1 | イタリア版お座敷列車 |
我が街シエナの駅から、今年から夏秋限定の観光列車が運行されることになった。その名は『ワイン列車』である。ワイナリーめぐりの1日ツアー企画だ。
集団行動に適応できないボクである。日本にいたときから団体旅行はまったくもって苦手で、そのむかし会社員時代も社員旅行をすべてぶっち切った。
だから観光列車と聞いて、日本のお座敷列車の旅を思い起こし、とっさに体を固くした。しかし「廃線部分を辿る」と聞いて、気持ちが揺れた。
またトスカーナは交通が不便で、「テイスティングできるワイン農園が多くありながら、クルマがないと訪問できない」という、自衛隊の違憲合法論に匹敵するジレンマがあった。それを解決する手段としても、興味深い企画である。
ということでボクは、この1日ツアーに参加してみることにした。
2 | ディーゼルカー1両で |
当日朝10時、シエナ駅のホームで待つ。ちなみに、シエナ駅は単線の非電化区間である。すでに参加者と思われる人が何人かいたが、受付らしきものはない。列車も来ていない。
やがてディーゼルカーがトコトコとやってきた。1両である。回送車かと思ったら、それこそ今日の『ワイン列車』だった。中から、妙に元気なスタッフが降りてきた。受付デスクもない。そのゆるさに、まずはホッとした。
ディーゼルカーは、ちょっと前のイタリア国鉄ローカル線における標準車両だ。車体下部のプレートによれば、南部レッジョ・カラーブリアの「オメカ」社による1981年製である。