米配信大手『Netflix』への期待…対応機・東芝レグザ開発者語る

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インタビューにこたえる、東芝ライフスタイルで“レグザ”の商品企画を担当する本村裕史氏(写真右)とVODやクラウドサービスを担当する毛塚英夫氏(写真左)
  • インタビューにこたえる、東芝ライフスタイルで“レグザ”の商品企画を担当する本村裕史氏(写真右)とVODやクラウドサービスを担当する毛塚英夫氏(写真左)
  • リモコンにNetflixの専用ボタンを搭載
  • レグザ「J10」シリーズ
  • レグザに搭載されているクラウドサービス「Time On(タイムオン)」。G20Xなどのモデルには、クラウドの技術を活かしたスマート視聴サポート機能「みるコレ」が新しく追加された
  • HDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)技術により、これまでにないほど明るく色彩感や精彩感の高い映像が楽しめるようになる。同じタイプのレグザで、右側HDR技術による映像と左側の従来技術による映像を比較したイメージ
  • 商品企画を担当する本村裕史氏
  • VODやクラウドサービスを担当する毛塚英夫氏

 米国の大手動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」が今秋から日本でも始まる。国内のテレビメーカー各社からもNetflix対応の新製品が次々と発売されているが、そもそも国内のテレビメーカーがNetflixに対応する戦略の背景にはどんな意図やメリットがあるのだろうか。

 そのなかでも今年2月に国内でいち早く“Netflix対応テレビ”を発売したのが、東芝“レグザ”だ。今回は、同ブランドの商品企画を担当する本村裕史氏、Netflixをはじめとする動画配信サービスに関連する機能を取りまとめる毛塚英夫氏にその戦略について訊いた。

■東芝が国内初の“Netflix対応テレビ”を発売できた理由とは

 東芝が国内初のNetflix対応テレビである“レグザ”「J10」シリーズを発売したのは今年の2月20日。Netflix対応テレビの条件はインターネット接続機能が搭載されていて、リモコンにNetflixのサービスへダイレクトに飛べる専用ボタンが付いていること。

 J10シリーズではNetflixのサービスが始まると同時に、専用ボタンを押すだけでスムーズにNetflixのトップメニューに遷移して、各動画プログラムが視聴できるようになる。

 J10シリーズの発売は、Netflixが日本市場への参入を公式に宣言した2月上旬からまもなくの出来事だった。それまでNetflixの日本市場進出は幾度となくうわさとしては聞こえてくることもあったが、東芝が正式発表からこれほど短いインターバルで対応テレビを発売できたのはなぜだろうか。

 本村氏はその理由について、Netflixはすでに東芝が海外で展開するテレビ製品のグローバルモデルで対応してきたサービスであるため、日本モデルでの対応については特段難しいことではなかったからだと説明している。

 なお、東芝が最初にNetflixの専用ボタンを搭載したテレビは、2011年2月に北米市場向けに発売した「SL417」シリーズであることからも、そこから今日まで東芝とNetflixの間にいろいろなサービス提供に関連するノウハウが積み上げられてきたことは想像に難くない。

 東芝はJ10シリーズに続き、6月に発売された4K対応テレビのスタンダードモデル「G20X」シリーズにもNetflix対応の枠を広げた。今後はインターネット接続の機能を搭載する“レグザ”については、ミドルレンジからハイエンドモデルまで幅広く“Netflix対応”を進めていく考えだと、本村氏と毛塚氏は口を揃える。

「テレビは映像を楽しむためのエレクトロニクス製品なので、さまざまなコンテンツへの間口を広く持つべきだと考えています。インターネット経由での動画コンテンツ配信が増えてくるのであれば積極的に対応したいし、地デジやBSなど放送波やBlu-rayのパッケージも含めて、全ての映像コンテンツを最高画質で楽しめるテレビをつくることがメーカーの使命です」(本村氏)

■大事なのはテレビをインターネットにつないで何が楽しめるのかを提案すること

 「テレビはアンテナ線につないで放送波の番組を見たり、レコーダーで録った番組やディスクの映像を楽しむためのスクリーン」という意識が一般的だった頃から、東芝の“レグザ”は「テレビをインターネットにつなぐ」楽しみ方をいち早く提案してきた。

