「SIMロック解除義務化」…SIMフリー中古端末市場が活況に

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札幌の中心、すすきのにほど近い「ゲオモバイル札幌狸小路4丁目店」
  • 札幌の中心、すすきのにほど近い「ゲオモバイル札幌狸小路4丁目店」
  • 国内4キャリアの新品端末の契約も可能
  • 内の契約受付カウンター、買取カウンター。光回線受付も行っている
  • オリジナルのSIMフリー格安スマホ、freetel製「priori2」は9,800円(税別)
  • ミドルレンジクラスのSIMフリースマホ、HUAWEI製「G620S」は21,800円(税別)
  • 中古スマートフォン陳列ケース。膨大な量のスマホが並ぶ
  • 中古タブレットコーナー。来日観光客はモバイルルータを所持しているケースが多く、中古端末もWi-Fiモデルが人気がある
  • 来日観光客を意識したPOP類。プリペイドSIMカードの在庫があることをアピール

 総務省が昨年10月31日に「SIMロック解除に関するガイドライン」改正案を発表し、2015年5月以降に販売開始される端末に関してSIMロックの解除を義務付けることになった。

 一方で各キャリアはSIMロックの解除条件などを公表しているが、その内容を見る限り各キャリアともあの手この手で守りに入っているような状況で、SIMフリー化に向けた恩恵がどれほどユーザーに得られるのか疑問も多い。

 しかし、いずれにしても従来に増してSIMフリー化された中古端末の国内流通は拡大し、そこに大きなビジネスチャンスがあると考え、動き出している企業も少なくない。独自ブランドでSIMカード販売を行うMVNO(いわゆる格安SIM)も増えていく一方であり、また中古端末を本格的に取り扱う企業も増えている。

 なかでも、このタイミングこそ大きなチャンスとばかりに攻めに出たのがレンタルDVDチェーン大手のゲオホールディングス(以下、ゲオ)だ。同社は4月2日、NTTコミュニケーションズと業務提携を発表。新たにMVNO通信サービスとして「ゲオ×OCN ONE」を商品化し、格安SIMとして全国のゲオ(1,047店舗)で発売を開始した。

 さらに「ゲオスマホ」として、freetel製「priori2」と、HUAWEI製「G620S」の2機種を投入し、従来の中古スマホの他に新品スマホの取り扱いも開始した。さらに、ゲオはこれらのSIMや端末を取り扱うモバイル専門ショップとして「ゲオモバイル」をオープンさせ、2016年度までには全国100店の開店を目指すという。

 今回、こうしたゲオの「攻め」のモバイル事業について直接、話を伺ってきた。

■ゲオの客層と強みで勝負に出た

 ゲオとNTTコミュニケーションズの業務提携の内容は、NTTコミュニケーションズがMVNOとして展開している格安SIM「OCN モバイル ONE」を、ゲオオリジナル版として新たに「ゲオ×OCN SIM」として商品化し、全国のゲオ1,047店舗で展開していくというもの。じつはこれまでもゲオでは「OCN モバイル ONE」やSo-netとの提携による「Smart G-SIM」も取り扱ってきたが、今後はNTTコミュニケーションズとの提携を強化し、ゲオとして本格的にMVNO市場に参入していくことを目指している。こうしたゲオのMVNO戦略について、株式会社ゲオホールディングス 情報管理部の冨永潤一氏に登場していただいた。

「従来から『OCN モバイル ONE』を取り扱ってきましたが、今回の業務提携ではゲオオリジナル版とした上、全国のゲオで利用可能できる毎月“100円割引クーポン”が貰える特典が付いてきます。また、新品・中古スマホ端末とセットで購入、利用いただく場合には、スマホにはあらかじめこのクーポンがもらえる会員証機能付き「ゲオアプリ」や、中古衣料のeコマースアプリ「セカンドストリート」などのオリジナルアプリをプリインストールして提供します。日頃からゲオを利用しているお客様にとって便利なスマホとして利用いただけるよう工夫しました」(冨永氏)

