【オートモーティブワールド15】自動運転が生む競争と協調、法的検討事項とは

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自動運転のイメージ(写真はホンダの協調型自動運転)
  • 自動運転のイメージ(写真はホンダの協調型自動運転)
  • ホンダ 協調型自動運転車(資料画像)

オートモーティブワールド2015で1月14日、本田技術研究所の四輪R&Dセンター横山利夫氏が「ITS/自動運転技術の現状と今後」と題し自動運転実現に期待される社会的価値・実現に至るまでの法的・制度的領域での検討事項について解説した。

横山氏は1979年に本田技術研究所に入社後、2003年からはホンダリサーチインスティテュートUSAのプレジデントを務めた。その後同社未来交通システム研究室室長を経、2012年より上席研究員としてITSおよび自動運転技術の研究開発を推進している。

◆自動運転に期待されること

「自動運転に期待することとして“事故ゼロ”の話は避けて通ることができない。全世界で年間約120万人が交通事故で亡くなっている。2030年にむけて 新興国のモータリゼーションを予測したデータによると死者数がさらに倍増するというものもある。日本における交通事故データをみると交通事故の減少傾向が見られるが、政府目標が達成されるレベルには達していない。では事故がなぜ起きるかというとドライバーの事故が90%程度を占めると言われている。この点、 自動走行技術や先進安全技術によってこれがカバーできるという期待が高まっている」と横山氏。交通事故の経済損失が6.3兆円に上るというデータも示された。

また自動運転に期待されることの二つ目には、モビリティプアに対しての課題解決手段となること、が挙げられた。65歳以上の人口が増加する中、とりわけ地方に在住する人々への移動の自由を担保すること、移動手段を提供することに繋がるという。三つ目はビッグデータ活用領域の拡大。「BtoCであれば自動走行中のお客様に有効な情報を提供し、BtoBtoCだったら必要なデータを他業種と協業しながら車内に配信することが想定、推進されている」(横山氏)

◆ウィーン道路交通条約をもとに役割責任の法的議論がすすむ

次に横山氏は自動車がどのような交通協約のもと運用されているかについて解説した後、今後自動運転が推進されるにあたってどのような法的問題が生じるか説明した。

世界中のクルマにかかわる法規は1949年のジュネーブ道路交通条約、1968年ウィーン道路交通条約の二つをベースに運用されている。しかし自動運転が推進されるにあたり双方の条約に記載されている文言が問題となってくるという。

“車両には運転者がいなければならない”(ジュネーブ道路交通条約第8.1条、ウィーン道路交通条約第8.1条)“運転者が車両を適正に操縦しなければな らない”(ジュネーブ道路交通条約第8.5条)“運転者はいかなる状況においても、当然かつ適切な注意をして、運転者に必要であるすべての操作を実行する立場にいつもいることができるよう車両を制御下におかなければならない”(ウィーン道路交通条約第13.1条)「これらの文言は最近ヨーロッパを中心に改 定なされたにもかかわらず相変わらずこの部分は変わっていない。この条約のもとにすべての法的な問題が解決できるのかが大変な焦点となってきている」(横 山氏)。

現在日本や北米はジュネーブ道路交通条約に加盟しているがウィーン道路交通条約には加盟していない状況。ただ自動運転にまつわる役割責任などの議論は基本的にウィーン条約をもとに進められているのだという。

◆自動運転の5段階 「責任の所在が問題となるのはレベル3から」

「自動運転について海外の関係者と議論する際に、“自動運転”のイメージや定義が一致しなければ話がかみ合わない。こういった際に参考に出されるのが SAE Internationalによって0から5までレベル分けされた自動運転の定義だ」(横山氏)

国を跨いだ議論を行う際にどのような基準のもとに自動運 転が整理されているのか横山氏はSAEによるカテゴライズを示し説明する。

レベル0は自動化なしの状態。警報や介入システムによるサポートはあるものの、運転者があらゆる状況で車を運転する。レベル1は運転支援。運転環境情報を用いながら操舵し、または加減速のうち1つの運転支援を実行する。一方でこの他の運転に必要な作業は運転者が行う状況を指すという。レベル2は部分的自動化を意 味する。レベル1がひとつの制御を意味することと比較すると複数の制御が存在することが特徴なのだという。「運転環境情報を用い操舵、加減速等の複数の運転支援を実行するがその他の運転に必要な作業は運転者がおこなう」。

重要なのはレベル3以降。レベル3以降となると“システムが走行の責任を負う”という考え方も出てくるため、システムとドライバーのどちらが最終的な責任を負うのか、という問いが重要となってくる」(横山氏)。したがって「責任の所在を注意深く条件わけしながら決めていく必要がでてくる」。

ここでのレベル3とは、“条件付き自動化”を指す。システムからの介入要求時には、人間による適切な対応を期待し、自動運転システムが、すべての動的運転作業を実行する。ちなみにレベル4は高度な自動化、と呼ばれ自動運転システムがすべての動的運転作業を実行しシステムからの介入要求時にも人間による適切な対応が期待できない場合もありうる。さらにレベル5となると人間の運転者が運転可能なあらゆる走路環境下で自動運転システムがすべての動的運転作業を実 行する“完全自動化”となる。

レベル3についての議論は、国際的には現在国連のWP29(UN/ECE/WP29 ITS/AG IG)にて国際基準を定めていく必要性が強く認識され、検討が始まっているところだという。日本国内では国交省と自動車工業会が連携し、いかにしてドライ バーとシステムの責任のすみわけをしていくべきかにつき日本が“ワンボイス”にして対外的な議論をし自国の意見を主張していく状況にある、という。

◆自動運転が生む競争領域と協調領域とは

またレベル3の領域での開発になると「すべてを個社でやるのは厳しい」のだという。したがって競争の領域と協調の領域をうまく組み合わせる必要がある。

自動運転を実現するための機能の一例を示すと、エックスバイワイヤー技術は量産のクルマにもかなり入り始めているため、今後重要となってくるのはセンシン グ系であり、この中でも自分がどこにいるのかを正確に把握するという技術は一つの重要なキー。これについてGPS、衛星を使う方法とカメラまたはレーザス キャナーを使う等様々な方法があるなか、ホンダではまだこれを組み合わせて検討している段階」。一方センシング技術の中でも走路環境認識、すなわち“自分 の周りの環境が静的または動的にどういう状況にあるのかをきちんと理解した上でパスプランニングする”といった一連のシステムに関するところは競争領域なのではないか、と述べた。

◆ITSおよび自動運転技術への日本の取り組み

最後に日本のITSと自動運転への取り組みについて解説した。2008年から12年へかけてのIT新改革宣言に始まり、一般道交差点を対象とした警察 庁のプロジェクト、そして国交省自動車局の路車間通信、クルマに関する様々な取り組みの推進など、ITSや自動運転技術発達にむけての積極な動きが見られる。

具体的には国交省道路局によるITSスポットの設置は1630か所に及び、“スマート交通流”という、首都圏を中心としたロードプライシングの検討が始 まっている。「なるべく混雑していない外側の環状路を通ると値段が安くなり。首都高の渋滞区域を走ると値段が高くなるような仕組みがITSスポットを活用しながら導入できないか、という取り組みが具体的に検討されているところ」。

この他、現在検討されている内容には、光ビーコンから電波に置き換え て交差点周りの安全運転支援を行うことと、次世代の光ビーコンにリプレイスするときにもちいられるGreen Wave(信号の切り替わりのタイミングに関する情報をあらかじめ入手することによって、なるべく信号で止まらずに通ることができることを支援する)が現在実用化に向けて推進されつつあるという。

《北原 梨津子》

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