ユビークリンク「全力案内!」サービスマネージャーに聞く プローブビジネスの今後…神尾寿

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プローブサービスはカーナビの必須機能に

ケータイ向けGPS地図ナビゲーションサービスの後発ながら、タクシープローブを使った独自の渋滞情報サービスを武器に、順調に成長しているのがユビークリンクの「全力案内!」だ。携帯ナビで競争の軸足を“クルマ向け”に置き、この分野の最大手であるNAVITIMEにない独自性を出すなど、全力案内の取り組みはとてもユニークだ。

プローブサービスは、本田技研工業の「インターナビ」が世界に先駆け、トヨタ自動車や日産自動車など大手自動車メーカーのテレマティクス、さらに市販カーナビメーカーではパイオニアも商用サービスを開始。高精度・高性能なカーナビにとって必須の機能にまでなってきている。そのような中で、ユビークリンクのプローブはどのような優位性があり、今後どのような発展をしていくのか。

ユビークリンク サービスマネジメントグループ グループマネージャーの本田健司氏に話を聞いた。

◆タクシー会社のGPS無線配車システムと連携

ここで全力案内!のプローブシステムについておさらいしておこう。

全力案内!ではユビークリンクがデータの収集・蓄積をするタクシープローブ情報と、ユーザーから収集する渋滞情報のふたつをあわせて、独自のプローブ渋滞情報を生成している。基本はリアルタイムプローブであるが、千葉や神奈川の一部地域では蓄積統計型プローブのみの場所もあるという。これらのプローブ渋滞情報をJARTICの渋滞情報をあわせてユーザーに提供する仕組みだ。NAVITIMEなど他の携帯ナビはオンデマンドVICSを利用しているが、全力案内!は独自のプローブ情報の部分が「+α」のアドバンテージとなるわけだ。

「プローブ情報を収集・提供しているのは、新潟・浜松・京都・堺・静岡・北九州を除く全国の政令指定級都市になっています。データを収集する対象エリアは、VICSのリンク定義済み道路約33万Kmと、非定義道路でかつ生活細街路を除く約83万Kmです」(本田氏)

タクシー会社とユビークリンクは個別にプローブデータの提供契約を結んでおり、現在は約1万1500台から情報を収集している。タクシーからのデータ収集は「デジタルMCA無線を使ったGPS配車システムを利用するケースが多い。そのためデジタル化投資がされているタクシー会社が(プローブ情報収集の)主な対象になっている」(本田氏)という。ユビークリンクはタクシー会社にプローブ情報を収集するためのサーバーを設置し、それを個々のタクシー会社が持つGPS無線配車システムと接続するイメージだ。

◆タクシーを使うメリットとデメリット

商用化されたプローブサービスとしては、ホンダやトヨタなど他のサービス事業者は「会員同士でプローブ情報を共有する」スキームを基本にしている。タクシープローブ情報をサービスのコアに持ってきている本格的なプローブサービスは、ユビークリンクの全力案内!が初めてである。タクシーのプローブ情報には、どのようなメリットとデメリットがあるのだろうか。

「タクシーを使うメリットは、『渋滞情報がまんべんなく集められる』ところですね。例えば、(ベテランドライバーが多い)タクシーでは抜け道情報も集まりやすい」(本田氏)

「逆にタクシープローブが苦手とするのが、長距離といいますか、都市間の渋滞情報ですね。タクシーで長距離を走るというのは、あまりありませんから。また全体的には地方郊外のデータ収集量が少ないという点もあります。しかし、これ(地方の渋滞情報が少ない)は、そもそも渋滞情報のニーズが都市部に集中していることから、それほど大きな課題ではないと考えています」(本田氏)

都市部と郊外におけるデータ収集量のばらつきは、渋滞情報生成時のノウハウでもある程度はカバーできるという。全力案内!のプローブサービスでは、地域ごとに収集したデータから渋滞情報を生成するタイミングを細かく設定できるという。例えば、都市部では「10 - 15分サイクルで渋滞情報を生成し、郊外はもっと長めのサイクルにして蓄積統計(による渋滞情報)の比重を高くするといった運用ができる」(本田氏)のだ。最短では5分間隔でのデータ生成も可能だという。なお、ここでいう「データ生成」はプローブ情報をどのタイミングで作るのかという部分であり、ユーザーに提供するデータの更新は5分間隔で行われている。

