相反するテーマに挑む、ホンダ シビック 新型のインテリアデザイン[インタビュー]

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10代目になったホンダ『シビック』のインテリアデザインは上質でありながらスポーティを感じさせたいという、相反するテーマに挑みデザインされた。

◇再びチャレンジする存在へ

本田技術研究所四輪R&Dセンターデザイン室1スタジオの千田隆作さんによると、「シビックをデザインするにあたって大切にしてきた言葉がある。それは“チャレンジ”だ」とコメントする。

「これまでもシビックはその時代におけるホンダの生き様を象徴する存在としてチャレンジを繰り返してきた」と振り返り、「最近のホンダは保守的になったのではないかという声も多く聞かれており、いつしかチャレンジすることを恐れた部分があったのかもしれない」という。

そこで、「我々はもっと自由でやんちゃな存在であるべきだと考えた。それが新しい体験や、ライフスタイルにつながると信じているからだ。そんな思いを持ってデザインの開発はスタートした」と語る。

◇OTOKOMAEと呼べるデザインに

パッケージは、Cセグメントにおいてグローバルで戦えるロー&ワイドでダイナミックなプロポーションに加え、クラストップの空間と実用性を兼ね備えた革新的な骨格をホンダならではのMM思想を追求し作り上げた。

セダンはその革新的骨格をさらに強調する、「先進的なクーペシルエットを与え、全く新しいセダンスタイルを実現。ハッチバックはタイプRを見据えた高い運動性能、アグレッシブさを最大限に表現したデザインとし、“OTOKOMAE”と呼ぶに相応しいエクステリアデザインを目指した」と述べる。

具体的には、セダンは、「スポーティを極め、若々しさと先進性を併せ持たせており、フロントからリアに向かって流れるように抜けていくシルエットと、シャープでありながら抑揚のあるドラマチックなサーフェスによって、全域にわたり存在感を発揮している」と説明。

ハッチバックでは、「頂点に位置するタイプRへ通ずる迫力ある前後のバンパーデザイン。大径のアルミホイールやセンター出しのエキゾーストフィニッシャーが高いパフォーマンスを予感させるデザインとなっている」と話す。

インテリアは、「OTOKOMAEを表現するため、走りを感じさせる上質な空間を目指した」と千田さん。「伸びやかに広がったワイドなインストルメントパネルに、ハイデッキのセンターコンソールが交差するダイナミックな構成が特徴だ」という。

また、「使い勝手においても徹底的にこだわった」と述べる。「フロントシートはフレームの新作も含めた薄型化や、リア席からの足入れ性の改善などを行い、居住性や開放感を大きく向上させた。コンソールには長いアームレストと 大容量のスペースを持たせ、リッチな感覚と高い使い勝手を両立させている」とした。

◇上質とスポーティを両立するインテリアデザイン

実は千田さんはインテリアデザイナーだ。そこで、もう少しインテリアについて、そして“わかる範囲で”エクステリアデザインについて語ってもらった。

---:まずはインテリアのデザインコンセプトを教えてください。

千田隆作さん(以下敬称略):上質でありながらスポーティを感じさせたいという、相反するテーマに挑むというのがコンセプトでした。

ドアを開けた時にインパネの横幅がすごく広いと感じられるでしょう。Cセグメントでここまで広いものはないと思っています。ぱっと乗った時にまず横の広がりで、Dセグメント以上のクルマに乗っているという印象を感じてもらい、そこに一番の特徴であるハイデッキのコンソールを交差させることで、この縦のストラクチャーですごくスポーティなクルマだという記号性を持たせています。それらをうまく融合させるのが今回のテーマでした。

---:縦方向のラインを横基調に融合させるのは非常に難しいテーマですね。横の広がり感を出そうと思っても、この縦のラインを入れると分断されて真逆な印象を与えてしまうこともあります。

千田:そこが相反する要素として挑むというところなのです。伸びやかでありながらも、進行方向に対してのストラクチャー感がある。そういった空間の特性みたいなものを表すことが、狙いに対しての有効な手法だと思いました。

---:確かに乗り込む瞬間に広さを感じました。特にインパネの横の広がり感、横基調のラインがすごくインパクトを持っているのですね。そしてシートに座った時に、確かに横方向は広いのですが、コックピット感を感じるのです。特にハッチバックの方が強く感じました。

千田:基本的なパッケージングは同じですが、ハッチバックはルーフが黒ですので、より上からぎゅっとおさえられたようなフィーリングが伝わったのだと思います。

---:なるほど、それでスポーティなクルマに乗っているという印象を得たのですね。対してセダンは伸びやかで広々感を得ました。特に前後方向でそういった印象をすごく感じました。

千田:今回ハッチバックとセダンとも同じデザインを採用しながらも、それぞれの空間の特性をどう特徴を出すかは、CMF(COLOR・MATERIAL・FINISH)でやることになりました。実際には、パネルの色やルーフの素材を変えるたことで座った時の感覚を変えようとしています。

◇こだわりはセンターコンソール

---:今回のインテリアで一番こだわったところはどこですか。

千田:センターコンソールです。FFですからここにミッションがあるわけではないのですが、2階建てにして収納を含めて使い勝手を向上させながら、『S2000』のようにスポーティに見せるという、広いのですが座るとコクピット感があるというところにこだわりました。

