デジタルがもたらしたクルマのビジネス・サービス…SUBARU 佐々木 礼氏[インタビュー]

デジタルがもたらしたクルマのビジネス・サービス…SUBARU 佐々木 礼氏[インタビュー]
  • デジタルがもたらしたクルマのビジネス・サービス…SUBARU 佐々木 礼氏[インタビュー]

スバルが北米で展開するテレマティクスサービスの変遷と、日本国内への展開状況、およびデジタルが産んだアフターセールス領域における新たな価値について、株式会社SUBARU IT戦略本部 デジタルイノベーション推進部主査 兼 技術本部 車両開発統括部主査の佐々木礼氏に聞いた。

佐々木氏は、8月29日開催の無料のオンラインセミナー「クルマを売った後の儲け方~コネクテッドカーのマネタイズ~」に登壇しこのテーマで講演予定だ。

クルマとデータが繋がって創出される価値

---:今回のセミナーですが、クルマとデータが繋がることで、新たな価値が創出される、という内容ですね。

佐々木:はい。自動車メーカーはこれまで、商品企画、開発、製造をして、クルマをディーラーに卸すところまでが役割だったものが、クルマと繋がることによって、クルマを買っていただいた後のアフターサービスや、使っていくなかでスバルの良さへの気づき、顧客体験などの領域と繋がるようになります。

それによって、お客様との共感やキヅナを得てロイヤリティを高めた上で、あらためて購入していただくことに繋がりますし、データに基づいて次の商品への企画や開発へのフィードバックができるようになったのは大きな変化点であり、目指すべきところでもあります。

---:具体的な取り組みはありますか。

佐々木:去年の12月に、オリジナルのドライブアプリ「SUBAROAD」をリリースしました。ナビと言えば、目的地までの最短のルートを案内するものですが、SUBAROADは、スバル車で走って楽しいルートをこちらから提案して、GPSデータを活かして、ロケーションにあわせた専用のBGMやガイダンスを流すこともできます。SUBARU車の走る愉しさ・よさをもっとよく知って好きになってもらう。そんなことを考えて作ったものです。

そしてコネクテッドサービスでは、サブスクを開始しています。2015年にアメリカで、20年には日本でも立ち上げました。今後も機能拡充や市場の拡大も考えています。

SUBARUが提供するコネクテッドサービスでは、リモートエンジンスターターなどの機能や、リコール通知をスマホで表示したり、入庫予約やエアコン操作もスマホから操作できるといったところが好評です。

---:これは無料のサービスですか。

佐々木:現在のアメリカでのサービス体系では、3年間無料で4年目以降は50ドルから料金が発生するようになっています。機能を追加する場合は+αで料金が発生します。

最初は無料にしていることもあり加入率は9割超えと非常に高く、そこで満足を頂けたお客様が多いと思います。その裏付けとして有料プランも6割方が契約していただいています。先ほど申し上げたリモートエンジンスターターなどのリモート機能が好評ですね。

日本では2020年からのサービス開始で、年間5,500円の料金体系ですが、最初の5年間は無料ですので、現時点では有料のお客様はまだいません。

人気のコネクテッドサービスとは

---:エンジンスターター以外でユーザーから人気のある機能はありますか?

佐々木:アメリカでは、ショッピングモール等の駐車場でどこにクルマを停めたのかがわかるロケーターが人気ですね。ライトを点けたりホーンを鳴らしたりできる機能は使い勝手がよく好評です。それから、クルマ好きな方には、タイヤの空気圧やバッテリーの電圧など、クルマの状態が確認できる機能も喜ばれています。またアメリカではプラグインハイブリッドがあるので、リモートの充電予約機能を喜ばれる方もいますね。

---:それは充電開始時間を指定する機能ですか?

佐々木:そうです。開始時間や終了時間も指示することもできて、電池にとっても優しく効率的な充電をすることもできます。

---:今後スバルとしてはどんな機能を用意したいとお考えですか?

