ワセダのEV…走る観光ツールを目指すULV

エコカー EV
黄色のボディカラーは視認性を考慮した結果。前2・後1の3輪車で、ドアは右側だけに備わる。
  • 黄色のボディカラーは視認性を考慮した結果。前2・後1の3輪車で、ドアは右側だけに備わる。
  • フォルムは空力性能を意識した水滴型で、全幅は極限まで絞られている。
  • 航空機風ハンドルの奥に、情報を送受信するタブレットを置き、右側にスイッチを集中させている。
  • ハンドルの裏に生えたブルーのレバーがアクセル、奥に見えるシルバーのレバーがブレーキ。
  • 原付一種(50cc)登録なので乗車定員は1名。背後に小さなラゲッジスペースを持つ。
  • ペダルはない。右の小さい箱は回生ブレーキの制御ユニット。コンセントは情報機器の充電に使用。
  • モデルの早稲田環境研究所・佐藤雄氏は178cmと長身だが、このとおり余裕で乗れる。
  • モーターは1輪の後輪にインホイールタイプを装着。軽量ボディのおかげで発進は軽快。

昨年8月、慶応義塾大学の清水浩教授が中心になって立ち上げた電気自動車(EV)技術提供会社シムドライブが、今年1月に先行開発車事業を発表した。事業に参加する企業・団体は自動車メーカーの三菱やいすゞなど34機関を数え、デザインディレクターには元ピニンファリーナの奥山清行氏を据えた。

しかし大学発のEVベンチャーはこのシムドライブだけではない。たとえば慶応のライバルとして知られる早稲田大学でも、早稲田環境研究所という企業がEVの研究を進めている。そこで同社代表取締役の小野田弘士氏にお話を伺うとともに、開発車両を取材した。

「当社は早稲田大学大学院の環境・エネルギー研究科のなかにある、永田勝也教授と私の研究室を母体として、2003年に設立されました。研究室での成果をもとにして、エネルギーマネージメントシステムの構築や、それを実践する人材育成のコンサルティングなどを行っています(小野田氏、以下同じ)」

つまりこの会社はEVだけが守備範囲ではない。環境エキスパートを育成するために早稲田環境資格制度(WIN)を立ち上げ、カーボンフットプリント(CO2排出量の数値化)を活用した「見える」コンサルティングを心がけるなど、独自の視点でエコ社会の実現をバックアップしている。

自動車の分野ではEVのほか、日本自動車リサイクル部品販売団体協議会(JAPRA)と共同で、リサイクル部品の環境負荷削減効果を数値化する「グリーンポイントシステム」を開発し、普及促進を図る事業も進めている。

EVについてはエコモビリティという考え方に基づき、車両の開発だけではなく、情報通信なども含めたプロジェクトとしている。

「永田教授の研究室で開発された超軽量電気自動車ULV(ウルトラ・ライト・ビークル)をベースにして、特定の都市内の中小企業に車両の製作を依頼し、住民や観光客に乗ってもらうというプランを考えています」

プロジェクトはすでにスタートしている。2012年、東京都墨田区に東京スカイツリーが完成するのに合わせて、地元の自治体や企業などとともに、ULVをベースにした次世代モビリティを導入する取り組みを進めているのだ。

すでに2008年からは公道を使った実証実験を、区内で始めている。デザインについても同年、公募の結果をもとにスクエアなフォルムの「HOKUSAI」を作り上げ、EV関連のイベントなどでお披露目をしている。

今回取材したのはベースとなったULVで、車体の文字で分かるように3号車となる。第1種原付(50cc)規格のひとり乗りで、空力特性を考慮したボディのサイズは最小限だが、身長180cm級の人が楽に乗れる。

モーター出力はわずか0.4kW。しかし車重が72.6kgしかないので、加速はけっこう力強い。あまりの小ささゆえ、不安を抱きつつ乗り込んだのだが、実際は安心して流れに乗れる加速力を持っていた。最高速は40km/h、航続距離は80km/hと、観光の足として使うにはじゅうぶんな性能を持つ。

またULVはただ走るだけではなく、ICタグを活用した観光情報の取得や共有も研究中だ。観光スポットに設置されたICタグに端末のリーダーを近づけると、説明などを得られるほか、Photo Chatを使って画像や文字の発信も可能で、サーバーを介してULV間でフレッシュな情報を共有できる。観光ツールとしての役目も持っているというわけだ。

「行政の動きがあまりレスポンシブとはいえないことや、原付2種(125cc)登録で2人乗りにしたいことなど、課題は山積していますが、スカイツリーの完成には間に合わせたいと思っています」

隅田川の東岸に銀色のタワーがそびえる頃、下界では超小型EVが観光客の足として活躍しているはずだ。

ホームページURL:http://e-wei.co.jp/

《森口将之》

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