愛知県豊橋市。三河湾に面する静かな埋立地に、巨大な自動車運搬船が着ける岸壁や、広大な駐車場を備えたエリアがある。神野地区と明海地区だ。この2地区を含む三河港は、欧米ブランドの輸入拠点、国産メーカーの積出し拠点として稼動する、日本一の自動車輸出入港だ。
豊橋駅西口から西へ7kmほどクルマを走らせると、穏やかな三河湾に面した神野地区へと入る。この神野エリアは、三河港豊橋コンテナターミナルを含む三河港の「物流拠点」。ボルボ、フォード、ジャガー、フィアット、クライスラー、プジョー、メルセデス・ベンツなどの輸入拠点で、スズキの輸出向け商品の積み出し拠点でもある。
1978年、三菱がこの三河港から完成車を輸出したのを皮切りに、トヨタ、スズキ、メルセデス、フォルクスワーゲン、アウディ、フィアット、プジョー・シトロエンなどが順次、この地を拠点に選んだ。現在は、国内メーカー4ブランド、海外メーカー21ブランドが集結。輸入車取り扱い台数は2014年が18万台、金額は6000億円弱にまで達し、「2014年の(2015年時点で)自動車輸入台数・金額ともに23年連続日本一」(三河港振興会)という規模にまで拡大した。
「三河港の輸入車取り扱いシェアは53%で、その次に千葉18%、日立14%と続く。輸入車ブランドのほとんどが三河を拠点としているが、BMWなどは千葉に拠点を構えている」(三河港振興会)
この日は、欧州からの自動車運搬船の姿があり、フードやルーフに白いラップが施されたメルセデスのクルマが、次々と駐車場へと向かっていった。人の気配がまったくない埋立地を、ヘッドライトを点け、仮ナンバーで走るメルセデス。その車列の光景は、怖ささえ感じてしまうほど。三河港振興会は、「日本の中心的位置にあり、東名高速道や国道1号・23号などの幹線道路へのアクセスもいいという好立地もあるが、温暖な気候で雪が降らないという気象条件もメーカーに選んでもらえる理由のひとつ」と教えてくれた。
カバーやラップに包まれた、出荷前点検(PDI、Pre-Delivery Inspection)を待つクルマたちがズラリ並ぶ神野地区。その南にはトピー工業や豊橋造船、トヨタ紡織などの巨大工場がひしめく明海地区、西にはレクサスやランクルが製造されているトヨタ田原工場、アイシン・エィ・ダブリュなどの田原地区が隣り合う。
豊橋というと、豊橋鉄道市内線が走る国道1号(東海道)や豊橋市役所、吉田城などがある東側をすぐに想像するかもしれない。名鉄線や渥美線のホームも東側に位置している。その反対の新幹線ホーム側(海寄り)は、静かな港町の風情が広がっている。西口で赤提灯を点す焼き鳥屋の主は、「クルマ関係や港湾関係の人たちが接待で使う店も残っている。こういう居酒屋には、そこで働く人たちが立ち寄ってくれる。ひとり静かに飲むタイプが多いね」という。
同会は、「豊橋に来たら、われわれのオフィスが入居している展望台施設『カモメリア』から、日本一の自動車港湾の姿も眺めに来て」とも話していた。