発揮できるはずです。たとえば、ガソリン、ハイブリッド、ディーゼル、EV、それぞれのパワートレーンでどういう使われ方をしているのか。ECU情報をオンラインで繋ぎリアルタイムで解析して安全・利便の両面で活用できる。たとえ車速パルス情報だけがあるだけでも、大きく変わってくると思います。

----:ナビゲーションでの活用も可能になりそうですね。

宮澤:すでに実用化しているプローブ的なものだけではありません。スマートフォンのカーナビアプリでは車速を取ってマップマッチングすれば精度の高いナビゲーションが実現できるでしょう。

岡田:いままでは携帯電話メーカーや車載器メーカーやクルマメーカーがそれぞれ個別にサービスやアプリケーションを考えていましたが、通信を必要とする場合では相性問題が起こって接続性は良好ではありませんでした。それをひとつの規格でまとめることで、簡単にサポートすることができれば、ユーザーの利便性は高くなりますし、この市場の活性化にも繋がるはずです。

----:通信キャリアが積極的に車載器への通信モジュール搭載を働きかけていますが、この動きとターミナルモードとは競合しませんか。

宮澤:スマートフォンはいつでも身につけていますが、クルマは平均2時間程度しかしか乗りません。短時間しか利用しないクルマの通信のために、数千円の月額必要を払う動機はなかなか生まれません。モジュールが必要になるとすると、盗難や緊急通報など高級車向けのセーフティ機能の分野でしょう。自動車メーカーにとってはこれらのセーフティ機能は保険契約などと絡んでくるので積極的にならざるをえないでしょうが、通信キャリアではない当社のような車載器メーカーが率先して携わる仕事ではありません。ターミナルモードの普及拡大に向けて努力していくことのほうが現実的なのではないでしょうか。(了)

《聞き手 三浦和也》

《まとめ・構成 北島友和》

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