 ビデオ・DVDレンタルチェーンといえば、カルチュア・コンビニエンス・クラブが展開するTSUTAYAとゲオがツートップで競っているが、じつはビジネス戦略は両社で大きく異なる。

 ゲオはゲームの買取・販売も行っている事もあり、客層は両社で大きく違う。またTSUTAYAは大半がフランチャイズ展開であるのに対し、ゲオは全国のほとんどの店舗を直営で運営している。

 そういった意味では、ゲオを利用する顧客層は今まさにガラケーからスマホに乗り換え始めたタイミングであり、かつ安価なスマホを求めているという点で、ゲオが格安新品および中古スマホや格安SIMを取り扱う意義は大きいといえそう。また、ほとんどの店舗が直営ということもあり、ゲオでは新事業を一気に全国展開させやすい環境が整っている。

「もちろん、従来から取り扱ってきたMVNOなども、すでに多くのお客様に利用いただいていることもあり、継続して販売していきます。しかし、今回NTTコミュニケーションズと提携し『ゲオ×OCN SIM』として新たに販売をするにあたり、とくに課題となっていた音声SIMの即日手続きに対応するなど、お客様への利便性を格段に向上させることが可能となりました。新規およびMNPによる音声通話対応の『ゲオ×OCN SIM』の受け渡しに当たっては、従来はゲオアキバ店のみでの対応でしたが、2015年第一四半期中に福岡・博多口店、大阪・日本橋店、札幌・狸小路4丁目店、名古屋・大須新天地店、東京・渋谷センター街店の6店舗に拡大、さらに夏までには全国10店舗、その後も順次拡大を予定しています」(冨永氏)

 また、中古スマホ販売におけるサービス向上にも力を入れていく。そのひとつが保証サービスの対応である。

「中古端末の初期不良対応を1カ月(30日)に延長します。これは全国1,047店舗で4月2日より一斉開始しています。さらに5月からはオプションサービスの付いた有料延長保証サービスも開始する予定で、同様に全国で開始致します。また、保証サービス以外にも、端末を購入してもらいやすいように、割賦決済も可能にしました(※ただし、後述の『ゲオモバイル店』から)。これは新品スマホは勿論、中古端末のいずれも、一括払いのほか12回または24回の分割払いに対応するものです。SIMとのセットはもちろん、端末だけの購入の際にも利用できます」(冨永氏)

■モバイル専売店「ゲオモバイル」が北海道に集中する理由とは

 今回、ゲオが発表したモバイル戦略は格安SIMの販売のみにとどまらない。何より筆者としてインパクトを感じたのは、すでに1,047店あるゲオ店舗とは別に、新たにモバイル専売チェーン店「ゲオモバイル」を展開し始めたということ。

 ゲオは、DVDレンタルの「ゲオ」のほか、総合リユースショップの「セカンドストリート」、衣料・服飾リユースショップの「ジャンブルストア」の3ブランドチェーン店を展開してきた。これに加え、新たにモバイル専門ショップチェーン「ゲオモバイル」を展開することになった。まずは北海道から福岡県まで全国50店が開店する。

 このうち、たとえば東京都の場合「ゲオモバイル渋谷センター街店」「ゲオモバイルアキバ店」の2店舗、本来ゲオホールディングスの本拠地でもある愛知県でも「ゲオモバイル名古屋大須新天地店」ほか計5店舗であるのに対し、北海道だけは札幌を中心に道内23店舗もある。

 その理由を探るべく、今回、北海道に飛んだ。向かった先は、北海道23店舗の中でも旗艦店といえる札幌狸小路4丁目店。また取材に対応してくださったのは、名古屋本社から札幌まで足を運んでくれた、株式会社ゲオ モバイル運営部モバイル企画課マネージャーの富田浩計氏。まずは、北海道にゲオモバイルが集中している疑問をぶつけてみた。

