【インタビュー】マツダ デミオ 竹内主幹「ドラポジの良さを一人でも多くの人に伝えたかった」

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マツダ 車両開発推進部主幹 竹内都美子氏
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車両開発推進部主幹でありマツダで女性唯一の特Aテストドライバーでもある竹内都美子氏(現在は商品本部主査)。鹿児島で開催されたメディア試乗会で、新型『デミオ』の走りの味付けやこだわり、そして市場からの反響について聞いてみた。

◆“無理なドラポジ”に気付かせる

----:発売から4か月がたち、新型デミオに対する反応も入って来ていると思うのですが。

竹内主幹(以下敬称略):これまでもディーラーを回ったりして“試乗のポイント”などをお伝えしてきたのですが、今回女性の方から非常に嬉しい反応をいただきました。

----:女性というのは興味深いですね。具体的には?

竹内:性能だけでなく「ドラポジ(ドライビングポジション)の大切さがわかりました」という声を沢山頂きました。

----:ドライビングポジションについて女性から声が上がるのは珍しいのではないでしょうか。

竹内:正直に言いますと、これまでも伝えようと活動はしてきたのですが、私たちに返ってくる声が皆無でした。本当に声が届いているのか? と不安な時もありましたが、今回伝えたかったお客様から予想以上の反響を頂きとても嬉しく感じています。

----:販売現場も回られているとのことですが、何か新型になって変化は感じていますか?

竹内:ディーラーの駐車場で輸入車をよく見かけるようになりましたね。WEBや口コミなどでクリーンディーゼルに対して情報感度の高いお客様がまずいらっしゃっています。

----:そのお客様はどのようなことを感じているのでしょうか。

竹内:情報と商品がマッチしていることは感じていただけているようです。それから、輸入車に乗る=自らどれだけ無理なドラポジを取っているか、ということですね。

----:無理なドラポジ、ですか?

竹内:そもそも左ハンドルがベストとして作られた仕様です。これを右ハンドル仕様にしたのですから無理が生じます。

----:皆、あまりそれは言いませんね。

竹内:そうなんです。多少感じていても身体が慣れてしまうからですね。でもデミオに乗ってみたら「こんなに無理していたんだ」という声も聞きました。後々出てくるかもしれない痛みとして、どこかに負担がかかっています。

◆“ベストなシート”をさらに進化

----:そのデミオのシートですが、新しいアプローチをされたそうですね。

竹内:骨格は『アクセラ』を使っていますが、『CX-5』から始まった新世代商品の中でも今回、生産工法的にも難しかった“振動吸収ウレタン”という非常にキメが細かいウレタンをデミオのシートバックに初採用しています。

----:これがこのシートのキモですか?

竹内:そうです。この素材の採用とシートの座面を15mm短めにして先端部を柔らかくチューニングすることで小柄な150cm位の方から大柄な190cm位の方まで快適に座れるシートにしています。

----:実際そんなことが可能なのでしょうか?

竹内:確かに「そんなの無理」という声もありました(笑)。しかし体重のある方が座った場合、この振動吸収ウレタンをしっかりたわませて、身体にフィットさせながら沈みこませることで15mm短くしたことがキャンセルされるのです。逆に小柄な方が乗った場合は身体をフィットさせながら15mmの恩恵が受けられるのです。

----:マイナス15mmというのはどれほど大事なのでしょうか?

竹内:体幹を支えるシートだからこそアクセラで良いものが出来上がったのでデミオでも使おう、とういうことになったのですが(動かない試作車の)デミオにこのシートを入れてペダルレイアウトなどを検討したら一番最初に気が付いたのがペダルが操作しづらいことだったのです。

----:でもシートの出来は良いわけですよね?

竹内:ヒップポイントが違うのです。シートクッションが長くて固い。膝裏に当たっていました。それをたわませてオルガンペダルを組み込まなければいけないので、短くしてください、とお願いしました。

----:で、それがすんなり通ったというわけでしょうか?

竹内:実はそうでもないのです。過去のマツダ車のシートは少々小ぶりでヨーロッパのお客様から「マツダのシートは小さい」「膝裏のサポート性が弱い」と言われてきました。その部分などの改善を続けて作りこんだベストのシートがアクセラのものだったのです。

----:だから変えられないわけですね。

竹内:前述した理由などから許可は降りませんでした。でもその時に今回の振動吸収ウレタンを見つけました。これしか手が無かったのです。

----:じゃあ、もし見つからなかったら…。

竹内:そのまま(座面の長いまま)のシートで出ていたかもしれませんね。ただ多くの男性は気が付かなかったと思います。「なんで短くするんだ」って怒られましたから。

----:どうやって解決したのですか?

竹内:とにかく型にして提案しました。今ならこういう素材があって、誰も気がつかなかった部分やヒップポイントを上げたり…と。

----:女性ならではの“気付き”でしょうか。

竹内:男性と女性との差はないと思いますが、これだけ女性ユーザーが増え、マツダ車はドラポジがいい、と伝えている中で1人でも多くの人に感じて欲しかったのです。結果としてはこだわりの強さだと思っています。もちろん背の高い人にもフィット感を良くしてほしかったのでシートバック自体の高さも上げています。

----:そういう意味でもこのシートはお金がかかっていますね。

竹内:かかっていますよ(笑)。スペシャルシートですから。

◆運転する“質”を追求したい

----:土井主査にも伺ったのですが、「あなたにとってのモノづくりとは?」と「今回のデミオ、点数を付けるとしたら何点ですか?」について教えてください。

竹内:こだわっているのは“おもてなし”なんです。気持よく運転、言い換えればそのクルマを使って頂く時間を幸せに過ごしていただきたいのです。それは単に快適というだけではなく、運転そのものを楽しみ、その先で出会う人や場所での喜びまでも含めてです。私達は移動する“手段”だけを作っているのではありません。運転する“質”を追求したいのです。

----:点数はいかがでしょうか。

竹内:うーん難しいですね。開発時には100点を目指していますが「走る」「曲がる」「止まる」の部分はまだ荒削りの部分はあるかもしれません。エンジニアのはしくれとして100点は付けづらいし、時間が経てば経つほど100点はどんどん遠くへ逃げていきます。

シートだけでなく、クルマ全体の性能を向上させるために竹内氏がこだわり続けてきたひとつの形が今回のデミオであることは話の節々から感じ取ることができた。柔らかい物腰の中にキラリと見える「強い信念」、今のマツダの強さはこういう人材とチームが引っ張っているのだろう。

《高山 正寛》

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