【中国 次世代トヨタ】豊田新社長の先行ビジネスモデル“広汽トヨタ”

自動車 テクノロジー カーナビ/カーオーディオ新製品
【中国 次世代トヨタ】豊田新社長の先行ビジネスモデル“広汽トヨタ”
  • 【中国 次世代トヨタ】豊田新社長の先行ビジネスモデル“広汽トヨタ”
  • 【中国 次世代トヨタ】豊田新社長の先行ビジネスモデル“広汽トヨタ”
  • 【中国 次世代トヨタ】豊田新社長の先行ビジネスモデル“広汽トヨタ”
  • 【中国 次世代トヨタ】豊田新社長の先行ビジネスモデル“広汽トヨタ”
  • 【中国 次世代トヨタ】豊田新社長の先行ビジネスモデル“広汽トヨタ”
  • 【中国 次世代トヨタ】豊田新社長の先行ビジネスモデル“広汽トヨタ”
  • 【中国 次世代トヨタ】豊田新社長の先行ビジネスモデル“広汽トヨタ”
  • 【中国 次世代トヨタ】豊田新社長の先行ビジネスモデル“広汽トヨタ”

豊田社長就任会見「国内市場は1200万台」

6月25日、東京お台場のメガウェブで行われたマスコミ向け新社長就任記者会見。豊田章男新社長は新聞記事の見出しに踊るような数値目標を出すことはなかった。

ところが日本市場の戦略について、ひとつだけ重要かつ興味深い数字を挙げている。

「これからは除軽市場だけでなく含軽市場、新車市場だけでなく新車・中古車市場をベースにビジネスを考えて行くべきだと考えています。含軽の新車・中古車市場と考えると年間1200万台の市場がありますが、除軽新車市場だけを見ますと300万台に満たない数になってしまいます。また国内7500万台の保有台数を見渡すといろいろなビジネスチャンスが考えられます」(豊田章男新社長)

そして中国を含む新興国でのトヨタの戦略を「正攻法でお客様に向き合う市場。マーケットの拡大とともに、台数も収益も拡大するようなビジネスモデルを確立したい」と、日本市場と同じく新興国でも保有台数をベースとした新ビジネスモデルにチャレンジするとも受け取れる語りようだ。

これはトヨタ自動車が単なるメーカーから脱却し、総合カーライフ企業になることを宣言したのだろうか。新車販売台数をひたすら求めてきたこれまでの自動車メーカー「トヨタ」が、一転して保有台数をターゲットに顧客のカーライフとつき合う企業となるのか。

この記者会見に立ち会った我々は、豊田社長就任の直前に中国で取材した、広汽トヨタおよび広汽トヨタディーラーの様子を思い出さざるを得なかった。

◆"中国のデトロイト”、広州

中国大陸南東部に位置する広東省広州市。余り知られていないが、上海や北京に次いで3番目の都市圏人口・規模を持つ巨大都市である。

広州はまた、自動車産業の一大集積地として、”中国のデトロイト”と呼ばれる地でもある。ホンダと広州汽車集団(広汽)の合弁会社「広州ホンダ」や、日産と東風汽車の合弁会社「東風日産」が本拠を構える。トヨタ自動車も2004年に広汽集団との合弁で「広州トヨタ」(2009年5月に「広汽トヨタ」)(GAC Toyota Motor Co., Ltd. 以下GTMC)に設立。広州市を含む広東省の社会発展統計広報によると、2008年の自動車生産台数は88万台という規模。中国の08年の総生産台数は935万台だから、中国の自動車のうち10%弱が広東省で生産されていることになる。

◆在庫管理を徹底すればSLIMに行き着く

2007年暮れ、我々編集部は中国のディーラーで導入しているディーラーツール「e-CRB」(evolutionally Customer Relationship Building)を北京で取材、来店からアフターにまで至るディーラー・消費者間のコミュニケーションのシステム化事例をレポートした。

そして2008年6月、生産計画からヤード在庫、ディーラーへの配車、そして納車まで在庫管理の“視える化”を押し広げた販売物流統合管理システム(通称 SLIM:Sales Logistics Integrated Management)が導入された。このSLIMとe-CRBを組み合わせることで、生産から納車、アフターに至る全モデルライフでクルマとユーザーの把握が可能になるという。

◆最新の設備とディーラー網を揃えた新興国モデル

SLIMの解説は別記事に譲るとして、まずGTMCの企業プロフィールを紹介しよう。

広州の中心市街からクルマを飛ばすこと1時間弱。緑豊かな郊外にGTMC本社はある。深玔や香港へは約1時間という立地だ。

GTMCは、トヨタ自動車と広州汽車集団の折半出資で2004年9月に設立されたメーカー・ディストリビューターだ。生産工場を併設する本社には、187 万平米という広大な敷地に、5707名の従業員が働いている。工場での技能職が4000名あまりと大半を占めており、全従業員の平均年齢は23.7歳と非常に若い。

2004年の設立とあって、工場設備には最新の技術やノウハウが投入されている。現在、第1ラインで『カムリ』および『ヤリス』を生産しており、この5月には折り返しの第2ラインで『ハイランダー』の生産を開始した。第2ラインの新設で生産能力は年産32万台にまで増強された。

GTMC総合管理部副部長の宮野勝実氏は「日本などに比べて労務コストが安い中国では、設備はそこそこで人員を多く確保するべき、という論調もあるが、 GTMCではきちんと設備を入れて従業員に無理な仕事を要求しない。一人ひとりにかかる負担が大きすぎない工程作りを日々やっている」と語る。

人材育成はトヨタの海外の工場の中でも力を入れて実施しており、たとえば新入社員には、トヨタのモノ作りのイロハをまずは教えることから始まる。また現場からの工程改善提案は積極的に受け入れているとのこと。このあたりは、バブルのころ、“3K”と呼ばれトヨタで一番退職率の高かった現場(工場)を見てきたという葛原徹総経理(社長)の"辞めさせないための工夫"が生きているという。

◆年間の販売台数は17万2000台

ディストリビューターとしてのGTMCを見てみよう。2009年4月時点でのディーラー網は171あり、2008年の全販売台数は17万2000台。1店舗あたり年間約1000台を販売する、高効率販売店網だ。北京や上海、広州などディーラーの多くは東部の沿岸部がほとんどだが、チベットにほど近い雲南省重慶やウイグル自治区といった内陸の奥地にも点在している。

現在の車種ラインナップは本社併設の南沙工場で製造している『カムリ』を筆頭に『ヤリス』(ヴィッツ)、『ハイランダー』、さらに日本から輸入している『FJクルーザー』の4モデル。このうち、カムリは年間15万台を売り上げる広汽トヨタの屋台骨だ。ヤリスは昨年中国市場に初投入したが、ライバルに比べて割高な車両価格や見た目の立派さを好む中国の消費者に受け入れられず、苦戦している状況だ。この5月に現地生産に切り替えたハイランダーがどう受け入れられるか、注目が集まる。

GTMCの販売店網は直営店を持たず、すべてが現地資本が設立した販売会社だ。大きな特徴は、GTMCでは販売権を与える条件として、e-CRBの導入を義務づけていること。ディストリビューターからのディーラーオペレーションを徹底させることで、在庫をコントロールし、生産量を柔軟に調節する効率的な経営を目指している。

そして、この製販一体システムは、豊田章男社長が中国営業のトップを務めていた時期に実現を進めていた肝いりのプロジェクトでもあった。今後マーケットの発展が見込める新興国におけるディーラー網整備のモデルケースとしても位置づけられている。

《北島友和》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集