「じつは北海道には、地場の家電量販店として『YES』のブランドで知られていた『そうご電器株式会社』がありました。最盛期には632億を売り上げる規模を誇っていたのですが、その後コジマやヨドバシカメラ、ビックカメラ、ベスト電器などの本州系量販店が北海道に進出し、経営が破綻、2002年には民事再生手続きを申請するに至りました。この経営再建にゲオが関わり、子会社化ののち、現在は経営統合しました。この『そうご電器』は携帯電話販売も行っていたため、携帯電話販売代理店資格があり、また販売のノウハウを持った人材も多く、こうした資産を『ゲオモバイル』として活かしていくことにしました。北海道に『ゲオモバイル』店舗が多いのは、これが理由ですが、このノウハウを今後は北海道から日本全国に拡げていく予定です」(富田氏)

 実際に「ゲオモバイル」店舗に入って驚いたのは、膨大な量の中古端末の陳列や、格安SIM等のほかに、NTTドコモ、au、ソフトバンク、ワイモバイルの端末販売および回線契約手続きも行っていること。来店客は、ゲオモバイルで扱うオリジナル新品スマホや中古端末、格安SIMのほか、既存キャリアの新品端末の新規契約や機種変更なども店舗内で済ませることができるのである。富田氏によれば、「NTTドコモは二次代理店扱いであるが、他のキャリアは一次代理店であるので、手続きもその場で可能である」ということだった。

「スマホを含め、モバイル端末をお客様に買っていただくというのは、商品説明や契約手続きなどに関して、それなりのスキルが求められます。これまで携帯電話販売等を行っていなかった事業者が、簡単に参入できるような業界とは言えません。ゲオの場合、この北海道で家電量販店を吸収したことで、この代理店資格やノウハウを手に入れることができました。このノウハウを、順次全国へ拡げていく計画です。現在、ゲオモバイルは50店舗でスタートしましたが、2016年度までに全国100店舗の開業を目指し、ノウハウの蓄積と、スタッフのトレーニング等を行っています」(富田氏)

■ユーザーをサポートする「スマホ相談員」

 ゲオモバイルがウリとしているのは、全店に配備される「スマホ相談員」の存在。スマホをめぐる顧客のあらゆる相談に対応してくれる。

 回線契約や関連手続きを一定数こなさなければ採算が取りづらいキャリアショップでは、とかくスマホを売ることばかりに集中せざるを得ず、実際には時間を割いて顧客に丁寧な説明をする余裕はなかなか無いのが現状だ。

 ゲオモバイルの場合、既存キャリアの新品スマホも取り扱う一方で、主力は中古端末の販売であり、だからこそ、顧客の要望に応じて、さまざまな疑問にしっかりと対応してくれる相談員が常駐する意義は大きい。

 「ゲオモバイル」は、まだ全国で50店舗、2016年度までに100店舗に拡大していくことを目標にしているが、専売店以外に1,000店舗を超す直営店があるのは大きな強みである。ゲオ店舗を訪れた方はお分かりと思うが、ゲオモバイル店舗に限らず、全国どのゲオに行っても中古スマホやMVNOのSIMの取り扱いを行っている。在庫端末数は少ないにしても、中古スマホをどこでも購入できる体制は構築できている。

 さらに、全国のゲオや、セカンドストリートといった系列店で、スマホの下取りを行っている。これら1,000店舗を超える全国の系列店におけるスマホの下取りだが、各店舗にてゲオ独自基準を満たしているものは、そのまま買取を行っている。そして、ゲオの「買取り端末加工センター」(札幌、名古屋、福岡にある)にて点検とクリーニング、さらに端末の完全初期化(前ユーザーの個人情報等が漏洩しないよう、ランダムな文字列の上書きを行った上で初期化するという特殊作業)を行い、ゲオモバイル店舗をはじめ、全国のゲオ店頭に流通させていく体制を整えている。

 福岡や札幌などでは、来日観光客の来店も極めて多いという。とくに中国からの観光客が来ると、時には店頭在庫をすべて買い上げていくようなケースもあるという。こうした場合でも、「買取端末り端末加工センター」から直ちに在庫を補充できるような体制を整えており、店頭在庫が底を尽きないような工夫をしているという。

