三菱自動車が次期『ランサーエボリューションX』(ランエボX)向けに開発した新型車両運動統合制御システム「S-AWC」のシステムは、従来型のランエボに搭載されていた、ドライビングを支援するための電子制御システムにアクティブスタビリティコントロール(ASC)を加え、S-AWC ECUでそれらを統合制御するというものだ。
いちばんの“キラーデバイス”は、新開発のASCだ。これはエンジントルクとブレーキ力を4輪に最適配分し、クルマの姿勢を積極制御するというものだ。ブレーキ力の制御システムとしては、左右輪のブレーキ力を調節してスピンを防ぐEBD(電子制御制動力配分)があるが、ASCはそれを一歩進めて、ブレーキ力を4輪独立で制御して姿勢変化に役立てるのだ。
「ブレーキ力と駆動力を比べると、縦方向に働く力はブレーキ力のほうがずっと大きいんです。駆動力にくわえてその強力なブレーキ力を姿勢制御に使うことができるようになったために、駆動力のみを使っていた従来のシステムに比べて姿勢制御の幅は大きく広がりました」(S-AWCの開発を手がけた後田祐一氏)
S-AWCはこのASCおよび従来のランエボに搭載されていたACD(アクティブセンターデフ)、AYC(アクティブヨーコントロール)、スポーツABSの4つのデバイスを統合制御することで、ラリーやスポーツ走行時の車両姿勢を積極的に制御しているのだ。
ちなみにS-AWCのECUがすべての処理を行っているわけではなく、各個のデバイスのコンピュータも常時、独自にそれぞれのメカニズムを作動させている。その情報はCAN(コントロールエリア・ネットワーク:車内LANシステム)を介してS-AWCに伝えられ、必要に応じて各コンピュータに指令を出すという方式を取っている。コマンドのレイヤーが複数存在することは、制御アルゴリズムが難しくなる。「将来的にはすべてのコマンドをひとつのコンピュータで統合制御できるようにしたい」(後田氏)という。