昨年8月、慶応義塾大学の清水浩教授が中心になって立ち上げた電気自動車(EV)技術提供会社シムドライブが、今年1月に先行開発車事業を発表した。事業に参加する企業・団体は自動車メーカーの三菱やいすゞなど34機関を数え、デザインディレクターには元ピニンファリーナの奥山清行氏を据えた。
しかし大学発のEVベンチャーはこのシムドライブだけではない。たとえば慶応のライバルとして知られる早稲田大学でも、早稲田環境研究所という企業がEVの研究を進めている。そこで同社代表取締役の小野田弘士氏にお話を伺うとともに、開発車両を取材した。
「当社は早稲田大学大学院の環境・エネルギー研究科のなかにある、永田勝也教授と私の研究室を母体として、2003年に設立されました。研究室での成果をもとにして、エネルギーマネージメントシステムの構築や、それを実践する人材育成のコンサルティングなどを行っています(小野田氏、以下同じ)」
つまりこの会社はEVだけが守備範囲ではない。環境エキスパートを育成するために早稲田環境資格制度(WIN)を立ち上げ、カーボンフットプリント(CO2排出量の数値化)を活用した「見える」コンサルティングを心がけるなど、独自の視点でエコ社会の実現をバックアップしている。
自動車の分野ではEVのほか、日本自動車リサイクル部品販売団体協議会(JAPRA)と共同で、リサイクル部品の環境負荷削減効果を数値化する「グリーンポイントシステム」を開発し、普及促進を図る事業も進めている。
EVについてはエコモビリティという考え方に基づき、車両の開発だけではなく、情報通信なども含めたプロジェクトとしている。
「永田教授の研究室で開発された超軽量電気自動車ULV(ウルトラ・ライト・ビークル)をベースにして、特定の都市内の中小企業に車両の製作を依頼し、住民や観光客に乗ってもらうというプランを考えています」
プロジェクトはすでにスタートしている。2012年、東京都墨田区に東京スカイツリーが完成するのに合わせて、地元の自治体や企業などとともに、ULVをベースにした次世代モビリティを導入する取り組みを進めているのだ。
すでに2008年からは公道を使った実証実験を、区内で始めている。デザインについても同年、公募の結果をもとにスクエアなフォルムの「HOKUSAI」を作り上げ、EV関連のイベントなどでお披露目をしている。
今回取材したのはベースとなったULVで、車体の文字で分かるように3号車となる。第1種原付(50cc)規格のひとり乗りで、空力特性を考慮したボディのサイズは最小限だが、身長180cm級の人が楽に乗れる。
モーター出力はわずか0.4kW。しかし車重が72.6kgしかないので、加速はけっこう力強い。あまりの小ささゆえ、不安を抱きつつ乗り込んだのだが、実際は安心して流れに乗れる加速力を持っていた。最高速は40km/h、航続距離は80km/hと、観光の足として使うにはじゅうぶんな性能を持つ。
またULVはただ走るだけではなく、ICタグを活用した観光情報の取得や共有も研究中だ。観光スポットに設置されたICタグに端末のリーダーを近づけると、説明などを得られるほか、Photo Chatを使って画像や文字の発信も可能で、サーバーを介してULV間でフレッシュな情報を共有できる。観光ツールとしての役目も持っているというわけだ。
「行政の動きがあまりレスポンシブとはいえないことや、原付2種(125cc)登録で2人乗りにしたいことなど、課題は山積していますが、スカイツリーの完成には間に合わせたいと思っています」
隅田川の東岸に銀色のタワーがそびえる頃、下界では超小型EVが観光客の足として活躍しているはずだ。
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