【神尾寿のアンプラグド 試乗編】新時代の幕開け---ホンダ インサイト

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【神尾寿のアンプラグド 試乗編】新時代の幕開け---ホンダ インサイト
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新型ホンダ『インサイト』が好調だ。

今年2月6日の発売開始以降、インサイトの販売は急速な立ち上がりを見せ、発売開始からわずか1か月間で1万8000台を受注。ホンダディーラーには人があふれ、休日には「試乗待ち」が出るなど、その人気ぶりを伝えるエピソードは枚挙にいとまない。

筆者も都内のホンダカーズ数店舗に足を運んでみたが、インサイトめあての来客が新たな来客を呼ぶようで、店内は常に活気に満ちていた。その活況ぶりは、昨年9月の「リーマンショック」前に訪れた中国・北京のディーラーを想起させるほどだった。

インサイトはなぜ人気なのか。その魅力はどこにあるのか。今回のアンプラグド特別編では、筆者の試乗体験も交えながら、ホンダのインサイトの魅力や訴求力、将来の可能性について考えてみたい。

◆“プリウス体験”に屈しないインサイト

前世紀末、トヨタは大きな成功を収めた。

それは世界で初めてハイブリッドカー『プリウス』を市販化し、その名前と、同社のハイブリッドシステムであるTHS (Toyota Hybrid System)がもたらす走りを、この分野のデファクトスタンダードとして世の中に広めたことだ。

走り出しや低速時はモーターでEVのようにふるまい、高速域ではエンジンとモーターが協調する。プリウスのユーザーエクスペリエンス(ユーザー体験)こそがハイブリッドカーの王道であり、21世紀のクルマそのものなんだとブランド化・シンボル化した。プリウスはエンジニアリング的な成功以上にマーケティング的な成功が大きく、その記号を身にまとうことが「知性ある行動」であり「賢い消費者」であるというイメージを作ったのだ。今やプリウスは、レクサス以上にトヨタにとって価値のある21世紀のブランドになっている。

並みの自動車メーカーであれば、この「プリウス体験」を踏襲し、その延長線上で“モア・ベター”なハイブリッドカーを作るだろう。例えば、「プリウスより付加価値が高い」「プリウスよりコストパフォーマンスが高い」、「プリウスよりデザインがよい」などなど。プリウスを基準値にし、そこから個性を出した方が、フォロアーにとって無難だ。

しかし、インサイトはこの「プリウス体験」に屈しなかった。

一般メディアではインサイトとプリウスの価格比較ばかりが話題になっているが、それ以上に重要なのが、インサイトがプリウスとはまったく異なるユーザーエクスペリエンスを貫いていることだろう。“プリウスっぽい安いハイブリッドカー”ではなく、独自のコンセプトとエンジニアリング的な研鑽の結果、"新しいハイブリッドカー体験を普及価格を実現した"のがインサイトなのだ。この差は大きい。

では、インサイトのユーザーエクスペリエンスとは何だろうか。

それは、いい意味でのハイブリッドカーらしさの“なさ”だ。同社独自のハイブリッド機構であるHonda IMA(Integrated Motor Assist System)システムは、エンジンとモーターの両方が並行して駆動する。そのため停車時のアイドリングストップ状態を除けば、エンジンが常に稼働してパワートレインの主役をなし、モーターは“アシスト”として内助の功に徹する。トヨタのTHSと比べると構造がシンプルになり、小型化と軽量化が実現できるのがIMAのメリットだ。

ホンダはIMAのコンセプトを1999年に発売した先代インサイトから投入してきたが、新型インサイトではシステムをさらに熟成。「実用燃費重視」でシステム全体の小型・軽量化を従来より進めたほか、ソフトウェア制御をさらに巧みにし、モーターや回生ブレーキの存在を感じさせないアシストを実現した。トヨタのプリウスはハイブリッドカーとしての先進性に満ちているが、ホンダのインサイトはハイブリッドカーである特別さを感じさせることがない。

日常域では静粛性が高いが、アクセルを踏めばクルマがリニアに反応し、迫力はないけれど小気味よいエンジン音が聞こえてくる。スポーツカーではないのでハンドリングやブレーキの感触に特別さはないが、その反応はナチュラルで違和感なく扱える。インサイトの運転感覚は、とても素直で高品質だ。『シビック・ハイブリッド』では耳に付いたインバーター周りから発生する高周波音も抑え込まれており、ほとんど聞こえない。アイドリングストップからの立ち上がりもすばやく、スムーズにふるまう。

ある意味わかりやすいプリウス体験に屈することなく追い求めた、これがホンダの「インサイト体験」である。

◆普及・一般化に向けた「ホンダの本気」

もうひとつ筆者が感心したのが、インサイトの根底に流れる“ハイブリッドカーの普及・一般化”にむけた執念だ。

インサイトは「実用燃費向上」と「普及価格帯の実現」を両立させるために、コストをかけずに知恵を使っている。その最たるものがIMAのシステムサイズで、すでに報じられているとおり、インサイトのそれはシビック・ハイブリッドより小さい。重量増とコスト負担の大きさと、実用燃費上のメリットを天秤にかけて、虎の子のIMA部分さえダウンサイジングする。“ハイブリッドのスペシャリティカー”であるプリウスと明確に異なるアプローチだ。

他にも、インサイトはエアコンなど電装品の多くを、ガソリン車と共用化している。これによりアイドリングストップ作動の条件はプリウスより厳しくなるが、“ハイブリッドカー専用部品”の点数が少なくなるので、コスト削減と生産性向上に繋がる。

