【池原照雄の単眼複眼】不十分なユーザーへのメッセージ…スズキの燃費データ問題

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スズキが燃費データを国の規定と異なる試験方法で行っていたと5月18日に発表。写真はスズキ主要車種
  • スズキが燃費データを国の規定と異なる試験方法で行っていたと5月18日に発表。写真はスズキ主要車種
  • 18日、国交省で会見したスズキの鈴木修会長、鈴木俊宏社長
  • スズキ 決算会見

お客様にご迷惑はおかけしない…

まさに「舌の根も乾かぬうちに」という状況だった。スズキが燃費データを国の規定と異なる試験方法で行っていたと5月18日に発表した件である。8日前の5月10日の決算発表会見で、試験方法等の社内調査に関し鈴木修会長が、その時点では問題はない旨、表明していたからだ。18日の同社の記者会見を取材しながら、もう少し早い時点で公表できたのではないかと、釈然としない思いになった。

スズキが国が定める測定法によらない走行抵抗値で型式指定を受け、販売していたのは同社の国内向け全16車種とマツダや日産自動車などにOEM供給している11車種。2010年以降、これまでの累計販売は210万台超に及ぶ。ただし、「燃費をよくしようという意図はなかったと判断している」(開発部門担当の本田治副社長)という。実際、正しい方法で測った走行抵抗値に基づく燃費の再測定を行ったところ、全車、国の認可値に対する差異が「プラスマイナス5%に満たない」(同)範囲だったとしている。

この検証について鈴木会長は「当社の(カタログ)燃費表示には問題はないと確認できた」と言及、販売の継続については「お客様にご迷惑をおかけすることはないので、私どもとしては続けさせていただくという考え方」との方針を示した。

◆赤信号みんなで渡れば―式の記者会見に

今回の問題を鈴木会長に報告したタイミングについて本田副社長は「トップに中途半端な報告はできないので、大型連休明けになった」とし、決算発表時には伝わっていなかったと釈明した。ただ、燃費の検証は「大型連休をほとんど使って作業した」(本田副社長)という。恐らく、担当部署は大混乱だったはずであり、そのような状況をトップにあげないというのは余りにも不自然だ。

よしんば、そうであったとしても、国土交通省が自動車メーカー各社の社内調査の結果報告締切日と定めた5月18日より前に、報告・公表するという手もあったのではないかと考える。悪いニュースは「早く、詳しく、ていねいに」ステークホルダーに伝えるほうが、信頼の回復につながっていくからだ。

しかしながら、スズキが国交省で行った記者会見は18日の16時に設定された。この日は三菱自動車工業が国交省に3回目の調査報告をする日でもあり、夕刻からは同社の会見もセットされる見通しとなっていた(結果的には17時半に設定)。同じ不祥事テーマで記者会見が連続して行われる。これでは「赤信号みんなで渡れば―」そのものだと思った。

◆軽自動車ファンへていねいな説明を

先に開くスズキの会見は、後ろが切られるので、これまでの三菱自動車のようにロングラン(毎回2時間余り)にはならない。実際、スズキの会見は1時間余りで打ち切りとなった。当事者には、「うまく乗り切った」という評価になるかもしれないが、そうは思えない。

会見を通じ、スズキが発するメッセージとしてとくに「不足感」を感じたのは対ユーザー向けだった。顧客に「ご迷惑はおかけすることはない」(鈴木会長)というのは、スズキ側の見解であり、個々のユーザーにとってみれば、規定外の測定だったことへ不快感や疑念を抱く向きも少なくないはずだ。

鈴木会長は『アルト』(1979年)、『ワゴンR』(1993年)、『ハスラー』(2014年)という時代ごとの画期的モデルを世に送り出して軽自動車市場をけん引してきた。それだけに、スズキファンあるいは軽自動車ファンへのていねいな説明を期待したい。

《池原照雄》

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