佐々木:やはりソフトウェアの更新ですね。今までだと何時間も機械を挿して書き換えをするのが一般的でしたが、最近だと、マツダさんがエンジンの制御プログラムを最新化するサービスをやっています。そのようなことをOTAでやるとより良いと思いますし、着実にやっていかなければならないことだと感じています。

スバルオーナーの特徴:ドライブを楽しむ

佐々木:これまでは、アフターセールス領域においては、お客様と自動車メーカーとのタッチポイントか少なかったのですが、コネクテッドサービスによって大きく変わってきていると感じています。

当社のSUBARU Digital Innovation Labで調べた中で、大きく3つスバルのお客様の特徴が見えてきました。1つは、お客様にとってスバルは単なる移動手段ではないということ。そして移動以上の「何か」を求めているということ。また効率という言葉で言い表すことができないエモーショナルなものを望んでらっしゃるということ。この3つです。

調査にあたって、お客様を9つのセグメントに分け分析したのですが、「ドライブ自体を楽しめる」という項目がほとんどのセグメントで上位に挙げられており、スバルの特徴として明らかになりました。

とあるオーナーは、わざとナビから外れた道をドライブして、その土地ならではの風景を楽しんだり、スバル車の性能を感じられる道があったりすると本当に愉しい、とおっしゃっていただいています。

このような調査から、いつの間にかナビの言う通りにしかドライブしなくなり、テクノロジーの進化によって効率ばかり求めて楽しいのだろうか、ということを考えるようになりました。つまり、ドライブぐらいは楽しんでもいい、目的地に着くだけがスバルじゃない、ということを導き出しました。

やはりスバルらしさを考えた時に、移動の価値以上の「何か」を求めたり、エモーショナルであるということも持っておくべきだということがあります。

それに基づいて「みんなと同じ道はSUBARUじゃない」という言葉を掲げて、去年の12月にSUBAROADというスマホアプリを開発して非常にご好評いただいています。

SUBAROADはスバルの体験を拡張するサービスとして、走りがいのある道をこちらから提案しています。現在、伊豆に3コース、千葉、群馬のコースに加えて、7/21に広島に2コースリリースしました。特に広島コースは、地元を良く知り、SUBARU車を良く知る地元ディーラーと一緒に開発しました。今後もお客様の期待に応えるべく、コース拡充を行っていきます。

コースを選んでドライブを計画して、旅の始まりや海が見えた時に聞きたい曲などをアプリで対話形式で選び、ドライブ中に、その位置情報に応じて選んだ音楽がかかったり、その土地ならではのガイダンスも提供しながら楽しんでもらう、というものです。アプリの提供開始から半年ほど経ちますが、アプリ評価もかなりの高評価をいただいています。

去年の4月、ユーザーさんに先行体験していただいた際には、9割の人が面白かったと言ってくださいました。伊豆で体験してもらったのですが、行く前よりも伊豆が好きになった人も9割以上いて、土地の魅力のガイダンスも9割以上に好評で、クルマの性能も実感することができた、ということで非常に好評でした。

データによってお客様の解像度が上がる

---:今後の展望をお聞かせください。

佐々木:重要なのは、データ・デジタルを活用してスバルブランドとお客様の結びつきを強くするということです。そのため今まで以上に強固な関係性をきちんと作っていくことがスバルの繋がりの本質と考えています。

---:データを活用するとのことですが、どのようなデータを集めているのですか?

佐々木:テレマティクスサービスで言えば例えばどのような機能を使っていらっしゃるかなど、お客様がどういう嗜好をお持ちで、どのような使われ方をされているか様々なデータを組み合わせ、分析することで理解が深まってきました。

私たちにとっては、お客様の解像度が上がることによって商品開発やサービスにもフィードバックができ、よりお客様に刺さるサービスや製品を提供できます。

データ・デジタルによって、コネクテッドサービスや、ディーラーが持っている入庫履歴などのデータと繋ぎ合わせることによって、新たなサービスや価値創造に繋げられると考えています。

佐々木氏が登壇する無料のオンラインセミナー「クルマを売った後の儲け方~コネクテッドカーのマネタイズ~」は8月29日開催。
《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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