狙え、インバウンド需要…ホテル業界の事業戦略を追う | レスポンス(Response.jp)

狙え、インバウンド需要…ホテル業界の事業戦略を追う

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15年8月で閉館し、解体が進むホテルオークラ東京本館。新棟は19年春に開業する
  • 15年8月で閉館し、解体が進むホテルオークラ東京本館。新棟は19年春に開業する
  • ダイワロイヤル有明南K区の完成イメージ。ホテルや商業・コンベンション機能が入る
 20年にわたって続いた不況、そして08年のリーマンショックの影響などで厳しい事業展開を強いられてきたホテル業界。それが、この1~2年で爆発的に増加したインバウンド(訪日外国人旅行者)の効果で、大都市圏の宿泊施設がパンク寸前の状態になっている。これを好機と捉え、設備投資を渋ってきたホテル事業者らが、ようやく既存店舗のリニューアルや新規出店に積極的に動き始めた。2020年東京五輪を控え、都内ではさらなる宿泊需要の増加が見込まれる。今後の各社の事業戦略と行政の対応策を探った。

 ◇五輪開催控えホテル改築・改修相次ぐ◇

 最近のホテル業界にとって大きな転換点となったのが、東京五輪の開催決定だ。それを象徴するのが、「ホテル御三家」の一画、ホテルオークラ東京(東京都港区)の本館建て替え事業。五輪開催時を最新の設備で迎えるため、ブランドの顔とも言うべき建物を取り壊してまで創業以来の大事業に踏み切った。

 建て替えまでは至らなくても、東京五輪を控えてホテルをリニューアルした例は多い。東急電鉄グループの東急ホテルズは15年、旗艦ホテルの一つ「セルリアンタワー東急ホテル」(東京都渋谷区)の改修工事を実施した。そのほかの各社も客室などの付加価値向上や差別化に余念がない。

 ◇全国各地でインバウンド効果◇

 五輪効果は全国にも波及する。森トラストは、全国の観光地で展開するリゾートホテル「ラフォーレホテルズ&リゾーツ」の大規模改修工事に着手すると発表。18年までに7カ所のホテルに総額約160億円を投じる。

 シティーホテルやビジネスホテルでは、新規開業の動きも活発化。都心部ではホテル用地の取得競争が激化している。アパグループは、15年度からの5年間でホテルやマンションの開発事業に約3000億円を投資する計画を推進中。全国の中核都市に積極的に出店する計画だが、投資対象の中心が東京であることに変わりはない。

 これまで沿線地域を中心にホテルを運営してきた民鉄事業者らは、より多くの需要が見込める都心部での用地獲得に奔走。神奈川県を拠点とする相鉄グループは、14年に全国ホテルチェーンのサンルートを子会社化し、東京により重点を置いた出店計画を立てる。

 サンケイビルは、既存の中小ビルを取得・改修し、外国人観光客向けのホテルとして営業する新規事業に乗りだした。都内の宿泊需要がさらに高まるとみられる東京五輪時までに観光客の受け入れ体制を構築しようと、さまざまな形で知恵を絞る事業者が現れている。

 一方で、各社に共通しているのが「東京五輪は一過性のもの」という見立てだ。ある企業のトップは「日本だけでなく世界で観光市場は成長する。アジア諸国などの所得水準が高まり、格安航空会社(LCC)も普及している。日本を訪れるのは富裕層だけではなくなっている」と指摘する。業界全体の視線は既に五輪後に注がれている。

 全国各地のリゾートホテルでは、観光資源を生かした改修工事などが進む。温泉風呂付きの客室を設けたり、外国人観光客を想定して多様なライフスタイルに対応する客室を増やしたりする動きが広がっている。

 ◇課題は「景気に動じない産業構造」の実現◇

 ビジネスホテルのような業態でも、日本に長期間滞在して全国各地を回る旅行者を囲い込むため、観光の「ゴールデンルート(関東~関西)」や「ドラゴンルート(中部~北陸)」のルート上に重点的に出店する戦略を取る事業者が増えている。

 ただ、業界関係者の間では「ホテルは景気の感応度が高いビジネス」というのが共通認識。万が一、世界経済が不況に陥った場合にはどうするのか。観光業が日本の主要産業となるには、景気の浮き沈みにも動じない産業構造をつくることが不可欠。そのための観光振興策の推進が、官民双方に求められそうだ。

 2020年五輪の開催地・東京では、大会開催を契機にさらなる増加が見込まれるインバウンドを経済の活性化につなげるため、観光振興に向けたさまざまな施策を展開している。一方で舛添要一都知事は昨年12月の都議会で「十分な宿泊施設をいかに確保するかも大きな課題」と指摘し、16年度は観光振興プログラムの策定と同時に、宿泊施設確保の取り組みを推進する考えを表明した。

 ◇東京都、臨海副都心に宿泊機能を誘導◇

 都が取り組んでいるのが、MICE(国際的イベント)機能強化に合わせた宿泊施設の確保だ。特に五輪関連施設が集まる臨海副都心地区では、五輪後も見据えたまちづくりや土地利用の方針を定め、未利用地への外国人向け集客交流施設の誘致を積極的に推進している。

 有明南地区では、国際イベントのさらなる増加に向けて東京ビッグサイトが展示場を増設するのに合わせ、コンベンション機能を補完する施設を誘導するために都有地を売却。ダイワロイヤルが約400室のホテルや商業、コンベンション機能などを持つ複合施設の建設を進めている。

 青海地区ではST区画に立つパレットタウンの跡施設として、森ビルとトヨタ自動車がオフィスやホテル、コンベンション、エンターテインメント機能などを備えた地下2階地上23階建て延べ約38万m2の複合施設を計画、21年度の開業を目指している。

 地区内にあるセントラル広場に隣接する4区画と、東京臨海高速鉄道りんかい線東京テレポート駅周辺の2区画計13.8haを候補地として、会議場を中心にホテルやエンターテインメント機能を備えた複合MICE施設の誘致も計画。歩行者通路や広場で分断される各区画の一体利用に向けた検討を進めている。

 ◇小規模施設対象に客層拡大サポート◇

 一方で、バリアフリー化と無線LAN環境整備に対する二つの助成事業を展開し、小規模事業者を中心に既存宿泊施設の機能充実への支援も行っている。

 バリアフリー化支援では、都内の民間宿泊事業者に施設・設備のバリアフリー化改修やユニバーサルデザインルームの設置などの経費として最大700万円を助成。年間20件ほどの利用がある。

 機器購入や設置に最大75万円を補助する無線LAN整備への助成では、13年度の事業開始以来、利用者が年々増加。これまではロビーや食堂などの共用部だけを補助対象としていたが、15年度は予算を増額して客室も補助対象に加えた。

 同年度からは外国人旅行者に対応するスタッフが不足している小規模ホテルや旅館向けに、英語、中国語、韓国語に対応する多言語コールセンターの開設もサポート。事業開始から2カ月弱で400施設が登録し、好評を得ているという。

 都はこうした支援を通じ、外国人旅行者や高齢者、障害者など小規模宿泊施設でも対応可能な客層を広げることで、都内の宿泊施設全体の稼働率を引き上げ、宿泊施設不足の解消につなげたい考えだ。
《日刊建設工業新聞》

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