【川崎大輔の流通大陸 】マレーシアの中古車 リコンカーとは?

マレーシアには海外から輸入した高級中古車のみを販売している店舗がある。これらはリコンカー(Reconditikoned Car)と呼ばれ、ブミプトラ政策の象徴な既得権益の1つになっている。

エマージング・マーケット 東南アジア

2種類あるマレーシア中古車販売店

マレーシアにある中古車販売店は大きく2つに大別される。1つがマレーシア国内で乗用された後、売却されて再販されている中古車を販売する店舗である。これらは「中古車ディーラー」と呼ばれる。一方、海外から輸入した中古車を販売している店舗がある。この海外から輸入された中古車をマレーシアではリコンカー(Reconditioned Car)と呼び、リコンカーを販売している店舗を一般的にディーラーではなく「(リコンカー)ショールーム」と呼ぶ。

クアラルンプール(KL)首都圏は、クアラルンプール(KL)とそれに隣接するセランゴール州の都市で構成される地域を指し、クランバレー(Klang Valley)と呼ばれている。このクランバレーで中古車販売店が約700社あり、中古車ディーラー:(リコンカー)ショールーム=80%:20%の比率で存在するといわれている。

◆ハイエンド層が好むリコンカー

マレーシアでのリコンカーの市場規模は全中古車流通市場の10%以下である。リコンカーは、中古車ディーラーで販売されている中古車よりも高級な車である。中古車輸入の条件は2~5年未満の年式に限られ、マレーシアでは生産されず、入手しづらい中古車が多い。そのためハイエンド層向けの中古車である。現地でのヒアリングによれば、リコンカーを購入するユーザーやマレーシア国内の新車購入層よりも高所得層である。入手しづらく高関税がかかる中古車を購入できる財力、ネットワークが必要なためである。

◆APの廃止は幻想か?

リコンカーを手にいれるには、AP(Approved Permit)と呼ばれる輸入許可証が必要となる。このAPはマレー系及び先住民を優遇する経済政策であるブミプトラ政策によるものでありAP保持者の100%がマレー系である。マレーシアは、マレー系、中国系、インド系を主体とする多民族国家として形成されている。しかし、マレー系の最たる既得権益の1つとしてAPが存在する。厳密には、“オープンAP”と呼び、中古車輸入に関係のあるメーカーや輸入元を限定しない中古車の輸入許可証だ。2015年より段階的に廃止をするといわれている。

筆者は2015年5月にマレー人車両輸入・取引業者協会(PEKEMA)を訪問してインタビューを行った。しかしPEKEMAもAPを発行している国際貿易産業省(MITI:Ministry of International Trade & Industry)の対応を待つのみとのことで明確な答えはなかった。中古車販売店やその他自動車関連者への現地でのヒアリングでは廃止されないだろうというのが大方の見方であった。

◆既得権益APの影響は一目瞭然

オープンAPは年間約3万ほどあり、日本が80%、イギリス15%、他にオーストラリア、アメリカ、南アフリカがある。日本の輸出業者はだれでもマレーシアに中古車を輸出できるわけではなく、PEKEMAサプライヤーとしての登録が必要となっている。APホルダーの紹介などが必要で、毎月開催されるPEKEMAコミッティーで採決が必要となる。2015年5月現在で日本(66社)、イギリス(46社)ある。

一方、AP保持者はPEKEMAメンバーの99社と、非PEKEMAメンバーのNAZA(自動車関連事業を中核ビジネスとするマレーシア企業グループ)の合計100社だ。NAZAは特殊な経緯がありPEKEMAメンバーとはなっていないが、フェラーリなどの超高級車を輸入しAPを年間3000ほど利用している。他99社はすべて中古車販売会社で25年前から変わっていない特権だ。(リコンカー)ショールームというのは、このAPで仕入れた中古車を販売している。

◆リコンカーとはブミプトラ政策の象徴

筆者は、マレー系はブミプトラとして過度に政府に依存する時期は終わったと考えている。関係者にはよく知られた事実であるが、年間80%~90%のAPはマレー系から中国系へと権利が売られているだけで、実際のAP保持者が車を仕入れているわけではない。リコンカーのマレーシアでの乗り出し価格(車両販売価格+保険、税金、車両検査、名義変更代金)に占めるAPの権利代金の割合は約20%である。具体的にはマレーシアで500万円の乗り出し価格の中古車に対して、100万円のAP代金が必要となる。この既得権益の大きさは一目瞭然だ。誤解を恐れずにいえば、マレー系のAP保持者は自ら中古車を販売することなしに権利を中国系に渡すだけで1台あたり100万円の利益を得ることができる。

確かにAP廃止問題は大きな影響を持つ既得権益とも複雑に絡み合っており、廃止するにしてもその後の影響を図りながら慎重に検討する必要があるといえよう。一方で25年前からの100社のみの既得権では、恩恵の格差がますます広がってしまわないだろうか。

<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。現在、プレミアファイナンシャルサービス(株)にてアセアン事業展開推進中。日系企業と海外との架け橋をつくるべく海外における中古・金融・修理などアフター中心の流通調査を行う。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科特別研究員。

《川崎 大輔》

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