また、タクシーのプローブでもひとつ懸念されるのが、“タクシーならではの運転特性”だ。タクシーの場合、利用者の乗降時に停車するだけでなく、駅やホテル前で「客待ち」の停車をし、空車で走っている時は「客探し」で他のクルマよりもゆっくり走るケースも多い。こうしたタクシーならではの運転特性は、プローブ渋滞情報を作る上での“ノイズ”にならないのだろうか。

「今のところは(タクシーならではの運転特性は)プローブデータ生成時にある程度配慮しています。しかし、これまで運用した経験では、運転特性により、収集される交通情報の効率性が違ってくることが分かっています。ですから、我々としてはタクシープローブを集める際に、運転特性を更に考慮して交通情報を生成すること考えています」(本田氏)

また、プローブ情報の生成時にも、「データのクレンジング(洗浄)」という形で、タクシープローブならではのノイズを可能なかぎり除去しているという。

「例えば、ターミナル駅周辺の客待ち(のノロノロ運転)などは、一定水準は除去しています。特に完全に停止している列ならば、かなりの確率でクレンジングが可能なのですが、ノロノロと動いている場合ですと実際の渋滞との判別が難しいところです。このあたりは我々もノウハウを蓄積しながら対処しているところです」(本田氏) 

タクシープローブのデータ精度向上は、経験がものを言う分野であり、実際のサービス運用では様々なシチュエーションに遭遇するという。「これは笑い話だが」と本田氏は話す。

「ある地区で、タクシープローブの渋滞情報がグルグルと円を描いて集まってきたのです。私は最初バグだと思ったのですが、ソフトウェアには何も問題がない。それで現地調査をし、タクシーのドライバーに話を聞いたところ、そこは『高級住宅地で乗客が多い地域なのだが、取り締まりが厳しくて駐停車や一時停止ができない』ところだとわかったのです。つまり、タクシーがお客さんを求めて、実際にゆっくりとグルグルとその地区を周回していたのです」(笑)

こうした地域・場所による特殊事情は、サーバー側の一律のパラメーターではノイズ除去ができない。

「サーバー側でのデータクレンジング技術も、さらに向上させていかなければなりません。こういった部分はノウハウの蓄積なので、(タクシープローブでの)先行優位性が出てくる分野でもあると考えています」(本田氏)

◆サーバー側からのルート提供も視野に

ユビークリンクは2008年を通じて全力案内!のサービスを向上し続け、さらにタクシープローブの仕組みも大きく成長させた。そして2009年、今後のビジネスモデルやサービスモデルをどのように成長させていくのだろうか。

「タクシープローブの情報収集規模はまだ増やしていきたいと思いますが、その一方で、『適正値の見極め』もしたいと考えています。リアルタイムプローブとして、どの程度の密度でタクシーから渋滞情報を収集すれば、サービスとして適性なのか。これはまだ誰も答えを持っていません。それを見極めたい」(本田氏)

「またビジネス的な部分では、全力案内!のユーザー拡大に努めるとともに、他のカーナビメーカーやPNDメーカーに対してプローブ情報の外販にも積極的に取り組んでいきたい。また、これは私見ですが、将来的にはサーバー側で(ユビークリンクの渋滞情報を用いた)ルート検索まで行い、そのルートをカーナビなど様々な機器に『ルート配信』として提供するビジネスも考えられるでしょう」(同)

クルマ側で使う「カーナビ」から、サーバー側で提供する「ナビゲーションサービス」へ。これは今後5年以内に起こりうる着実な流れだ。ホンダや日産、パイオニア、そしてナビタイムジャパンなど国内勢はもとより、GoogleやTomTom、Nokiaといった海外プレーヤーもその流れの中で“次のナビゲーション市場における主導権”を取ろうとしている。他社に先駆けてタクシープローブ分野の本格商用化を実現し、サーバーサービス型ビジネスに比重をおくユビークリンク。同社が新時代のナビゲーション市場で、ダークホースになれるのか。期待を持って見守りたい。

《神尾寿》

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