首都圏3環状開通着々、沿線地域に大きな整備効果

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圏央道の開通で埼玉方面からの観光客が増えた神奈川県茅ヶ崎市の「サザンビーチちがさき」
  • 圏央道の開通で埼玉方面からの観光客が増えた神奈川県茅ヶ崎市の「サザンビーチちがさき」
  • シールド機の発進立坑が完成した外環道東名JCT建設予定地(東京都世田谷区)

 首都圏中央連絡自動車道(圏央道)、東京外かく環状道路(外環道)、首都高速中央環状線で構成する首都圏3環状道路の整備は、沿線地域に大きな波及効果をもたらしつつある。地方創生の足掛かりとして、埼玉県や神奈川県ではまちづくりの機運も高まる。3環状道路の整備を暮らしや経済にどう生かそうとしているのか、首都圏各自治体の動きを追う。

 □圏央道開通区間、企業立地の効果鮮明□

 首都圏3環状道路のうち、最も内側の路線として都心の半径約8キロを囲む中央環状線(総延長47キロ)は3月に全線開通した。国は残る2路線の早期開通に向けた体制に移行している。

 最も外側の路線として都心から半径40~60キロの位置に建設が進んでいる圏央道(300キロ)。9月末時点で230キロが開通済みだ。このうち圏央道の神奈川区間に当たるさがみ縦貫道路(34キロ)は、3月の寒川北インターチェンジ(IC)~海老名ジャンクション(JCT)区間(4・3キロ)の供用開始により、全線開通した。

 さがみ縦貫道路の沿線地域には、道路の渋滞緩和や移動時間の短縮などの整備効果が顕著に現れている。相模原から茅ケ崎までの平均所要時間は、さがみ縦貫道路の開通前の83分から48分へと大幅に縮小。圏央道に多くの車両が流入したことで、一般道(国道129、16、412、467の各号、県道46号相模原茅ケ崎線)では、混雑区間の延長が25%削減された。

 厚木市のある工作機械メーカーは、「厚木の事業所と山梨にある工場との移動は、これまで1日1往復が限界だったが、圏央道の開通で2往復が可能になり、部品調達が円滑になった」という。

 さがみ縦貫道路の開通により、県央・県北地区(相模原、厚木各市など)では、大型物流施設の建設も相次いでいる。圏央道を経由すれば、埼玉や静岡方面など幅広いエリアにアクセスできる立地が、企業の新規進出を後押ししているのだ。こうした企業立地の増加により、相模原市では、新規求人数がさがみ縦貫道路の開通前より約3割増加したとの分析もある。

 茅ケ崎市は、サザンビーチちがさき海水浴場の駐車場利用者の車両ナンバーから、埼玉からの来場者が増えたと分析している。
 神奈川県内で未開通の圏央道は、高速横浜環状南線(8・9キロ)と横浜湘南道路(7・5キロ)の2路線だけ。東京五輪が開催される2020年度中の開通を目標にする。

 □広域交流の活性化に期待□

 10月31日には埼玉県内で唯一未開通だった桶川北本IC~白岡菖蒲IC区間(10・8キロ)が開通し、東北道、関越道、中央道、東名高速の四つの高速道路が圏央道でつながることになる。

 圏央道沿線の地域では、神奈川と同様、道路交通の利便性向上を見込んだ企業立地が活発化。少子高齢化が進む中、雇用機会の拡大は、県内の人口減少や空き家増加のペースを抑える効果もあったと埼玉県はみている。圏央道の整備が、自治体の少子高齢化対策などの実施に余裕を持たせることに一役買っている。

 試算では、県内の65歳以上の高齢者数がピークに達するのは2025年。8月の知事選で4選を果たした上田清司知事は、「多くの高齢者にとって住みやすい街づくりを今から推進し、その時に備える」と強調している。

 上田知事は、圏央道など県内のインフラ整備を支えている建設業の存続に向け、経営者が見通しを持てる公共事業予算の編成などにも力を入れる方針。これまで、年によって公共事業の発注量が大きく崩れないよう、国の予算の増減に応じて県の投資的経費を決定してきた。今後も、こうした方針に変わりがないことを業界に呼び掛けている。

 圏央道の開通は、県内における国の公共事業予算の減少要因となるが、上田知事は、「県の先端産業創造プロジェクトの一環として、建設資材などの新製品開発を支援し、成果を全国に発信していく」と、業界の規模拡大につながる新たな仕掛けを検討している。

 千葉県内の最後の圏央道である大栄JCT~松尾横芝IC区間(18・5キロ)はまだ着工していない。開通時期も未定。茨城県の境古河IC~つくば中央IC区間(28・4キロ)は、15年度中の全線開通が目標だったが、軟弱地盤が原因の地盤沈下が起きたことで、対策工法の検討とともに開通時期の見直しを国土交通省関東地方整備局が進めている。

 □外環道、残るは千葉県・都内区間□

 首都圏3環状道路の中間の路線として、東京都心から半径15キロの地点で建設が進む外環道(85キロ)。建設中の未開通区間は千葉県内の12・1キロと、東京都内の16・2キロがあり、千葉区間には半地下形式の掘割構造、都内区間には大深度地下(40メートル以深)を貫通するシールドトンネル構造がそれぞれ採用されている。現場条件を踏まえ、両区間で採用された道路構造が大きく異なったのが外環道の特徴の一つだ。

 外環道千葉区間の開通予定は17年度。施工中の案件で難易度の高い現場の一つとされるのが、京成電鉄の線路直下に外環道の本線を構築する工事だ。関東整備局と共同で事業を進めている東日本高速道路会社によると、まず線路の両脇に一つずつ立坑を築きながら、線路下の掘削と補強を実施。その後、立坑内で本線となる4連2層の大型ボックスカルバート(高さ18・4メートル、幅43・8メートル、長さ37・4メートル)を構築し、そのボックスを徐々に線路下にけん引している。

 こうした大規模工事での安全対策はもちろん、ルート全体の環境保全にも事業者は万全を期している。本線の途中には、自治体が管理する自然の里山(小塚山公園)があるが、関東整備局は、貴重な樹木や草花を抜き取らなくて済むよう、公園の下に非開削で本線を通す工法を採用した。この本線と並行する一部の国道(湾岸道路方面)の新設では、非開削工法を採用できなかったが、周辺の植物は施工前に移植し、完工後に復元するという。

 □都内区間は16年度以降にシールド機発進□

 外環道都内区間では、東名高速と接続するJCTの建設予定地周辺で進めていたシールドマシンの発進立坑が8月末に完成。15年度末にもマシンの組み立てが完了し、16年度以降、大深度地下での本線トンネル工事が始まる。

 本線トンネルは南行きと北行きの2本。東名の立坑は2連に分かれていて、マシンは一つの立坑から2機発進できる。東名側から発進したシールドマシンは、関越道の大泉JCT側から遅れて発進する別のマシンと地中で接合する。

 外環道都内区間では、大深度地下の本線部にJCTやICのランプトンネルをつなげるための工事の準備も進行中だ。関東整備局は、民間企業が開発した施工技術の安全性や有用性を検証した結果を踏まえ、工事の仕様や発注方式などを決定するとしている。

《日刊建設工業新聞》

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