『パトレイバー』実写版 …押井監督がめざした、ハリウッド級の特撮

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『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』
  • 『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』
  • 筧 利夫
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『機動警察パトレイバー』は20世紀末の東京を舞台に、警視庁・特車二課第2小隊の活躍を描くロボットアニメの名作だ。OVA版を皮切りに、押井守監督の代表作も言える二本の劇場版、そしてサンライズ制作のテレビ版、さらに週刊少年サンデー連載の長編コミック版など、メディアミックスプロジェクトの先駆けとして様々な媒体で展開し、多くのファンを生み出してきた。
それから四半世紀を経た2013年、新たに実写版プロジェクトとして『THE NEXT GENERATION パトレイバー』が発表され、昨年から全7章にわたる中編シリーズを続々リリース。特車二課の伝統を受け継ぐ、似て非なる三代目の隊員たちの物語というヒネリを加えることで、アニメやマンガの実写化の壁を飛び越える快作が誕生した。
その完結編となる劇場版が5月1日より全国公開中の『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』だ。押井守監督のお話を中心に、前編では本作のヒロイン・泉野明役の真野恵里菜さん、後編では本作の主役・後藤田継次役の筧 利夫さんに、劇場版へ至る経緯や想いなどを伺った。
[取材・構成:桑島龍一]

映画『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』
全国公開中
http://patlabor-nextgeneration.com/movie/

(C)2015 HEADGEAR/「THE NEXT GENERATION -PATLABOR-」製作委員会
■ 真野恵里菜、初のガンアクションに挑む

――今回の『首都決戦』では、真野さんも銃撃戦やアクションシーンで大変だったと思います。

押井守監督(以下、押井)
真野ちゃんは運動神経、実はすごくいいから。

真野恵里菜(以下、真野)
あははは。

押井
ホントはね、カーシャ(太田莉菜)よりいいんだよ(笑)。

真野
カーシャはアクション稽古、でんぐり返ししかやってないって(笑)。

――そうは見えませんね。

押井
運動神経ゼロだよ。それはもう訓練あるのみ。

筧 利夫(以下、筧)
相当な手練れに見えますよね。

――コンビニ回(EP.4「野良犬たちの午後」)とか、見直したくなります(笑)。

押井
真野ちゃんはね、何をやらせても手堅い。

真野
いえ(笑)。

押井
バスケットボールもそうだけど、(明は)絶えず動いてるキャラクターだから。アクションと普段の動作は、どこか地続きじゃなきゃいけない。カーシャの場合、普段はひっくり返ってタバコ吸ってりゃいいんだけど、動き出したら止まらないという。そういう意味ではタイプが違うのね、同じアクションでも。ふたりを同じにはできないから、そこは計算通りだった。 

――実際のガンアクションは体験されていかがでしたか?

真野
ずっと憧れていたので、楽しかったです。兄がいる影響なのか、わりと男の子が見るようなアニメやマンガの世界にずっと触れてはいたんですよ。
でも、シリーズでは(銃を)撃たなかったんです。「クロコダイル・ダンジョン」(EP.9)でみんながあんなに撃ってる中、明だけは撃たないというのを貫いて。やっと、劇場版で相手の陣地に乗り込むときに撃つことができました(笑)。

――劇場版で満を持して、なんですね。

真野
ただ、初めて構えたときは震えました。この人差し指で引き金を引いたら、撃っちゃうんだと。実際、芝居とはわかっていても銃口がこっちに向くと足がすくむんですよ。撮影時間もナイトシフトで夜中だったので、そういう緊張感もある中でやってました。

押井
欲を言えばね、射撃訓練したかったんだけど。

真野
やりたかったですね~。

押井
そういうプランもあったの。グアム行くか、という。

真野
実弾射撃(笑)。押井さんはよく行かれるみたいですね。

押井
カーシャには本物のAK(AK-47)を撃たせておきたかったし、隊員たちにはショットガンを体験させたかった。今回、アクション稽古は撮影前からずいぶんやってもらってたんだけど、実射経験を積めなかったのがちょっと心残りだった。

■ 撮れない街・東京で、何を撮ろうとしたのか

――それにしても、『機動警察パトレイバー2 the Movie』の続編を、『首都決戦』という実写版で観ることになるとは、夢にも思いませんでした。監督ご自身の手応えはいかがですか。