「テレビをインターネットにつなぐこと自体は“手段”でしかなく、その先にテレビ放送では見られない映像が楽しめたり、インターネットと連携して使える新しい機能が使えることがユーザーにとっての喜びにつながります。インターネットのまわりの機能を充実させて、楽しみ方も提案してきた“レグザ”は、ITリテラシーの高いユーザーの方から圧倒的な支持を集めています。“レグザ”のユーザーはテレビのインターネット接続率が高いことも特徴です」(本村氏)

 “インターネット対応テレビ”の国内におけるイノベーターとしての自負を持つ東芝“レグザ”は、そのブランドが立ち上がった2006年発売の初代機からテレビ番組に独自のコンテンツ保護技術で暗号をかけて、DLNAによるホームネットワーク内での視聴機能を搭載したり、NTTぷららの前身である「ぷららネットワークス」が提供してた光ブロードバンド放送「4th MEDIA」の動画配信サービスにも素速く対応するなど、尖ったスペックを誇っていた。

「当時もいまも、東芝が目標としていることは変わっていません。テレビは、あくまで映像を楽しむための機械です。テレビ番組を快適に楽しむために、東芝は大容量HDDに複数のチャンネルで放送されている番組を、同時に長時間キャッシュしておける『タイムシフトマシン』と呼ぶ機能をテレビに搭載してきました。やがて市場に“スマートテレビ”という言葉が出てきた時にも、“レグザ”には他社よりも先にインターネットにつながる機能を搭載していたし、快適に動画配信コンテンツを楽しむためのプラットフォームを提供してきました」(本村氏)

■レグザはNetflixなど動画配信との親和性が最も高いテレビ

 「良いスマートテレビ」の条件は、スマホやタブレットのようにインターネットにつなげばアプリなどで色々なことができることではなく、「映像コンテンツがスマートに楽しめる機能」を満載していることなのだという点を、本村氏は特に強く指摘する。

「今後はNetflixだけでなく、国内のコンテンツサービスプロバイダ各社の動画配信サービスはさらに増えていくと思いますが、独自のクラウドサービスである『Time On(タイムオン)』をベースに、テレビ番組と動画配信のコンテンツを一緒に集めて、ユーザーが見たくなる番組をレコメンドする高度なアシスト機能など、“スマートテレビらしい”使い勝手を提供できるところが“レグザ”の特徴です」

 毛塚氏も“レグザ”の全録機能やクラウドサービスを利用して録画番組のみどころを「シーン単位」で頭出しできる機能などは、Netflixをはじめとする動画配信サービスのオン・デマンド性とコンセプトや操作性が非常に近いのだと強調する。

「テレビ番組やインターネット経由に動画配信コンテンツを、一貫した操作性で好きな時に楽しめるようになれば、同じように生活の一部として馴染んでくると考えています。だから“レグザ”はNetflixなど動画配信との親和性が最も高く、サービスが使いやすいテレビであることを追求してきました」

 いまでは国内で発売されているスマホやタブレットの大半にテレビ視聴の機能が搭載されているが、国内では相変わらず受像器としてのテレビの人気は衰えていない。昨今の4Kテレビの成長と関連付けながら、本村氏はその理由をこのように分析している。

「4Kや大画面テレビの人気が高まる理由は、それが映像による感動を味わうのに最もふさわしい形だからなのだと思います。テレビ番組をはじめ、映像コンテンツを高画質+大画面で楽しみたいというユーザーニーズは不変です。従来のテレビ番組やBD/DVDディスクに加えて、そこにNetflixなどの動画配信が新しい映像コンテンツとして加わってくることは、テレビの人気拡大にもつながると考えています」

 Netflixをはじめとする動画配信サービスの映像コンテンツが加わってくることで、テレビの「画質」をめぐる競争も活発化していくだろう。

 インターネット経由の動画をより高画質に味わえるテレビには注目が集まるはずだ。毛塚氏は「インターネット動画独自の圧縮方式で配信される映像を高画質に見せながら、体験を最大化しながら提供するための技術競争は既に始まっている」としながら、そこにも早くから動画配信コンテンツに対応してきた“レグザ”のアドバンテージがあると語る。

■4Kコンテンツの普及を動画配信が押し上げる

 Netflixは、4K動画コンテンツの配信にも力を入れることを宣言している。従来のインターネット動画配信では、あまり高画質軸でコンテンツの魅力が訴求される機会も少なかったように思うが、Netflixが4K動画配信に意欲的な姿勢を示しているということが、他のコンテンツサービスプロバイダの競争意欲を刺激して、結果として4Kが一つのスタンダードになっていく可能性も十分にある。

