【ホンダ S660 試乗】空・風・人・車の一体感と、想定外の快適さ…青山尚暉

試乗記 国産車
ホンダ S660
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ついに『S660』で公道を走る機会に恵まれた。場所は四国、高知の海沿いの道とワインディングロードである。

まず乗ったのは事前受注で90%の比率となる上級のαグレード、そして比率57.1%という 6MTモデルである。ボディーカラーは『ビート』を思い出させる、ナンバーの黄色がもっとも目立たない!? カーニバルイエローである。

タルガトップを開け、市街地を走りだせば、まずはクラッチの軽目でミートしやすい踏力&コントロール性、確実にそして吸い込まれるように操作できるゴキゲンなシフトフィール、ホンダ最小径の本革巻きステアリングの操舵感といったすべての操作荷重の統一が、クルマとの一体感を強く印象づける。

地上335mmという『S2000』の375mmより低い着座位置は感覚的に地面スレスレ。前を走る ホンダ『フィット』が大きな塊に見えるほどである。だから、クルマの流れに乗って走っても、 制限速度で走っても、体感的にはすこぶる“速い”。仮に100km/hまで一気に加速したとしたら、めくるめくスピード感に酔えるはずだ。しかも、乗り心地は想像以上にいいのだからびっくりさせられる。

海沿いの道に差しかかると、路面が急激に荒れてきたものの、S660専用となる前後異径サイズのハイパフォーマンスタイヤをおごる足回りは素晴らしく強固にしなやかにいなし、剛性感に満ちたオープンボディーはキツい段差を乗り越えてもミシリともせず、快適感はまったく損なわれない。

もちろん、乗り心地自体はスポーツカーらしくがっちりしているのだが、サスペンションがしっかりストロークし、不快な突き上げ感など皆無なのである。これなら遠出も無理なしだろう 。

ところで、当日の外気温は10度を下回る春の冬日。しかしエアコンのミッドモードがお腹からひざ回り部分をスポット的に温めてくれるため、あえてエアコンの温度を下げてしまったほどだった。

タルガトップの風の巻き込みも絶妙にコントロールされている、ではなく、正確にはコントロールできる。サイドウィンドウを上げておけば、身長172cmのボクの着座姿勢(座高)なら頭髪はほとんど乱れない。だから制限速度の上限で車内は運転席、助手席2人の会話が小声で行えるほど静かでもある。もちろん、フロントウィンドウの上、サイドウィンドウの外に手をかざせば、風はビュービュー吹いているのに、である。

面白いのはここからで、S660には運転席からスイッチで開閉できる「パワーリヤウィンドウ」なる小窓がある。それを下げると、ミッドシップレイアウトならではの、コクピット背後に積まれた官能性能とスポーツ性能を磨いた64ps、10.6kgmの3気筒ターボエンジンの咆哮を目いっぱい味わえるのだが、開閉度合いによってコクピットに流入する風をコントロールできることを発見。例えば、サイドウィンドウを下げた状態であれば、むしろパワーリヤウィンドウを開けたほうが、サイドからの風の流入が抑えられたりするのだ。

開発陣によれば、パワーリヤウィンドウは全開がいいわけではなく、開け具合によって好みのエンジンサウンド、風のコントロール度合いを調整し、楽しんでほしい…とのことだ。

ここまでのドライブで分かったことは、まず運転のスキルにかかわらず、誰もが気軽に楽しめる等身大のスポーツカーであるということだ。それはマイクロサイズであるという意味だけではない 。何しろ日常シーンにおいて、交差点を曲がるだけで、信号待ちからダッシュするだけで、スポーツカーテイストを存分に味わえ、持てるパワーを使い切れるのだから。

今回は男2人乗車、ボク1人のドライブパターンを試したが、専用ターボエンジンはトルキーにリミットまで轟然と回り切り、パワー不足を感じるシーンなどほとんどなかったことを報告しておきたい。

ただし、S660を実用的に!? 使うなら、「ストイックに1人乗りがベストかも」という事実も判明した。つまり、助手席座面、フロアがほぼ唯一の荷物置き場だからだ(前にも後ろにも正式な荷室はない。左右シート間背後にはフックを完備)。もしパートナーを乗せ、タルガトップを開けるとしたら、ボンネット内にあるロールトップ(巻き取り式幌)がジャストサイズで入るユーティリティーボックス(スケボーが入る容量)は使えない。パートナーが大きなハンドバッグを持っていたらひざの上か足元に置くしかない。コートを脱いだとしたらひざに抱えるしかない。さらにドライバーが手荷物を持って いたら…おーっと、なのである。助手席にスライド機構はあるものの、ボクが許せる着座(スライド) 位置では、背後に荷物スペースは作れなかった…。

どうしても誰かと、というなら、手荷物なしの身軽な格好で乗ればいいだけ。大きなポケットがいっぱい付いたベストを着用し、財布などの小物をすべて身に付けてしまうといいかも知れない。

iPhone6などのスマホ愛用者には朗報がある。ナビ未装着の試乗車の中で、スマホがシフター奥のフロントコンソールトレーにピタリと斜めに寝かせられ、そこそこ見やすいナビ代わりに使えるアイデアを発見してしまったのである。

もちろん、S660にはオプションでGメーター&リヤカメラ付きフローティング・センターディスプレーも用意されている。 ナビ機能をインストールしたスマホを接続可能なだけでなく、なんとマクラーレン『MP4/5』F1マシンや『NSX-R』などのエンジンサウンドが車内のスピーカーから、アクセル操作に連動して再現される「サウンド・オブ・ホンダ」と いうアプリもあり、夏ごろに登場するというのだから、S660の楽しさは尽きない。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
ペットフレンドリー度:★

青山尚暉|モータージャーナリスト/ドックライフプロデューサー
自動車専門誌の編集者を経て、フリーのモータージャーナリストに。自動車専門誌をはじめ、 一般誌、ウェブサイト等に寄稿。自作測定器による1車30項目以上におよぶパッケージデータ は膨大。ペット(犬)、海外旅行関連の書籍、ウェブサイト、ペットとドライブ関連のテレビ 番組、イベントも手がけ、犬との自動車生活を提案するドッグライフプロデューサーの活動も行っている。

《青山尚暉》

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