編集部 アイデンティティをどのように見つけるか、その方法論、各論に移りましょう。三菱の場合はどうでしたか。
ブーレイ 三菱のデザイン本部長に就任して、私はまず三菱の自動車博物館(ギャラリー)へ行って、三菱の歴史を知ることにしました。そして、そこで今の新型三菱車にも使っているスリーダイヤモンド・マークの造形処理を見つけました。『レオ』のグリルです。
フミア 伝統と新製品とを循環してブランドを作り上げるサークル・オブ・アイデンティティですね。
ブーレイ それから三菱はパリ−ダカール・ラリーに参戦しているのですが、私は今年、現地エジプトで見学してきました。ファンタスティック! これこそ三菱だと思いましたね。パリダカ『パジェロ』は現代のゼロ戦です。テクノロジーが感動と情熱を呼び起こす。三菱車の技術的な優秀性をデザインで表現し、消費者に伝えたいですね。デザインはブランドのコミュニケーション・ツールです。
フミア 三菱が開発して第2次大戦で活躍した戦闘機がゼロですよね。私も三菱と仕事をしていたときは航空機メーカーとしてのイメージや関連性をデザイン提案しました。これは他の日本メーカーにない大きな特徴です。
ブーレイ 私がかつて在籍したスバルも航空機メーカーでした。
フミア 共通するのはダイナミック、動的なデザインですか。
ブーレイ エンジンの音も音楽にたとえられるような……。ただ、ブランドはコツコツと築き上げるものですが、壊れるのは瞬時です。とくに消費者の間で悪い心理的イメージが作られてしまうと、ブランドの再生は非常にタフな仕事になります。
編集部 ブーレイさんは『グランディス』で日本的なデザインを強調しました。フミアさんも同様の主張をなさいました。では日本的なデザインとは何でしょうか。
ブーレイ 微妙な季節の移ろいを感じる日本人の感性をグランディスのデザインでは意識しました。歴史的に言うと日本の自動車産業はまずマイクロ・アメリカンを作ることから始まり、つぎにマイクロ・ユーロピアンを作ろうとしてきました。今までは学習期間ですね。
フミア 文化的なコピーでしたが、そう悪いこととは思いません。コピーではなくオマージュでしょう。フランスのパリにエッフェル塔があり、後から日本の東京に東京タワーが建てられた。東京タワーはエッフェル塔と同じカタチではありません。もっとも、あまり日本的でもありませんが。
さっき述べたように正しい道を歩みつつある日本ブランドもあります。他とは違ったデザインのクルマが増えてきて、それが成功を収めています。日本デザインで鍵となるのは、やはり「テクノロジー」ではないでしょうか。ブーレイさんのお話だと三菱もテクノロジーをアイデンティティのひとつにしようとしています。今度の東京モーターショーはこれまでと違ったショーになるのではないかと期待しています。
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