ボッシュ年次報告---AIを活用した事業および今後の取り組みについて発表

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代表取締役ウド・ヴォルツ氏
  • 代表取締役ウド・ヴォルツ氏
  • 電動化への取り組み
  • 自動化への取り組み
  • ネットワーク化への取り組み
  • Global Head Bosch Center for Artificial Intelligenceであるクリストフ・パイロ氏
  • AIカーコンピューターはNVIDIAと提携して進める
  • ボッシュAIセンターの使命とは
  • ボッシュの製品をAIによって差別化

自動車部品大手のボッシュは6月8日、都内のボッシュ本社にて、ボッシュグループ年次報告記者会見を開催した。2016年度の業績報告のほか、ボッシュにおけるAIの研究や、AIを活用した新事業が発表された。

記者会見はまず、代表取締役ウド・ヴォルツ氏が登壇し、2016年度の業績報告から始まった。

2016年度の業績報告と2017年度の展望

まずグローバルの業績について報告がなされた。「世界の経済成長率は2.5%、自動車生産は4.5%増の9570万台という状況のなか、ボッシュグループの売上は前年比3.6%増の731億ユーロとなりました。アジアパシフィック地域では、前年比8.3%増の208億ユーロでした」

「2017年度も引き続き経済環境は低成長であり、また北米・欧州は政治経済で大きなリスクを内包しています。そのような中で、売上高伸び率は、保守的な予測ではありますが前年比3-5%を見込んでいます。IoTおよびモビリティのAI化に投資を行っていきます。キーワードは3S=センサー、ソフトウェア、サービスです」

続いてヴォルツ氏は日本におけるボッシュの業績と、注力分野について説明した。「2016年度の売上は2670億円となり、前年比マイナス1.1%となりました。これは、円高および中国の減速の影響を受けたためです。ただその中でも、車載インフォテインメントシステムと二輪車向け各種製品への需要は増加しています」

「注力する分野は三本柱=電動化、自動化、ネットワーク化です。まず電動化について。日本の自動車メーカーに向けて48V製品(マイルドハイブリッド向け規格のひとつ。欧州で普及が始まっている)を提案しています。2018年に出荷される予定です。また、今年はFCEVのチームを起ち上げました。次に自動化について。日本で自動運転向けのシステムエンジニアリングの組織を新たに作りました。そしてネットワーク化について。日本の自動車メーカーに、ボッシュのゲートウェイを使った量産車向けFOTA(車載ファームウェアの無線アップデート)にを2019年に提供予定です」

さらにヴォルツ氏は、コネクティッドインダストリー(筆者注:IoT、AIによる生産効率改善)への取り組みについても触れた。「日本で20件以上のプロジェクトが進行中です。なかには日本初のプロジェクトもあり、世界に横展開を検討しています。AI、データマイニングによってものづくり、カイゼン活動を加速していきます」

「そして今日紹介するAIとIoTを活用した新事業、スマート農業向けソリューションがあります。ボッシュが持つ、大企業ならではのパワーと、スタートアップのようなアジリティ(敏捷性)によって、このような取り組みが実現しました」

ボッシュにおけるAI(人工知能)の研究について

つづいて、ボッシュAIセンター(Bosch Center for Artificial Intelligence)のGlobal Headであるクリストフ・パイロ氏が登場し、AIへの取り組みについて説明した。

「自動車を知能的なアシスタントにするために研究開発をしています。ボッシュは、2016年には70億ユーロを研究開発分野に投資しており、そのような最先端の現場で誇りをもって仕事に取り組んでいます」

ボッシュAIセンターの役割については、「ボッシュの持つAI技術を製品に反映していくこと、AIによって実質的な価値を創出することがテーマです。パロアルトやバンガロールなど世界各地で活動を開始しました。ボッシュの製品群をAIによって差別化していきます」と説明した。

「またボッシュのAIカーコンピューターについて、先日のボッシュコネクティッドワールドで発表した通り、NVIDIAと提携しました。NVIDIAのXavier GPUを搭載します。GPU技術はディープラーニングには欠かせないものです」

パイロ氏は、「将来、製品は時間がたつにつれて価値を増すことになるでしょう。学習するようになるからです。ボッシュはこの分野で、重要な役割を果たしていきます」と展望を語った。

