【土井正己のMove the World】「アジア経済の未来」と「トヨタ燃料電池技術特許公開」の意味

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首相官邸で行われた『MIRAI』の納車式
  • 首相官邸で行われた『MIRAI』の納車式
  • トヨタ MIRAI(ミライ)
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  • 水素燃料の充填口(トヨタ MIRAI)
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先月に引き続き、2月もシカゴ便に乗った。1月の時はシカゴからデトロイトに向かったが、今回は、ミズーリ州セントルイスが最終目的地だった。

セントルイスも元々は、クライスラーの大工場があり、デトロイトと並ぶ自動車の街と知られていたが、今は、自動車よりも航空産業やバイオテクノロジー、電子工学などが盛んな街である。また、大学も多く、ワシントン大学、ミズーリ大学、セントルイス大学などがある。いずれも名門だ。

今回この街を訪れたのは、セントルイス大学と在米日米協会から招聘され、セントルイス大学で講演とパネルディスカッションに参加するためだ。講演のテーマは、「アジアと世界、日本経済の役割」とした。まず、その内容を少し紹介しておきたい。

◆セントルイス大学での講演 「アジアと世界、日本経済の役割」

日本、インド、中国を含めたアジア経済が、世界GDPに占める割合は、1950年には14.6%と小さいものであったが、2010年では31.4%とほぼ世界の3分の1を占めるようになる。ちなみに北米が25.4%、欧州とオセアニアの合計が33.6%。これがおよそ、現在の姿である。それが、2050年にどうなるかというと、アジアが50.6%を占めるという。その時の北米は15%、欧州・オセアニアで16%というから、2050年にはアジアが圧倒的な経済力を持つわけだ。(これらのデータは、末廣昭著「新興アジア経済論」 2014年 より)

アジアは、人口も増え、一人当たりのGDPも増加する。日本はどうかというと、「少子高齢化」で人口は減少傾向にあり、また、生産人口が減ることから一人当たりGDPも増えることはない。では、「日本はどうあるべきなのか」という問い掛けが、私が行った講演の前半である。多くの人は、「アジアの成長を如何に取り込むかが、日本の将来を決める」と考えるだろう。

その答えは、間違ってはいない。特に地方経済においては、アジアの成長を取り込むこと、すなわち販路をアジアマーケットに求めたり、アジアから訪れる観光客を狙ってジャパン・ブランドの商品を売り込むことは、地方経済の活性化に繋がる。しかし、それが日本の役割ではない。では、日本の役割は何であろうか。

◆アジアにおける日本の役割とは

私は、アジア経済のこの急激は発展には、必ず、「急激成長のひずみ」が出てくると考えている。一つは、中国の「PM2.5」に代表される大気汚染問題や水質汚染問題。すなわち生活環境の汚染だ。二つ目は、アジアが急激は発展を遂げることで、日本や先進国の雇用を奪うこと。そして、日本や先進国が保護主義に入り、世界経済が停滞することである。三つ目は、こうした停滞が原因となって、アジア経済にクラッシュが起きることだ。それに伴い、中国などでは政治的な混乱がおこることも十分考えられる。「急激成長のひずみ」は、思いつくだけでもこれだけあり、アジア経済はフラジャイル(脆弱)であることを理解しておく必要がある。

よって、日本の役割は、このフラジャイルなアジア経済が、できるだけ順調に、サステイナブルに成長できるよう、底支えすることだ。日本は幸い、こうした「急激成長のひずみ」を過去に経験してきた。公害問題、2度のオイルショック、日米貿易摩擦などである。

これらを解決したのは、決して政府ではなく、民間企業が「創意と工夫」で切り抜けてきたことが大きい。その処方箋を念頭において、企業はアジアでビジネスをしていくことが、重要であろうと思う。例えば、環境技術や省エネ技術は、間違いなく、アジアの健全な経済成長に必要な技術であり、日本とアジアの「ウィン、ウィン」が成り立つ。交通渋滞を解決できるITSもその分野だ。

では、貿易摩擦は、どうすればよいか。それは、日本が技術イノベーションを起こし、産業構造を上方に移行させることである。そして、既存の技術を、進んでアジアに提供することで、アジアでの新規雇用を生み出すことにも協力することが重要だと思う。それは、日本の技術の「デファクト・スタンダード」をアジアに作り出すことにもなり、ここにも「ウィン、ウィン」が成り立つ。

◆トヨタ燃料電池技術の特許公開の意味

トヨタは、本年1月5日に虎の子の燃料電池技術車(FCV)の特許、5680件全てを無償で公開すると発表した。ここまで、2050年という先の話をしてきたが、そのころにはFCVも普通に見かけるようになるだろう。FCVは、水しか排出しないので、大気汚染問題も軽減でき、また、エネルギーも太陽光などから水素を作れれば心配はいらなくなる。この新たな技術で新たな雇用も生まれ、産業構造の上方移行も行われていく。そして、そこに走るクルマは、やはりトヨタ車ということになる。まさに企業と社会の「ウィン、ウィン」の連鎖が起きて行く。

本来、自分の「母校」を称えることは、控えなければならないが、セントルイス大学講演の最後では、思わず、「これこそ、日本企業がやらねばならないことだ」と力が入ってしまった。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外 営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年の トヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学工学部 客員教授。

《土井 正己》

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