---:メーターも非常に特徴的ですね。

千田:はい。スピードとその他のもののゾーニングをしっかりさせて、液晶を採用することですごく見やすくすることが出来ました。先代は縦に2つ分けていたのですが、今回は集約することでより見やすくしています。

◇デコレーションパネルにシビックの世界観を

---:そのほかにも助手席前などのデコレーションパネルにもこだわりがあると聞きましたが。

千田:はい。ハッチバックはカーボン柄で、セダンはカラーシフトしてチタンのマフラーが焼けたみたいな青からピンクに変化するようなものを採用しています。これは結構苦労しました。

金属が焼けたものを意識しているのですが、角度によって色が変わって見えます。ともすると少し下品に見えてしまう手法なのですが、世界中色々なところで売られるというシビックの性格を表しています。それをセダンに持ってくるというところにこだわったのです。

---:世界中で売るグローバルブランドとしてのシビックと、見る角度によって色が変わる金属が焼けたデコレーションパネルという、つながりをもう少し教えてください。

千田:あくまでも金属を焼けたように見せるというのは手法として選択したものです。見る角度や環境によって色々な表情が出ることを加飾で表現すると、金属のカラーシフトが相応しいと考えたのです。

海外の多くの国で、若い人からお年寄りまで色々な形に買ってもらえるクルマです。そのど真ん中のセダンにこういったデコレーションパネルを採用するということがすごく象徴的だと考えたのです。

◇若返りを図るエクステリアデザイン

---:千田さんはインテリアデザイナーなのですが、エクステリアデザインについても、わかる範囲で教えてください。まず、そのデザインコンセプトは何ですか。

千田:はい、わかる範囲で(笑)。先代シビックは日本で売っていませんでしたが、世界中では結構売れていました。しかし、ユーザー層が高齢化しており、また、若い人も、親が選んで安心だからこれに乗っているという印象がつきつつあったのです。シビックはエントリーモデルですから、積極的に若いお客様に来てもらえないと、その次はないと大きな危機感がありました。

そこで、今回エクステリアで最もやりたかったことは、ぱっと見て若返りをしたという強いメッセージやインパクトを与えることに一番こだわり、そこを大きな目的としました。

案を選ぶ段階では、もう少し真っ当なヨーロッパセダンのようなものもあったのですが、よりアグレッシブに見えることが必要だと、少し強めなウエッジとシャープな塊感が融合したようなデザインを最終的にはチョイスして磨き上げたのです。

実際にこのデザインをアメリカで投入したところ、びっくりするぐらい狙い通りで、購入者の年齢が10歳ぐらい若返りました。なかなか狙ってもそこまではいかないものです。もしかしたら失ったお客様もいるかもしれません。ただ、おそらくよそのブランドに乗っているお客様が、これだったら欲しいといって購入してくれたのだと思います。

◇ルーフラインにこだわったセダン

---:エクステリアデザインでのこだわりはありますか。

千田:特にセダンのこだわりはルーフのラインです。ワンモーションのように見せながら、ギリギリでノッチを付けることでワンモーションではないというラインを、しかもどこから見ても破綻なく作るというのが非常に難しく、ここがセダンの一番のポイントです。セダンにも見えるしクーペのようにも見える。どこかにありそうでないという独特のフォルムが出来ています。

ルーフを長くすることでリアシートの頭の上をそれほどいじめなくて済むというポイントもありました。ピークをかなり前の方に持っていきながらルーフをデザインしています。キモはトランクリッドをものすごく上げて、後端をキックアップさせていることです。

唯一、後方視界が先代と比較し捨てたところなのですが、どこかを捨てないと新しいことが出来ないと割り切り、そこは、今ではカメラなど、昔と違って色々技術でサポート出来ますので、ここはやろうというこだわりを持ちました。

◇セダンとタイプR、その間をつなぐハッチバック

---:セダンとハッチバックでは、どちらが先にデザインをスタートさせたのですか。

千田:このクルマのデザインはセダンがスタートで、1カ月から2カ月遅れで他がスタートしています。もちろんスケッチは同時に描くのですが、クルマの基本であるセダンを作って、そこから次に、一番アグレッシブなタイプRを作り、その間をハッチでつなぐという考え方です。一番スポーティなものをセダンの次に作ったと考えてください。

---:そのスポーティさはデザイン上でどういうところで表現していますか。

千田:例えばスポイラーなども風洞に持ち込んで、とにかくスポーティなタイプRの機能、空力などの形状を究極までデザインし、そのエッセンスをハッチバックに取り入れていっています。

---:そのほかにエクステリアデザインのこだわりをお教えてください。

千田:リアデザインでは、シグネチャーです。ぱっと見た時にシビックが走っているぞとわかることが一番のこだわり所でありスタート地点でした。

あとはロー&ワイドです。普通では衝突性能等考慮するとどんどんフードが高くなります。それをロー&ワイドで打ち消しながら、ハッチバックではリップスポイラーを出すなどでロー&ワイドを演出し、また、ガーニッシュの張り出しの大きさなどで、セダンとの違いを表現し、どちらかというといかつい顔にしてワイドに見せています。

それから、セダンではトランクリッド部分を高くしたおかげ、ダントツの容量を確保しています。ゴルフバッグが横にして3つ積めるというのはこのクラスとしてはありえない大きさでしょう。これも、スポーティさを追求し、かつ、ルーフラインにこだわった結果でもあるのです。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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