1985年の登場以来、“マウンテントレール”のコンセプトに特化していながらも、扱いやすい入門モデルとしてロングセラーとなったヤマハ『セロー』シリーズ。
キックからセルスターターへ、ドラムブレーキからディスクブレーキへ、キャブレターからフューエルインジェクションへ。テクノロジーの進化と時代の要請に合わせてマイナーチェンジを繰り返してきたが、そのコンセプトは変わることなく32年の歴史を紡いできた。
◆女性たちからも支持される理由
実は、筆者もセローを所有していたことがある。子どもができたという友人から安価で譲り受けたのだ。スポーツバイクにばかり乗っていたわたしは、高速道路でこそセローのギアレシオに戸惑ったが、ダート路面で本領発揮するセローにしばらく夢中になった。
初めて成功したアクセルターンはセローでだったし、初めてスタンディングスティルができたのもセローだった。なにより、身長161cmだが足短めのわたしにとって、足着きで気をつかわないセローは、しばらく他のバイクに乗らなくなるほどお気に入りの1台だった。
3年ほどセローとともに暮らしていたのだが、子育てが落ち着いてきた友人からまたセローに乗りたいと連絡があったので、そのままその車両を返すことになった。それほど、セローにはちょっとやそっとでは壊れないという安心感がある。
別の友人が突然バイクの免許を取ると言い出し、なにか自分に合った中古バイクを探してもらえないかと依頼を受けたことがある。身長150cmそこそこの彼女が最初に所有すべきモデル……、まっさきに浮かんだのがセローだった。すぐに出物が見つかり、免許取得当日まで友人には内緒にしてサプライズで納車するという暴挙に出た。幸い、友人はいたく気に入ってくれて、最初のバイクライフを楽しんでいた様子だった。
いま思えば、225のセローもシート高は810mmで、めちゃくちゃ低いというわけではない。それでも、自分も含め特に女性たちから支持されるのは、セローの持つバランスの良さや、マウンテントレールならではの低速の粘りから来る乗りやすさからだ。
◆“変わらない”セローの復活
さて、昨年2017年に排出ガス規制などでセローや『SR400』などの生産終了が発表された。空冷モデルは新基準への対応が難しいとも言われていて、セローも水冷化されるのではないかと噂されていたが、ご覧の通り前モデルをかなり踏襲したモデルチェンジとなった。
外観上、大きく変更となったのはLEDのテールランプとそれに伴うリアフェンダーくらい。あとは、エンジンの左前に取り付けられた黒いキャニスターが増えた程度で、驚くほど変わっていない。実際、またがってみてすぐに、これこれ!と思いだすくらい、セロー225時代から脈々と続くセローイズムが変わっていないことを確認できた。
いったん生産終了してからの復活ゆえ、大きくモデルチェンジすることもできたはずだ。しかし、いまや少数となったオフロード系モデルの源流をつなぐものとして、“変わらない”選択をしたセロー250は、実にチャレンジングだと思う。
マイナーチェンジであればメディア向けの発表会は行わないのが普通だが、今回は問い合わせが多く、急遽決まったという“撮影会”。乗らなくともセローの素晴らしさはすでに十分知られているはずだ、というヤマハの自信がうかがえる出来事であった。