BEV普及が拡大するインドEV市場を狙う国内外の自動車メーカの動き…ローランド・ベルガー 伊澤範彦氏[インタビュー]

BEV普及が拡大するインドEV市場を狙う国内外の自動車メーカの動き…ローランド・ベルガー 伊澤範彦氏[インタビュー]
  • BEV普及が拡大するインドEV市場を狙う国内外の自動車メーカの動き…ローランド・ベルガー 伊澤範彦氏[インタビュー]

来たる6月20日、オンラインセミナー「インドEV市場の最前線 ~官・民、地場系・外資系自動車OEM、大企業・スタートアップ~」が開催される。

セミナーでは以下のテーマについて、株式会社ローランド・ベルガー プロジェクトマネージャーの伊澤範彦氏が分析する。

<セミナーテーマ>
1.インドのマクロ経済環境
2.インド自動車産業の市場・競争環境
3.インドの中央・州政府によるEV促進政策
4.主要プレイヤーのインドEV市場攻略

セミナーに先立ち伊澤氏にセミナーの見どころを聞いた。セミナーの詳細・お申込はこちら。

■インドが日本を抜き3位に

インドと言えば、人口が中国を抜き世界最大になったことが話題になったが、自動車市場の規模はどの程度まで成長しているのだろうか。

「新車販売台数(乗用車+商用車)で見ると、実はインドはすでに2022年の段階で日本を超えていました。これはインド自動車公共会の発表に基づく数値で、インドは473万台に対して日本は420万台となっています。つまりインドは中国、アメリカに続く世界第三位の自動車市場になっています。」

「メーカー別のシェアでは、2021年時点で45%がマルチスズキ、次にヒョンデ、タタ、マヒンドラが続いています。2017年にはマルチスズキが50%近くを占めていましたが、少しずつ減少しました。この原因は、SUVという拡大する市場であまり成功しなかったからだと言われています。その一方、ヒョンデとタタモーターズはシェアを少しづつ伸ばしています。マヒンドラは大きくは伸びてはいませんが、現在トヨタと4番手を争っています。」

■BEVの普及が拡大する

成長する自動車市場とともに、EV市場としても拡大が見込まれると伊澤氏は説明する。

「2021年時点でインドの電動車の普及率は0.2%です。これはBEVだけでなく、PHEVやHEVを合算した数値ですので、実質的にはまだ普及していないという状態です。

しかし今後、インドのEV普及の予想は右肩上がりで、2030年には19.2%くらいにまで上がると予測されています。インドが今後PHEVやHEVを取り入れる可能性は低いため、これらは基本的にBEVとなるでしょう。したがって、BEVの普及率は20%くらいに達すると考えられます。これは、2022年時点での中国のEVの普及率19.9%と同等の水準となります。」

「これに向けて、インドのEV産業は政府と民間の両方から支援を受けています。また、インドのプレイヤーだけでなく、世界的なプレイヤーも積極的に関与し、EV産業の発展を推進しています。」

「インドの中央政府と州政府は、EVの普及促進政策を積極的に推進しています。そして地元の自動車メーカーやスタートアップもEVの製造を始めています。」

■インドのEV市場を狙う各企業の動向

EVの一大市場へと成長が見込まれるインドで、地元のインド企業とグローパル企業の動向が活発化していると伊澤氏は指摘する。

「まず地元のプレイヤーとしてはタタとマヒンドラが目立っています。さらにOraという配車サービス企業が電動スクーターの製造を開始しており、近い将来四輪車も製造する予定です。これらの地元プレイヤーによる動きが、EVの普及をさらに加速させるでしょう。」

「グローバルな視点から見ると、中国や韓国、欧州の企業もインドでのEVビジネスを強化しています。韓国のヒョンデは既に市場シェアを獲得しており、新モデルのIONIQ5の投入でさらにそのシェアを拡大する計画があります。中国最大のEVメーカーであるBYDもすでにインド市場に参入しており、積極的な販売活動を行っています。」

「欧州企業についても、フォルクスワーゲングループのブランドであるシュコダがインド市場を主導する形で位置づけられています。まだ具体的な投入は行っていませんが、市場調査を開始し、近い将来の参入をアナウンスしています。」

「さらに投資家たちもインドのEV産業に注目し、その発展を後押ししています。例えば、政府や国際機関の投資組織であるブリティッシュ・インターナショナル・インベストメントやADBベンチャーズなどがタタやマヒンドラへの投資を行っています。また、セコイアやKKRといった、米欧やアジアの著名なベンチャーキャピタルも出資しています。これらの動きから、インドのEV産業に対する期待が高まっていることがわかります。」

■タタとマヒンドラの動きが活発化

インドの自動車メーカーと言えば、タタとマヒンドラが2トップとして挙げられる。電動化に対してどのように取り組んでいるのだろうか。

「インドのEV産業において、タタとマヒンドラのような企業が民間プレイヤーとして積極的に活動しています。2021年からEVのビジネスに参入したこれら2社は、それぞれがパッセンジャー向けのエレクトリックモビリティを担当する子会社をスピンアウトし、スピーディーな意思決定を可能にしています。

