【ホンダ レジェンド 500km試乗】ホンダ色は濃厚だが、高級車としては中途半端…井元康一郎

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ホンダ レジェンド
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ホンダが2015年に発売したプレミアムEセグメント(セダンで全長5m程度のクラス)サルーン『レジェンド』で伊豆をツーリングする機会があった。トータル走行距離500km強というちょっとした行楽ドライブレベルではあるが、インプレッションをお届けする。

レジェンドは1985年に初代モデルが登場したホンダの高級車で、現行モデルは5代目に相当する。初代、2代はセダンとクーペが存在したが、3代目からはセダンのみとなり、5代目は全長約5mと、歴代モデルのなかでも最大のボディサイズに。日本ではホンダブランドだが、北米では「アキュラ」チャネルにおいて『RLX』の名で販売される。その北米では3.5リットルV6のFWD(前輪駆動)も存在するが、日本では3.5リットルV6+3モーターハイブリッドのAWD(4輪駆動)仕様のみ。

ラインナップは「ハイブリッド EX」の1グレードで、車両価格は消費税込み680万円。ただし、ボディカラーはワインレッド以外すべて有料色で、ホワイトオーキッドパールに塗られた試乗車の価格は685万4000円だった。スライディングルーフ、レザーインテリア、運転支援システム「ホンダセンシング」、カーナビ&Krell14スピーカーサウンドシステム等々、装備は充実しており、追加装備で稼ぐプレミアムセグメントとしては珍しく“吊るし”の状態で十分に満足の行く仕様になっている。

ドライブルートは東京を起点に首都高速、東名高速、小田原厚木道路等を経由して伊豆の修善寺へ。そこから幅員の狭い西伊豆の海岸沿いを通って半島南端の石廊崎を回り、西湘バイパスおよび一般道経由で東京へ帰着するというもので、総走行距離520.3km。大まかな道路比率は高速道路・有料道路3、市街地3、郊外路3、山岳路1。全区間1名乗車、路面ドライ、エアコンAUTO。

◆「高性能車」と「高級車」

このレジェンドでミニツーリングをしてみて抱いた総合的な印象は、高性能車としてみると動力性能や走行性能は文字通り申し分ないレベルで、ホンダの独自性も濃厚。一方、プレミアムEセグメントのモデルとしてみると高級車的なまとまりを欠き、快適性、先進装備、雰囲気作りなどすべてが中途半端というものだった。

レジェンド=アキュラRLXは最大のターゲットであるアメリカ市場でも大苦戦している。今年上半期は月平均販売台数が100台を割り込んでしまっており、プレミアムラージクラスでは事実上最下位である。クルマの売れ行きは商品力だけで決まるわけではないが、これだけ売れないとさすがに高級車として失格の烙印を押されているも同然である。

同じクラスでベース技術の多くを共有しているSUV、『アキュラMDX』のほうはそこそこいいセールスを記録していることから、ホンダは現行レジェンドをもってプレミアムEセグメントのセダンから手を引く可能性もある。

だが、プレミアムEセグメントはその上のFセグメント(メルセデスベンツ『Sクラス』、BMW『7シリーズ』など)がプレステージクラスとクロスオーバーする領域に足を突っ込んでいる今、量産高級車としては事実上トップカテゴリーとなっている。ホンダが先進国に拠点を置く一流メーカーとしてブランド力を高めていく意思を持っているならば、このクラスのセダンを諦めるべきではないと思う。SUVに比べてビジネス的にはきついかもしれないが、英国王室御用達のランドローバーのような特殊事例を別にすれば、ブランドへの信頼感、ロイヤリティは高級車の基本であるセダンで確立されるものだからだ。

◆ハイテク感バリバリの走行フィール

前置きが長くなった。レジェンドのフィールを項目別に見ていこう。まずは走りだが、この部分はレジェンドの最大のハイライトであった。3.5リットル直噴V6エンジンと3つのモーターを組み合わせた電動4輪駆動「スポーツハイブリッドSH-AWD」は能力的にきわめて優れており、車両重量が2トン近くもあるボディを猛然と加速させ、またコーナリングスピードも高かった。

特徴は単なる速い遅いとは別の、走りのフィールがハイテク感バリバリであること。普通に走っているときから限界領域まで4輪にどうパワーをかけるかをフルタイムで刻々と変化させるSH-AWDのトルクベクタリング効果は絶大で、タイトコーナーの連続する山岳路でも2トン近いボディをオンザレール感覚で走らせることができた。

フロントウインドウのヘッドアップディスプレイに表示可能な情報のなかに、このSH-AWDのリアルタイム作動状況もある。それを表示させてドライブしてみたところ、その制御は想像以上にち密なものだった。

