【山崎元裕の “B”の哲学】わずかな、そして確実な進化こそベントレーの伝統…ミュルザンヌ スピード

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ベントレー ミュルザンヌ スピード
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ドラスティックではないが確実な進化

ベントレーのフラッグシップモデル、『ミュルザンヌ』に、高性能モデルの「スピード」が追加設定されたのは、2014年パリ・サロンでのことだった。2014年もセールス面では大きな成功を収めることができたベントレー。その最大の市場はアメリカと中国であるわけだが、ベントレーによれば、このスピードが最も強く意識する市場は、ヨーロッパだという。

ドラスティックな変化を望まず、少しずつパフォーマンスの向上を図っていくのは、ベントレーの伝統的な手法だ。記憶に新しいところでは、『コンチネンタル』シリーズの最新モデルともいえる「V8S」もそうだ。スタンダードな「V8」とのエンジンパワーの違いはわずかだが、シャシーの味付けをさらにスポーティーなものにリニューアルしたことなどで、独自の世界観を演出することに成功した。ミュルザンヌ スピードもまた同様である。

ミュルザンヌ スピードにとってのメイン・トピックスは、いうまでもなく搭載されるパワーユニットにある。その基本設計をさかのぼるのならば、すでに半世紀以上もの長期にわたって進化を果たしてきたことになる、伝統の6.75リットル版V型8気筒OHVエンジン。それにツインターボを組み合わせるのは、これまでのミュルザンヌと共通だが、スピードの誕生にあたってベントレーは、燃焼室や吸気ポートのデザイン変更、燃料システムの改良、圧縮比の向上、そして可変バルブタイミングシステムやターボチャージャーの制御を見直すなど、全面的な改良作業を施している。

結果、最高出力は25ps増となる537ps、最大トルクは80Nmが強化され1100Nmというスペックを実現したわけだが、先に触れた改良範囲の幅広さを考えれば、これはあまりにも控えめな性能向上ともいえる。ちなみにこのスピード用エンジンでは、環境性能も魅力的な数字で、EU複合サイクルでの燃費性能は14.6リットル/100km(約6.85km/リットル)、CO2排出量は342g/kmを達成している。またスピードと同様のエンジン改良は、ミュルザンヌでも実施されており、パワー&トルクは512ps&1020Nmと、これまでのものから不変だが、環境性能は13%程度の改善を果たしているという。

◆ハイパフォーマンスサルーンとしての説得力

組み合わせられるミッションは、スピードも8速ATとされるが、ドライブモードに新設定された「S」モードを選択すると、エンジンスピードを常時2000rpm以上にキープする制御が働く。同時にサスペンションやステアリングも、よりスポーティーなセッティングへと変更され、ボディーサイズやウエイトを意識させない、アグレッシブな走りを楽しむことができる。ベントレーは、このミュルザンヌであっても、後席に身を委ねるのみのモデルではない。それは真にドライビングカーなのだと、誰もが改めて感じることだろう。

ドライブモードはほかに、「コンフォート」や「B=ベントレー」の選択も可能。走行シーンや目的に応じたベストセッティングを、簡単なスイッチ操作で実現できるのは嬉しい。

ドライバーとパッセンジャーを包み込むインテリアは、まさにベントレーのハイエンドを印象づけるフィニッシュだ。ベントレーはスピードのために、ダイヤモンドキルトレザーによるシートやトリムなどセットとした、「マリナードライビングスペシフィケーション」を標準装備としたほか、ベントレーのエンブレム入りヘッドレストを全席に。またインナードアハンドルやドリルドアロイペダルなども、スピードでは標準とされる。高級オーディオやWi-Fiシステムなど、移動空間としての快適性、そして利便性を高めるための装備も、もちろん幅広く用意されている。

エクステリアは、フロントグリルやエアインテーク、テールレンズなどをダークカラーとしたほか、21インチ径のホイールは回転方向が指定されるデザインになった。ちなみにベントレーがホイールの回転方向を指定するのは今回が初めてのことで、実際に見るそのデザインは、一見オーソドックスな5本スポークに見えるものの、実は微妙な曲線を採用することで、洗練された印象と、そしてもちろんエアロダイナミクスの向上にも大いに貢献することを期待させるもの。その製作工程の一部には、ハンドメイドによるエグゾーストのエンドパイプが、らせん状の溝を刻んだツインタイプとなっているのも、スタンダードなミュルザンヌとの違いだ。

4.9秒という0-100km/h加速データ、そして305km/hの最高速は、ハイパフォーマンスサルーンとしては、十分すぎるほどの説得力を持つものだろう。このデータは、ミュルザンヌ比で各々、0.4秒、9km/hのアドバンテージを持つもの。少しずつパフォーマンスを高めるというベントレーの伝統は、見事にそれが最新モデルにも受け継がれていることになる。ヨーロッパのみならず、我が国においても、それはカスタマーからの高い評価を得ることは、まず間違いないだろう。日本への上陸が非常に楽しみな一台である。

山崎元裕|モーター・ジャーナリスト(日本自動車ジャーナリスト協会会員)
1963年新潟市生まれ、青山学院大学理工学部機械工学科卒業。少年期にスーパーカーブームの洗礼を受け、大学で機械工学を学ぶことを決意。自動車雑誌編集部を経て、モーター・ジャーナリストとして独立する。現在でも、最も熱くなれるのは、スーパーカー&プレミアムカーの世界。それらのニューモデルが誕生するモーターショーという場所は、必ず自分自身で取材したいという徹底したポリシーを持つ。

《山崎 元裕》

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