AIを活用したスマート農業向けサービスの発表

記者会見の最後に、スマート農業向け新サービス「Plantect(プランテクト)」について、プロジェクトリーダーの鈴木涼祐氏が登壇し説明した。

「プランテクトは、ハウス栽培向けのAIソリューションです。ハウス栽培の最大の問題は病害防除であり、95%の農家が悩んでいる問題です」

「病害対策の難しさは、農薬を散布するタイミングが分からないことです。病害を防ぐためには、農薬を病原菌に感染するタイミングで散布するのが効果的ですが、感染の瞬間は目に見えません。発症後に散布しても効果は限定的です」

「ある農家では、病害のために70%の収穫を失った例もあります。サラリーマンにあてはめると、年収が7割減ってしまうことを意味します。それほど深刻な問題です。プランテクトは、病害予測を実現するスマート農業ソリューションです」

「プランテクトは、温湿度センサー、CO2センサー、日射量センサー、通信機の各デバイスと、クラウド、ウェブアプリケーションで構成されます。100棟以上のハウスから集めた病害発症データを、ボッシュの最先端AIで分析し、AIによる病害予測を実現しました。病害予測の精度は92%になりました。試作品を使っている農家からは良い反響をいただいています」

「プランテクトは本日より受注を開始し、8月から出荷予定です。病害予測は今のところトマトのみですが、今後はイチゴ、キュウリ、花卉類にも対応予定です。そしてこの事業を海外にも展開していきたいと考えています」

質疑応答および囲み取材

Q:48V製品は日本でも普及する見込みはあるのでしょうか。

技術参与兼ライトハイブリッド室室長上田昌則氏:日本ではストロングハイブリッドが主流であるため、欧州や中国向けのシステムだと理解しています。CO2削減を実現するためには、48V規格はコスト効率の高いシステムだと考えています。

Q:2017年初頭にFCEVのチームを起ち上げたとのことですが、日本でもまだ普及していません。なぜ今FCEVに取り組むのでしょうか。

社長ヴォルツ氏:揺籃期においては、様々な開発が行われていると考えます。ニーズをよく理解するためにも始めました。また燃料電池に関する研究はドイツでもしているため、ボッシュには知見があることも理由の一つです。この分野でも足場を固めたいと思います。

Q:FOTA(車載ファームウェアの無線アップデート)について、クラウド(バックエンドのサーバーやデータベース)もボッシュが用意するのでしょうか。また、接続は4G LTEを利用するのでしょうか。最近FOTAの話題が多いですが、自動車メーカーのニーズが強いのでしょうか。

執行役員オートモーティブエレクトロニクス事業部長石塚秀樹氏:バックエンドは当社ではありません。自動車メーカーが指定したものを使うことになります。通信規格については相手先企業のあることですので回答を差し控えます。

またFOTAに対するニーズについて、自動車メーカーからの要請は非常に強いです。具体的な車種をターゲットにした案件が昨年半ばあたりから増えてきました。背景として、自動運転やエミッション(CO2削減)、リコール・サービスキャンペーンへの対応、また、コネクトされるとハッキングされる恐れがあるため、それに対するバージョンアップというニーズがあります。

Q:プランテクトについて、なぜ日本でこのビジネスを始めようと思ったのでしょうか。日本の農業市場がそれほど大きくないのでは。また売上目標について教えてください。それから、このようなソリューションは世界初なのでしょうか。

プロジェクトリーダーの鈴木涼祐氏:日本にはハウス栽培に関するノウハウの蓄積があるので、日本で始めるのが適切だと考えました。売上目標は差し控えますが、当初1年で数百台を見込んでいます。データマイニングを使った病害予想は世界初だと思います。

Q:プランテクトについて、病害感染のタイミングをどのように予測するのか、具体的な方法を教えてください。

プロジェクトリーダーの鈴木涼祐氏:温湿度センサー、CO2センサー、日射量センサーのデータに加えて、飽差(空気中の水分量)や栽植密度、水耕か土耕か、ハウスの形状などのデータを利用し、それぞれのパラメーターが特定の値になったときに、病害感染のリスクが高いと判定します。日ごとの感染リスクについては、92%の精度で特定ができています。今後、イチゴやキュウリについてもパラメーターの値と病害感染の因果関係を特定していきます。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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