押井
『パト2』をやったときに、頭の中では実写として演出してたんですよ。同じようにロケハンもしたし、そこは案外違和感がなかったよね。
だけど問題は、実写でやるときに獲得しなきゃいけないものがいっぱいあったということ。必要な背景がないとか、素材をつくらなきゃいけないという実写特有の問題がね。脚本はともかく、シリーズをやって、ある程度どうすべきかは結論が出てたから。

――それはどういう結論ですか。

押井
今回は、演じる人間、役者さんを根拠に撮るしかないんだと思った。お話とか背景とか合成諸々も含めて、それらはもちろん必要だけど、一番大事なのは登場人物たち。ある種の葛藤や存在感みたいなものを丁寧にフォローしておかないと、いくらアクションやってもダメ。それにアニメっぽい映画にもしたくなかったから。

――押井監督は映画を撮るとき、二時間という枠の中では「ドラマ」か「世界観」の選択があるという考え方で、いつも「世界観」に軸足を置いて演出してきました。それが今回逆ですよね。

押井
うん、逆だよね。

(C)2015 HEADGEAR/「THE NEXT GENERATION -PATLABOR-」製作委員会
――キャラクターに寄り添っている点がとても新鮮でした。

押井
それは長年のテーマでもあったんだけど、まず何よりも、実写であるにもかかわらず現実に根拠を持てないというね、これが予想外だった。つまり、(東京で)撮れる場所がないんだよ!

――見慣れた東京という街を舞台にして、ちゃんと「首都決戦」しているわけですけど、現場はそれほど単純ではないと。

押井
撮れるのは空撮ぐらいなんだよ、極論すれば。あとは水の上だけ。これでどうやって映画を撮れっていうんだ、という話で出発したから。あとはいろんなパーツを寄せ集めて、あたかも「全部東京で撮ってます」というようなことにするしかないわけ。

――そう言いながらも日本版『ダイ・ハード』じゃないですけれど、ハリウッド映画のレベルというか、押井監督が目指す念願の特撮映画がついにカタチになったように思えます。ここまでのモノは日本映画ではそうそうないですよね。


ないですね。こういうタイプの映画はハリウッドにでも行かない限り出られないと思っていたので、日本で実現するのは本当にうれしいですよね(笑)。

押井
意外にあるようで、ないんだよ。

――従来の日本映画と一線を画すポイントはなんだと思われますか。

押井
一つ言えるのは、ハンガー(格納施設/二課棟)をつくっちゃった。これが一番大きかったと思う。そこで役者さんが絶えず芝居してるわけだけど、観てる人間は、あのハンガーからウソが始まってることに気がつかない。ハンガーだけど、実際のハンガーの機能はない。要するに、あそこからウソが始まってるというね。

――僕もシリーズの現場を見学する機会があって、二課棟のセットを歩きましたが、上海亭のお品書きが中までちゃんと書かれているのにビックリしました。

真野
そうなんです!

押井
テーブルの上に置いてある上海亭のメニューまで克明につくってよと。それが大事なんだよ、やっぱり。そこで役者さんの日常が再現できてないとね。

真野
ホント、感謝ですね。デスクのまわりがゲームの雑誌だったりとか、ロボットのフィギュアがいっぱい並んでたりするので、パッと見ただけで「明のデスク」というのがすぐわかりました。
それこそ引き出しを開ける芝居なんかないんですけど、ふと待ち時間に引き出しを開けるとロボットのものが入ってたりとか、常にその世界観でいられるのが楽しかったです。ちょっとオフィスに行って自分の席座でぼーっとするのも、「あ、これも明なんだな」って(笑)。

――美術的にも明の役づくりを演出していたわけですね。

真野
オフィスを出ると、実際ギターが置いてあったり、マンガが置いてあったり、卓球台が置いてあったり。撮影の空き時間はそれで遊んでいたので、演じるというよりはこの世界で生きてるなって。……(撮影が終わって)恋しくなりますね。

押井
もう跡形もないけどね。(劇場版で)全部吹っ飛ばしちゃったから。

一同
(笑)。

押井
もう最後だから盛大に全部ぶっ壊せって。だからいまは廃墟と化してるよ。でも、そういうふうなところがないと最終的なウソにたどり着けないんだよ。役者さんの気持ちの部分も含めてさ。

(後編につづく)

映画『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』
全国公開中 
http://patlabor-nextgeneration.com/movie/

『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』 押井守監督、真野恵里菜、筧 利夫インタビュー前編

《桑島龍一》

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