■各キャリアを横断的に提案する「専売店」の存在

 かつて、携帯電話が一般消費者の手の届く価格まで下がってきたとき、その普及に大きく貢献したのが「携帯電話併売店」の存在だった。各キャリアの看板を掲げたキャリアショップよりも安価で、しかも全キャリアの製品を取り扱ってきた。黎明期の携帯電話販売店では、携帯電話サービスの内容を親切丁寧に顧客に説明し(その中には当然、各キャリアのエリアやサービス内容の違いなども含まれる)、顧客が十分に納得の上、携帯電話を購入していた。のちに悪質な併売店も増え問題になったこともあったが、やはり現在のような携帯電話、スマートフォンの普及の足がかりは併売店によるところが大きいと考える。

 その後、MNPがスタートするにあたり、容易に他のキャリアとの比較ができてしまう併売店の存在に危機感を感じた通信キャリア各社は、成績の良い併売店を上位代理店に格上げさせ、さらにキャリアショップ(ドコモショップ、auショップなど)の看板を与え、他のキャリア製品を扱わないよう、自社への囲い込みを行っていった(2006~2007年頃)。その頃から併売店の数は激減し、携帯電話・スマートフォンを契約するのはもっぱらキャリアショップでという流れが主流になった。これでは簡単に他のキャリアとの違いを知った上で契約するということができない。こうした通信キャリアの、いわば「販売店の囲い込み」政策にも筆者は常々疑問を感じてきた。

 今回ゲオは、改めて併売店が再び盛り上がりを見せる絶好のタイミングが来たと見ているようだ。すなわち、2015年5月以降のSIMロック解除の義務化による中古端末流通の増大、そしてMVNOの台頭である。

 MVNOは今やさまざまなブランドが参入しているが、重要なことは安定した顧客基盤を持っているかどうか、さらにSIMカードや端末を流通させるための全国を網羅した店舗や流通網を持っているかが鍵となる。

 格安スマホといえば、イオンがいち早く導入し、話題となったが、イオンも全国に販売網を持っていることが強みである。同様に、ゲオは全国に直営店舗を1,000店以上展開している。客層も前述の通り明確で、まさに“これからスマホの導入を検討している”顧客層が中心である。

 しかもより安価に利用したいと考えているユーザーが多い。イオンやゲオなど、流通体制を整えている流通網が、再び「併売店チェーン」として大きな勢力となり、先進国の中で低迷を続けているわが国のスマホ普及率を大きく押し上げる存在になるのではないかと期待している。

 併売店が活躍した時代は1990年代半ばが最盛期で、その後加入者数が飽和状態に近くなるとともにその数は減少して行った。さらに前述の通り、MNPが併売店の存在に追い打ちをかけた。しかし時代はスマートフォンが中心となり、端末の独自性で各キャリアの差別化を計るのは難しい時代となった。

 そして、いよいよSIMロック解除義務化により、SIMフリー端末の流通が本格化することで、これでようやく「端末」と「回線」を自由に選べる時代が到来することになる(もちろん、これにはサービス利用において自己責任が伴う。不安なユーザーは各キャリアが提供する手厚いサポート体制が整った従来のサービスも並存し、ユーザーが選択できる状況が理想的だ)。

 ちょうどこの記事を書いていた矢先に、TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブがフリービットと合弁で“トーンモバイル”を設立。5日より、“Tのスマホ”とうたう格安スマホ「TONE」の販売を始めるというトピックも流れてきた。こちらはSHIBUYA TSUTAYAから始まり、TSUTAYA 12店舗と直営店4店舗から展開を始めるという。このように、SIMロック解除義務化の動きに合わせ、格安スマホ市場、さらには独自の販売チャネルを通じた新たな併売店チェーンが次々に誕生してきそうな勢いである。かつて一旦は衰退した併売店によるモバイル販売だが、このタイミングを機に再び併売店が存在感を増す時代が訪れそうだ。

【木暮祐一のモバイルウォッチ】第73回 SIMロック解除義務化で再び脚光を浴びる「併売店」

《編集部@RBB TODAY》

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