電気モーターは変速機に内装されたものが1個、後輪の左右それぞれに1個ずつの計3つ。とくに興味深かったのは後ろの2個のモーターの動きで、クルーズ時は2個とも前進方向に駆動力をかけるのだが、コーナリング時にはコーナー外側のモーターに前進方向の力を発生させつつ、内側のモーターに回生させてブレーキ力を得るという制御がかかる。最大で74psにもなる後ろ左右輪の出力差が生む反転力は強烈で、タイトコーナーでハンドルを切ると鼻先がぐーんとコーナー出口側に向くような力がかかるのがわかるほどだ。この制御は峠の下り区間のようにスロットル全閉で空走しているときも同じように行われ、旋回性を向上させるのに寄与していた。

ハイブリッドシステムだけでなく、サスペンションの作動も精度感抜群だった。トレッド面がしなやかなミシュラン「PilotSport3」タイヤの特性とあいまって、路面の荒れたコンディションでのアンジュレーション(うねり)やギャップを踏んでもクルマの挙動はほとんど乱れなかった。絶対的な走行性能については、強敵が多いプレミアムEセグメントにおいて、パフォーマンスレベルを堂々と誇れる水準にあると思われた。

動力性能は、700万円前後で買えるプレミアムEセグメントとしては、日産自動車『フーガ』のハイブリッドモデルと並んでクラス最速レベルであった。ハイブリッド混合出力が382psというのは、純ガソリンエンジンでは3リットル6気筒ターボや4.5~5リットルV8自然吸気に相当する。車両重量は1980kgもあるが、それでもパワーウェイトレシオは5.2kg/psと良好。

高速道路のバリアを利用して0-100km/h加速を手動計測してみたところ、アイドリングストップなしのスポーツモードであればブレーキ踏み替えのスタンディングスタートでもゆうに5秒台に入る勢いであった。勾配のきつい伊豆の山岳路においてもパワー不足感はない。熱海から山に向かい、市街地を抜けたところから伊豆スカイライン山伏峠までは4km少々で標高500mを稼ぐという急勾配区間なのだが、もっとパワーが欲しいと思うようなシーンはまったくなかった。

◆プレミアムEセグメントである、ということ

このように、性能だけを見れば、レジェンドは文句のつけどころがない。ところが、運転を安心、安全、楽しいものにするドライビングインフォメーションについては一転、からっきしに近いものがあった。今、自分がクルマの能力のどのくらいを使って走っているのか、ここからさらにハンドルを切り足せばクルマはどう動くのかといった情報がさっぱり伝わってこないのである。視覚と計器表示に頼って運転する、ゲームセンターのドライビングシミュレーターのようなフィールなのだ。

いくら性能が高くても、大丈夫か否かに確信を持てないというのでは、ドライブは楽しくならない。逆に言えば、そこさえちゃんとしていれば一転、気分良く運転できるクルマになる可能性があるので、できるならば体感のデザインを一からやり直してほしいところだ。

燃費はキャップレス給油口の中が見えにくい構造だったため、満タン法での計測はちょっとアバウトにならざるを得なかったが、実燃費の推計はトータルで11.5km/リットル程度、燃費計の数値もほぼそれと同じであった。ロングドライブでの燃費の伸びはあまり良くない半面、混雑気味の都市部でも10km/リットルくらいは出るというイメージ。ちなみにのんびり走れば13km/リットルくらいはすぐに行くだろう。絶対値としてはあまり良くないが、2トンのボディを382psのパワートレインで駆動させる高性能車としては悪くないという線であった。

次に乗り心地と快適性。これだけ大きく、重いモデルなので、フラット感は一応出ているし、突き上げや振動のレベルも悪いというほどではない。が、プレミアムEセグメントは「悪くない」という程度で許されるクラスではない。大きな弱点のひとつは、舗装の古い路面のざらつきのカットの仕方があまり良くなく、ゴロゴロ感が強めに出てしまっていたことだ。ライバルモデルのひとつ、レクサス『GS』もそうなのだが、これはノンプレミアムっぽい印象を強く与えてしまう。

ノンプレミアムの安楽なサルーンであれば、サスペンションのアッパーマウントの樹脂ラバーを柔らかくしてヌルヌルな乗り心地にしてやれば顧客が満足するところだが、プレミアムEセグメントはそういうわけにはいかない。路面状況が厳しいのであれば、その厳しさをしっかりインフォメーションとしてドライバーに伝えつつ、それをクルマがいかにうまく吸収しているかということを体感させるような味に仕立てなければいけない。

