クルマの開発では、一般にコンセプト立案→アイデア展開→立体化→データ化→製品化フォロー→ラインオフと進み、途中では何案か競作が作られて、やがて一つに絞られるという「清々粛々とした」プロセスを経る。しかしこの『ist』(イスト)は当初、製品化は決まってなかったという(12日、デザイントーク)。
国内企画部の庄司有紀子さんは「リサーチによると、20代後半から30代前半の女性は『ヴィッツ』に乗っているパーセンテージが低い。では、何に乗っているかというと輸入車に乗っている。その人たちに乗ってもらえるクルマを作ろう」と、先行開発を始めたという。
「初期のスケッチから、タイヤが4隅にふんばっていて、キャビンがリフト(位置が高い)しているアイデアは頭の中に強くあった」と外形デザインを担当した栄雅也さんは語る。
istの特徴であるタイヤに関しては、一般的にスモールカーでは大きいタイヤは価格が高いために、それなりの小さいタイヤをつけるが、istはこのクラスにしては大径の15インチタイヤを履いている。アクティブさを演出するために、初めから大きなタイヤを狙ったという。
ところでこのist、最初から商品化が決まっていたわけではなかったそうだ。デザイナーのアイデアから生まれたものを、クルマのエクステリアや走行シーンなどを収めたCGによるビデオを制作し、社内で同意を求めていった。すると「意外といいじゃん」という声が高まり、さらには「この外形で作れ」とトップの量産開発指示が出たという。そのために、普通の新車開発では何案か作って選ぶという「競作段階はなかった」とデザイン開発責任者の布垣直昭主査は言う。
そして、フルスケールモデル段階へ。「カタチを作り込んでいく、この時期が一番楽しい」と栄さん。この段階ではほぼ市販車に近いが、ここからボディ面やディティールの吟味など、さらに熟成を重ねて最終モデル審査段階へ。「(量産承認モデルより)フェンダーのふくらみを抑えて、グリルをもっと立体的にした」そうだ。
こうしてistは見事に市販化となった。細かな作業の積み重ねが最終的なクルマの出来につながる。まさにデザイナーは「styl-ist」なのだ。