マツダの主力コンパクトカー、新型『デミオ』のエンジンは1.3リットル、1.5リットルの2種類。基本的に旧型デミオのエンジンの改良版で、ECU(エンジン制御コンピュータ)のバージョンアップ、フリクションロス(エンジン内部の摩擦損失)の低減など、こまめなリファインがなされている。
そのエンジン群のなかで目新しさが感じられるのは、何と言ってもミラーサイクル方式という低燃費技術を用いた「ZJ-VEM」型1.3リットル直4エンジンだろう。ミラーサイクルとは、ごく簡単に言えば、圧縮比より膨張比のほうが大きいエンジンのこと。
マツダのミラーサイクルの場合、ピストンが圧縮方向に上がりはじめてもしばらくバルブを閉じず、混合気を吸気ポートに一部吹き返して、残りの混合気だけを圧縮する。圧縮時の混合気の温度上昇が抑えられ、また相対的に膨張比が大きくなるため膨張時に燃焼後の排気の温度も下がる。全体として熱効率が高まるというわけだ。
欠点としては、吸い込む混合気の量が少ないため、エンジンの排気量あたりのトルクが減ってしまう(とくに低回転域で顕著)ことが挙げられる。
ミラーサイクルと言えば、マツダが世界で初めて乗用車にミラーサイクルエンジンを採用したユーノス『800』の2.3リットルV6スーパーチャージャーが有名。
デミオは過給器なしだが、パワートレイン開発本部の松浦直也氏は、「基本的にはユーノス800のときの技術資産を再利用したものです」と語る。マツダとしては、とくに目新しい技術ではなく、既存技術の活用という形で低燃費を狙った格好だ。
「ミラーサイクルは過給器なしでは低速トルクが細くなり、ドライバビリティが低くなってしまいますが、新型デミオの場合、車重が軽いために要求トルクが比較的低いことと、極低速域のトルクの低いところをアイシン製CVTでうまく回避できる見通しが立っていたことから、自然吸気で行けると判断しました」(松浦氏)
トルクが細くなるという欠点があるミラーサイクルだが、JZ-VEMは可変吸気システム「S-VT」が相当にワイドレンジな仕様になっており、カタログ上の圧縮比(=ミラーサイクルにおける膨張比)11に対し、実行膨張比10.4、実行圧縮比は走行状況に応じて7.0−9.6となっている。
燃費は10・15モードで23km/リットル。非ミラーサイクルの1.3リットルモデルがモード燃費で不利になりがちな4ATを使いながら21km/リットルを達成しているのに対して明確なアドバンテージがあるとは言えない数字だが、低負荷巡航時のポンピングロスではそれなりの効果を期待できそうだ。マツダの燃費テクノロジーの進化は、今後も見モノである。