【ホンダ N-BOXスラッシュ 試乗】ダウンサイズして良かったと思わせる一台…会田肇

試乗記 国産車
ホンダ N-BOXスラッシュ カリフォルニア ダイナースタイル装着車
  • ホンダ N-BOXスラッシュ カリフォルニア ダイナースタイル装着車
  • ダイナースタイルのインテリア トリムに至るまで包み込むようなデザインが特徴
  • リアシートは広々感たっぷり。小型ながら左右独立してアームレストが用意される
  • リアシートを畳めば十分な容量のカーゴルームが出現
  • リアシートの座面を上げれば手軽にカーゴスペースを作り出せる
  • メインのメーターは見やすいが、右側の液晶は照度が暗め。高齢者には少々見にくい
  • グリップ感が上々もヒーター付きステアリング
  • フロントは基本的にN-BOXと共通だが、ルーフは10cmほど低くカットされている

発売から4年が経った今も軽乗用車で販売台数ナンバーワンの『N-BOX』。その派生モデルとして昨年暮れに登場したのが『N-BOXスラッシュ』だ。そのポイントは外観~内装に至るまで、50~60年代のオールドアメリカンなイメージを印象づけるデザインだ。

ベースとなったN-BOXは基本的に家族で乗って楽しむ軽のミニバン。対するN-BOXスラッシュは主としてパーソナルユースを想定して開発された。そのため、ルーフはN-BOXに比べて4インチ(約10cm/“センチメートル”ではなく“インチ”で仕様説明するのもアメリカン)カットオフ。これが“遊び心”いっぱいのクーペっぽさをもたらしたのだ。

この発想のベースとなったのはホンダが過去に発売した『エレメント』や『S-MX』だそうで、実は担当デザイナーは過去にその開発を担当したことがあったという。この開発経験が再び形になって登場したのがN-BOXスラッシュというわけだ。

アメリカンなイメージ作りをするために開発チームがまず行ったのは、アメリカのカスタムカーショップの視察だった。ここでカスタムとは何かを体得。ルーフをカットした「Hot Rod N-BOX」を作り上げるためのノウハウを身につけてきたのだ。ルーフを短くカットし、ウェストラインを後ろに行くのに従い跳ね上げる。これによってルーフを一段と低く見せているわけだが、この手法もこの経験から生み出されたものなのだという。

アメリカンなイメージはインテリアにも及ぶ。そのテイストを実感できるのがインテリアカラー パッケージを選んだ時だ。「ブライトロッド スタイル」、「ストリートロッド スタイル」、「ダイナー スタイル」、「グライド スタイル」、「セッション スタイル」を5タイプが選択可能で、これにボディカラーが組み合わされると、カスタム感はさらに際立つようになるのだ。

試乗車はその中でもっともアグレッシブなデザインの「ダイナースタイル」。真っ赤なシート地にチェッカーフラッグのストライプを施し、これを見ただけでも気持ちがワクワクしてくる。シートはゆったりとしたサイズで、一体してデザインされたドアトリムとも相まって車内はカスタム感でいっぱい。インパネは基本的にN-BOXを流用したが、それでもチェッカーフラッグを施すなどしてオリジナリティっぽさを見せている。

車内に乗り込んでステアリングに触れるとさらに違いを感じた。明らかにステアリングのグリップ径が太いのだ。それもそのはず、このステアリングにはおそらく軽自動車では初となるステアリングヒーターが組み込まれている。冬場でなければ恩恵は感じにくいが、それを取り巻く皮素材も柔らかめのタッチで実に心地良い。ステアリングを握っているだけで幸せ感を覚えるのは久しぶりだ。

試乗車は直列3気筒DOHC 660ccターボ「S07A」型エンジン搭載車。その走りはとても軽快で、低回転域のトルク感も十分。高速道路に入っても瞬発力もあるので不満はまるで感じない。特にECOモードを外してノーマルモードで走った時は勢いがまるで違ってくる。さらに感心したのが乗り心地の良さ。ダンパーの容量をアップしたことが功を奏したのは明らかで、軽乗用車とも思えないしっとりとした乗り心地を見せたのだ。

試乗車にはオーディオシステムとして「サウンドマッピング システム」が搭載されていた。実はこの装備によって防音対策が一段と強化される。元々、スラッシュにはダッシュボードにインシュレーターが施されていたが、サウンドマッピングシステム搭載車ではこれがルーフにも施され、フロントドアに空いているホールを埋める加工も施す。これによって、小型車並みの静粛性を実現しているのだ。その効果は顕著で、違いは走り出してすぐにわかる。エンジン音やロードノイズの侵入が極めて少ないのだ。

一方で装備面では物足りない部分もある。ステアリングはチルトだけで前後のテレスコピックには非対応。ヒーターミラーも4WD車のみの対応だ。さらに言えば、衝突軽減ブレーキも赤外線レーダーによるものにとどまる。いわゆる“並みの軽乗用車”となってしまうのだ。ホンダの場合、オプションでサイドエアバッグの装備に対応しているのは評価できるが、細かな装備ではまだまだ軽乗用車の域を脱し切れていない。

ただ、N-BOXスラッシュは、それを超える大きな魅力があるのも確かだ。一見してヤング世代に向けた車両に見えるが、「セッションスタイル」「ストリートロッドスタイル」なら、そのデザインは中年を超えた世代にも十分納得できる。これにターボエンジンとサウンドマッピングシステムを組み合わせれば、走りや快適性を含め小型車からダウンサイジングをしても十分納得できるだろう。あるいはそれ以上の効果が得られる可能性だってあり得る。「ダウンサイジングして良かった」N-BOXスラッシュはそう思わせる数少ない一台と言っていい。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★

会田 肇|AJAJ会員
1956年・茨城県生まれ。明治大学政経学部卒。大学卒業後、自動車専門誌の編集部に所属し、1986年よりフリーランスとして独立。主としてカーナビゲーションやITS分野で執筆活動を展開し、それに伴い新型車の試乗もこなす。来年には60歳代に突入する自身の体験を含め、高齢者の視点に立った車両のアドバイスを心掛けていく。 

《会田肇》

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