 なお、4K配信コンテンツを高画質に楽しむためには、テレビにどんな技術が求められるのだろうか。毛塚氏はこう答える。

「多くの4K動画コンテンツはHEVCの圧縮方式で送られてきます。HEVCにはこれまでのMPEG-2やMPEG-4と異なる独自のクセがありますので、それを上手に料理しながら映像の魅力を最大化する技術が求められます。最新の“レグザ”には、HEVCデコーダーが内蔵されており、配信コンテンツの“画づくり”にも自信を持っています」

 映像が持っている色の輝度幅(ダイナミックレンジ)を拡大する技術である「ハイ・ダイナミック・レンジ(HDR)」は、今後の4K映像のトレンドになるといわれている。次世代のBlu-rayディスクの規格である「Ultra HD Blu-ray」ではHDRの技術が採用されることも決まっており、東芝もHDMIによるHDRフォーマット入力に“レグザ”の最新モデルや、昨年に発売された「Z10X」「J10X」の各シリーズをアップデートで対応させることを発表した。

 一方、NetflixもHDR技術に対応する映像コンテンツを配信することを表明しているが、インターネット経由の動画配信の場合は、まだHDR技術がどのように組み込まれるのかが明らかにされていない。

 テレビの対応状況が明らかになるのは、コンテンツサービスプロバイダの方針が決定された後のタイミングになるだろう。確かなことは、インターネット経由の動画配信サービスでHDR技術の高精細な映像が楽しめるようになれば、ユーザーにはその利用価値がより明快に見えてくるということだ。

■テレビメーカーの開発者がNetflixに期待すること

 国内でNetflixのサービスが始まることについては、テレビメーカーの担当者も一般のユーザーと同様に期待を膨らませているようだ。本村氏は次のように語る。

「Netflixにはこれまで日本のユーザーが見てこなかったコンテンツがたくさん用意されていると言われています。また、“一気見(Binge-Watching)”と呼ばれている連続ドラマが次々と視聴したくなるインターフェースや、膨大なアーカイブから見たい動画を検索せずに出会えるレコメンド機能など、非常に特色のある視聴機能を数多く提供するとうたっています。すべての視聴者がワクワクできるサービスになるのではないでしょうか。ユーザーの中にも、これからはインターネット経由でテレビを見る時代という意識が高まるはずです。Netflixが業界全体の起爆剤となるのは間違いありません」

 日本国内では、NetflixのライバルであるdTVやHuluが先行するかたちで日本市場を開拓してきた。後発となるNetflixは先行するサービスを追いかける立場になるが、その戦略には常時関心が集まっている。東芝の担当者は、Netflixの取り組みを客観的な立場からどのように捉えているのか。

「Netflixの試みからは、日本にこれまであったような動画配信サービスと同じことをやろうという意識ではなく、新たな風を吹かそうという気概を感じます。これはテレビメーカーの視点から見ても非常に新鮮に感じられる出来事です。同社が大胆な戦略を打ってくれば、日本の視聴者に大きなインパクトを与えられるだろうとポジティブに捉えています。新しいビジネスモデルの拡大にもつながるのではないでしょうか」(本村氏)

 「一方でNetflixはフジテレビと協業したり、独自のアニメコンテンツ制作にも力を入れるなど、日本市場をかなり熱心に研究されているようにも感じます。これまでワールドワイドで展開してきた型にはめて、それを単純に各地域に下ろしていくというビジネスモデルだけではないという姿勢に、Netflixの本気度の高さが垣間見られます。テレビメーカーとしては、単にそのサービスが視聴できるというだけでなく、その映像から視聴者に感動を提供していくというところに新しい競争軸をつくっていきたいという思いがあります」(毛塚氏)

 今秋にNetflixのサービスが始まれば、Netflixをはじめとする動画配信コンテンツが「最も高画質に見られるテレビ」に対する注目も高まってくるのだろうか。4K・大画面に続くテレビの新しいトレンドが生まれることに期待を寄せたい。

【特集・Netflix】第4回 東芝・レグザ開発者が語る「Netflixへの期待感」

《山本 敦@RBB TODAY》

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