【川崎大輔の流通大陸】跳躍するタイ中古車流通市場

アセアン諸国で自動車事業を拡大していく場合は、タイの中古車流通市場を理解する意義は大きい。アセアン統合によりこの市場は跳躍するだろう。

エマージング・マーケット 東南アジア

アセアン中古車流通の中心となるタイ

アセアン諸国で自動車事業を拡大していく場合は、タイの中古車流通市場を理解する意義は大きい。タイは数年先にアセアンの国々の中で最も膨大な数の中古車が出回ると推測される市場である。アセアン経済共同体が2015年末に発足し大きな市場が出来上がる。その域内において急速な中古車市場の拡大が予測される。タイはこれらの巨大な市場における中古車供給国になる可能性が高い。

中古車の供給をしっかりコントロールすることは流通自体の健全化を促進する。それと同時に新車販売台数の拡大のためのバリューチェーンを構築することができる。

◆タイの新中比率は1.6

タイでの新中比率(新車登録台数と中古車登録台数の比率)は1.6である。登録台数とは中古車の所有権登録の回数(新規登録・移転登録・名義変更の3業務合算の数)を指す。タイにおける新車登録・中古車登録台数の推移は年々右肩上がりの拡大傾向である(図表1参照)。

新中比率が高い国ほど相対的に中古車流通が活性化することを意味する。米国は約2.0、日本は約1.5である一方で中国は約0.3である。これら市場と単純比較すれば中古車の市場が活性化していることを意味する。しかし、実際の中古車小売り台数になれば名義変更回数を考慮する必要がある。中古車登録台数は最終消費者であるエンドユーザーの販売台数を表すものではないためだ。

一般的に中古車は最終消費者であるエンドユーザーに届くまでの流通過程において重複した名義変更がなされる。中古車登録台数は名義変更があるたびにカウントされる。日本でも実際の中古車小売り台数を正確に把握することは難しく、エンドユーザーの販売台数は中古車登録台数のおよそ2分の1といわれている。

◆日本とタイの中古車流通経路比較

実際の中古車小売り台数と中古車登録台数には差異が生じる。日本では一般的に、中古車専門買い取り店、中古車販売店の場合は名義変更は行わない。しかし、新車ディーラー経由の場合は名義変更が行われることが多い。また、オークションから中古車販売店に流通する際には名義変更が場合がある。名義変更で必要な印鑑証明の期間が3か月であり、一般的にオークションルールでは開催月の翌月末までに販売ができない中古車に関しては名義変更が必要なためである。中古車が販売できるかできないかで名義変更の有無が変化する(図表2参照)。一方で、タイでの中古車流通経路は下記が一般的である。筆者の現地でのヒアリングによれば名義変更回数はおよそ3回だ(図表3参照)。

日本では多くの中古車が卸売市場としての役割を持つオークションを経由しエンドユーザーに届く。しかし、タイでは複数回の中古車店への転売がその役割を果たしている。タイはオークションが普及しておらず主として販売金融自動車の引き揚げ車の売り先としての役割があるのみだ。そのため中古車店間での転売が数回されている。

◆地方へ流れる中古車

タイの首都バンコクから地方へ中古車の流れが加速している。これも名義変更回数が増えている1つの要因だ。従来は、中古車は下取りされた地域で販売されることが多かった。しかし、タイ政府によるライフスキーム政策(米への補助政策)により、田舎の農村で栽培した米を政府が買い取った。そのお金が地方の農民を経由して中古車流通市場に流れこんだ。

今まで購入を控えていた地方の低所得者層もこの政策の恩恵を受け中古車を購入する流れが急速に拡大。中古車ビジネスを行う人々にとってもバンコクより地方で中古車を販売する方がメリットが大きい。なぜなら地方の中古車の供給が不足しており、高値で販売ができる。業者側もニーズの高い地域へ車を運ぶことで需要のミスマッチを解消。そのためブローカーを通じバンコクから地方へ中古車の流通が増え名義変更を頻繁に行わざるを得ない状況が続いている。

タイ国内の1000人あたり保有台数は日本の約600台に対して約180台である。一方で内訳をみると、バンコクが約460台、バンコク以外の地方が約90台である。バンコク中心部においては先進国に近い自動車普及率に近づいており、今後は地方における自動車普及が進むであろう。

◆推定のタイ中古車販売台数は70万台

タイの中古車販売台数を推測するとすれば、タイには2013年で約70万台(210万台の3分の1)の中古車販売台数と推測することができる。タイの中古車市場は今後もまだまだ成長の余地が残されている。タイの新車販売台数を中古車販売台数の比率は約2:1と推計。これに対して、日本の比率は約3:2、ヨーロッパや米国での比率は約1:2といわれている。アセアン経済共同体が発足後の潜在的市場の大きさは計り知れない。

確かに足元の販売動向にはバラつきがみられる。しかしタイ中古車流通市場がアセアン諸国への自動車供給を担うことを考えれば跳躍の時が必ず訪れるであろう。

<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。現在、プレミアファイナンシャルサービス(株)にてアセアン事業展開推進中。日系企業と海外との架け橋をつくるべく海外における中古・金融・修理などアフター中心の流通調査を行う。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科特別研究員。

《川崎 大輔》

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