「現時点でインドのEV販売は5万台規模であり、この96%がタタによるものです。タタが先行している理由としては、一つに「タタユニバース」の展開があります。」

「これはタタグループ全体での取り組みで、車の製造(タタモーターズ)、電力供給(タタパワー)、電池製造(タタケミカルズ)、バッテリー組立(タタオートコンプ)、購入時のファイナンス(タタモーターズファイナンス)と、EVの製造から販売までを一貫して手掛けていることが特徴となっています。特に家電量販店クロマでのEV販売は、従来の自動車販売とは異なるスマートフォンのような販売形態を採用しており、新しい取り組みといえます。」

「さらに、タタはデジタルエンジニアリング会社であるタタエレクシーを所有しており、ここではEV関連技術のR&D、設計試験ソフトウェア、デプロイメントまでを一手に行っています。タタはタタコンサルタンシーサービス(TCS)、つまりインド最大のIT企業も所有しており、これと連携しつつエンジニアリングハードの部分も取り組んでいます。このような集約的な体制が、タタがインドのEV市場でリーダーシップを取る一因となっています。」

マヒンドラはフォルクスワーゲンのMEBプラットフォームを採用する予定があります。」

「また、フォーミュラEに長年参加しているタタとマヒンドラは、EVの技術開発にも力を入れてきました。特にマヒンドラはフォーミュラEが始まった2014年からずっと参加しており、これによって技術開発の経験を蓄積しています。」

「マヒンドラは、少し異なったアプローチでEV市場に参入しています。具体的には、2018年にイタリアの自動車デザイン会社ピニンファリーナを買収しました。マヒンドラはこのピニンファリーナを使って超高級EV、「バティスタEV」の製造を開始しました。これは3億円弱という価格帯のハイパーカーで、2019年から販売が始まっています。

また、マヒンドラは2020年にイギリスのオックスフォードにマヒンドラアドバンスデザインヨーロッパを設立しました。これはマヒンドラが2014年から参加しているフォーミュラEで培った技術を活用し、先進的なEVのコンセプトを企画するための施設です。

最近ではXUV400というスタイリッシュなSUVのEVをリリースしており、マヒンドラは先鋭的でクールな方向性を追求しているようです。」

「Oraはインドの電動スクーター市場で既に成功を収めています。彼らのOra S1というモデルは、2022年7月までに約7万台販売されています。また、同社のCEOは2024年に4輪のSUVを投入する予定であると宣言しています。彼らはその新車には高度な運転支援システム(ADAS)を搭載し、一回の充電で500キロ走行することを目指していると述べています。

さらに、Oraはチェンナイに「フューチャーファクトリー」と名付けた生産施設を持っています。これはテスラの「ギガファクトリー」にならったもので、電動スクーターだけでなく、今後予定されているSUV向けのEVも製造できるように計画されています。」

■世界のメーカーがインドのEV化に注目

グローバルに事業展開する自動車メーカーも、インドのEV市場を狙う動きが活発化している。

「中国のBYDはすでに2022年12月にSUVモデルの「アット3」をインド市場に投入し、2023年には高級セダンモデルの「シール」を投入する予定です。また、中国の上海汽車が運営するMGモーターズも、「MG4EV」の投入を予定しています。

韓国のヒョンデは既に「IONIQ 5」の予約を開始し、ヨーロッパのシュコダも2023年に「Enyaq」を投入する予定です。フランスのシトロエンは特にインド市場向けに開発したコンパクトSUVの「eC3」を2023年2月に発売しました。

一方、ドイツのメルセデスは2022年10月に「EQS」をインド市場に投入し、インドのプネー近郊のチャカン工場で生産しています。同社はさらに「EQB」というクロスオーバーSUVの販売も開始し、今後8から12ヶ月でさらに4車種を投入し、2027年までのインドでの販売を25%のEVにすると宣言しています。

BMWも2023年5月までに3車種のEV(i4 / i7 / iX)をインド市場に投入し、さらに2023年末までに発売するEV12車種についてインドへの投入を検討するとのことです。

一方で、ポルシェはインド市場でEVを積極的に推進する意向があるようには見えません。むしろ、従来のエンジン車の販売を順調に伸ばしているようです。

以上のように、インドのEV市場は、国内外の自動車メーカーがさまざまな戦略を持って取り組んでいる舞台です。」

■日系メーカーの動向は

スズキと言えば、インド市場において約半分のシェアを持つ大きな存在だ。電動化に向けての動きを伊澤氏は以下のように説明する。

「スズキはトヨタと連携してインドのEV市場に大規模な投資を行う予定です。共同でEVの専用プラットフォームを開発し、2025年までにその新しいSUVモデルを発売すると発表しています。これはエンジン車からのプラットフォームの流用ではなく、EV専用に設計したものを用いるとのことです。」

「さらにグジャラート州で約510億円を投じて2025年までにEVの生産を開始し、さらに約1200億円を投資して2026年までに電池の工場を稼働させたいと考えています。」

「一方、日産は約800億円をインドへの投資に回し、EV2車種含む6車種をインドで生産する計画です。主に小型車のAセグメントに焦点を当て、既存のEVの知識を活用しつつ、新しいプラットフォームを作るとのことです。」

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6月20日のオンラインセミナーでは、ここで紹介した内容に関連して、さらに深いリサーチや最新動向・洞察が伊澤氏から伝えられることだろう。セミナーの開催概要はこちら。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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