どのメーカーであれ自動車のシャシーエンジニアは、それをクルマづくりの最も難しい分野のひとつだと口を揃える。計測器でGや振動を測っても違いが出ない領域で、何をどうすれば良くなるのかというノウハウはメーカーによって異なる。ホンダもモデルによってはとても良くできているものもあるのだが、伝統的に大型車になるとそのチューニングが甘くなる傾向がある。ただ走っているだけで普通のクルマとは違うということを感じさせることが、クルマの格を顧客に認めさせ、財布の紐を緩ませる第一歩になろう。

インテリアはレザーが標準でおごられているのをはじめ、高級車としての仕立てに腐心している。が、いかんせんデザインがノンプレミアムっぽいため、雰囲気の演出には限界があるように思えた。シートはランバーサポート(背骨のフィット感を調節する機能)だけで4種類もの電動調節機能を持つなどきわめて高機能なものだが、体格の良いアメリカ人をメインユーザーに想定しているからか、座面やシートバックのフィット感は格下の『アコード』と比べてやや雑な印象を受けた。

静粛性は高く、騒音が不快に感じられることは基本的にほとんどないだろう。タイヤノイズもほどよくカットされているし、風切り音も僅少。ただ、こんなつまらないところで取りこぼすなんてと思ったのはサンルーフ。コストカットのためか、ガラスの遮音性が低く、サンシェードを開けて走ると途端に頭上からの騒音が増大する。普段が静かなだけに、サンルーフが微妙に開いているのかと思ったくらいだった。こういうところは仕様策定の段階でしっかり上等なものをおごるようにしてほしいところだった。

その静粛性の高い車内でイメージが良かったのは、Krellのプレミアムサウンドシステム。高精彩ながら落ち着いたサウンドで、クラシック、スムーズジャズ、ロックなどジャンルを問わず楽しめそうだった。クルマにライン装着されるOEM系のサウンドシステムの中では、トップとは言わないがかなりいいほうだと感じられた。

安全装備やカーコミュニケーションシステムはカーナビや「ホンダセンシング」をはじめ多くのデバイスが標準装備されている。メニューは充実しているが、この分野の技術は日進月歩なので、放置しているとあっという間に陳腐化してしまう。

ホンダセンシングは停止時から機能する全車速追従型で、基本的にはあると便利と思えるものだったが、渋滞時の追従走行はあまり上手なほうではなく、ギクシャクする動きが目立った。高速道路のレーンキープアシストも、最新のシステムに比べると能力不足だった。ソフトウェアアップデートでよく出来るのなら、ぜひそれをやるべきだろう。

カーナビは他のホンダ車のインターナビと操作ロジックが違って少々使いにくく、また操作に対する応答性も良くなかった。音声認識システムが備えられているが、ほとんど使い物にならなかった。

「ジュエルアイ」と名づけられたヘッドランプは、ランプユニットの中にクリスタルビーズみたいなレンズがスラリと並ぶ、きわめて意匠性の高いものだが、機能的にはハイ/ロービームを自動的に切り替えるだけで、対向車や先行車を避けて照射するフルアクティブハイビームではなかった。今や、インテリジェント配光はプレミアムEセグメントでは当たり前の装備。増してやこれだけ派手なデザインで単なるハイ/ロー切り替えというのは肩透かしポイントになりかねないので、フラッグシップらしい高機能品に換装したほうがいいのではないかと思われた。

◆ホンダマニアか、ハイテクマニアか

レジェンドは高級車としてのまとまりが悪く、販売が低迷しているのも無理はないモデルだった。が、一方でポテンシャルが低いわけではなく、ホンダが高級車の何たるかということについて知見を蓄えれば、今後、いいものにできそうな可能性を感じないわけではないし、現状でもこのクルマを面白いと思う層がもうちょっといてもいいかもしれないと思ったのも確かだった。

このクルマに向くカスタマー像は第一に、財力にゆとりのあるホンダマニア。こういう人はまあ、すでにレジェンドを買っているかもしれない。そうでない顧客でこのクルマを保有して満足を得られそうなのは、何と言ってもハイテクマニアだろう。後輪に左右独立モーターを装備することで、まるで四輪独立インホイールモーターのEVのようなアグレッシブな姿勢制御ができる。しかも高速から低ミュー路まで、判断をほとんど誤らない。そんな高級車は世界広しと言えども滅多にあるものではない。味付けはともかく、ハイテクぶりへの自己満足感は結構味わえる。

また、販売台数が少ないので、路上であまり見かけないクルマをあえて買いたいという人にも良さそう。速さはあるので、結構な飛ばし屋も満足できるはずだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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