“ハイブリッド・スペシャル”な部分を極力へらす一方で、インサイトは様々なアイディアで「実用燃費向上」を目指した。遮音材を増やさずにノイズを軽減する吸音ボディの開発や、エアコン効率を向上させるために遮熱性の高いフロントウインドウを採用するなど、実用燃費に関わるところには知恵と手間がかけられている。

◆エコドライブ支援をするソフトウェア&サービス

ハードウェアだけでなく、ソフトウェアやサービスの面でも実用燃費向上を目指す。ここもインサイトのユニークなアプローチだ。

インサイトには「コーチング機能」、「ECONモード」、「ティーチング機能」という大きく3つのアプリケーションがある。

まず、コーチング機能では「アンビエントモニター」がおもしろい。これはメーターの背景色を変化させるだけでエコドライブレベルがわかるというもの。高解像度の液晶パネルや技巧に凝ったUI表現をしているわけではなく、意地悪にいえば「お手軽にまとめただけ」のものなのだが、これが意外や使いやすい。運転中にパッと状況把握するには、このくらいアバウトでわかりやすい方がむしろいいのだ。このコンセプトは今後さらに磨きをかけて、デザイン性を高くすると、UIにおけるエコ運転支援のひとつの手法としてさらに発展すると思う。

「ECONモード」はソフトウェアでパワートレインの動作特性を変化させて、ムダでラフな動きを抑えて実用燃費を向上するものだ。昨年発売された新型オデッセイからエンジンやトランスミッションまで統合制御するシステムに進化しているが、インサイトのそれはアイドルストップ時間の延長なども加わり、より積極的に実用燃費向上に寄与するものになった。

しかし、運転中に使ってみると、『オデッセイ』の時ほどECONのON/OFFによる変化感は感じなかった。オデッセイではクルマの動きがかなりマイルドになるのだが、インサイトはそれほどでもない。これは「オデッセイよりパワートレインの出力そのものが小さいので、変化を感じにくいから」(開発者)だという。ここまで変化の度合いが低いならば、ECONは常時ONにし、必要なときだけドライバーが解除するという設定でもいいだろう。

最後の「ティーチング機能」は、インサイトの隠れた目玉機能だ。これはドライバーのエコ運転レベルを評価し、リーフとバーの表記でその成長がわかるというものだ。さらにインターナビをオプション装着すれば、詳細なエコ運転評価やアドバイス、会員同士のレベル比較までできる。

このティーチング機能、実際に使ってみるとかなりハマる。

エコ運転レベルのスコアリングは、ドラクエやFFの「レベル上げ」に通じる楽しさ。エコ運転レベルはリーフとステージで表示されるのだが、レベルが上がった瞬間はかなりうれしい。ドラクエのようにファンファーレを鳴らしてほしいところだ。

また、インサイトオーナー同士でエコレベルをランキング表示できる機能は、エコ運転の技量を向上しようという意欲を向上する。せっかくインサイトに乗るなら、このコンテンツを使うためにも、インターナビはぜひとも装着すべきだ。

インサイトのティーチング機能を使うと、これからのクルマにもコンテンツサービスを用いて発展する余地が大いにあると実感する。

例えば、携帯向けコンテンツではいま、様々なキャラクターを使った「着せ替えコンテンツ」や「マチキャラ」のビジネスが急成長している。これをインサイトのエコ運転レベル機能と連携させれば、“レベル上げ”をもっと楽しく演出できるだろう。カスタマイズコンテンツとキャラクタービジネスを"クルマに乗る楽しさ"に結びつける方法論はたくさんありそうだ。

また、インターナビを通じたユーザー同士のエコドライブランキングは、ネット文化の根幹にある「コミュニティ」の要素をクルマとエコの領域で活用するものとして高く評価できる。ネットを通じたリアル連携の参加型コンテンツは、サイバーマップジャパンの「ケータイ国盗り合戦」などが注目を集めている。見知らぬ人とネットでつながり、ゲーム感覚で楽しむのは今のトレンドだ。インターナビのエコ運転ランキングは、今後さらにコンテンツ内容を充実させ、様々なキャンペーンをしかけることが可能だ。

「インサイトに乗ること」を楽しくするサービスとして、今後のコンテンツ開発と発展に注目したい。

◆21世紀のクルマを世に問う体制が整った

インサイトは順調なセールスを記録したことから、今の自動車業界で数少ない明るい話題を振りまいている。息が詰まるような閉塞感と市場の憂鬱を、一時、吹き払った。それだけでも価値はある。

しかし、もう少し長い目で見ると、インサイトが「プリウスと違うハイブリッドカーの新基準を作ったこと」ところに重要な意味がある。誤解を恐れずに言えば、プリウスだけでは旧世紀の価値観を破壊する、“21世紀のクルマ市場”は育たない。裾野の拡大と新市場の活性化のためには、異なるコンセプトとユーザー体験が提示できる、実力あるプレーヤーの登場は不可欠だ。

今回のインサイトはまさに、プリウスと同じ未来を見据えつつ、異なる価値を提案できる存在になっている。大げさな言い方をすれば、初代プリウス発売から10年余りを経て、ようやく21世紀のクルマを市場に問うていく体制が整ってきた。

新型インサイトがもたらしたもの。それは新時代の幕開けである。

《神尾寿》

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