11日、都内でWEC(世界耐久選手権)の2014年シーズン活動報告会を開いたトヨタ(TOYOTA Racing)。シリーズタイトル獲得を喜びつつも、陣営の視線は来季、王座連覇ともどもルマン24時間レースで初の総合優勝を果たすことに向いている。
ルマンというレースにはWECのシリーズのなかの一戦(今季第3戦)という以上の重みがあることは周知の通り。これは北米インディカー・シリーズにおけるインディ500の位置づけに近いもので、正直なところ、シリーズタイトルとルマン(インディ500)のどちらかを選べ、と言われれば、ほぼ100パーセントのレース関係者が後者の勝利を望む。ルマンというのはそれくらいの価値を有する、歴史と伝統に彩られたレースなのだ。
トヨタは過去4度の総合2位があるが、まだルマン総合優勝はない。今年は中嶋一貴がポールポジションを獲得し、彼を中心とする「TOYOTA TS040 HYBRID」の7号車は“順調なら”トヨタに初のルマン総合優勝をもたらしたはずだったが、夜間にマシントラブルで戦列を去るという無念の結果に終わっている(A.デビッドソンらのトヨタ8号車が最終的に総合3位。優勝はアウディで5年連続)。
木下美明チーム代表は、「今年逃した一番大きなレース。(トップ快走の)7号車には既にペースダウンしていい指示も出ていたんですが、簡単には勝たせてもらえませんでした」とルマンの敗戦を振りかえる。
ストップする直前のピットインの前に、やがてストップ原因となる箇所の異常過熱の可能性を匂わす兆候がテレメタリー上にあったという。そのためピットイン時に約5分間の修理を企図してもいたのだが、実際にピットに入ってきた時にはテレメタリー上の兆候がなくなっていたので修理を見送った直後のストップであったこと、そしてその真因究明はルマン後の約3カ月のインターバルの間にマシン開発を統べる村田久武氏らが徹底して行ない、クリアしたことも報告された。とはいえ、もともと根本的な問題があったわけではないようで、たまたまその個体にだけ出てしまった不具合ということらしく、運に見放された展開だったのも事実といえそうだ。
村田氏は7号車がストップした時の心境をこう語る。「14時間過ぎて(後続を)ぶっちぎっていましたから、『これは本当に勝つかもしれないなあ』と、ちょっとだけ思ってしまった時でした。やっぱり勝利の女神が、『なにを偉そうに。もうちょっと苦労しなさい。目を覚ましなさい』と言ってくれたんでしょうね。あとの10時間は反省しながら(苦笑)、8号車のサポートに集中しました」。そして、「あそこで目が覚めたから、僕たちは今、来年のルマンに向けてまたガッツも出てきています」とも語る村田氏。「ルマンで勝つことが僕の夢」というのは同氏のみならず、トヨタ陣営の総意だろう。
他カテゴリーとの重複等で全戦参戦ではなかったものの、中嶋一貴もトヨタの躍進を支えたドライバーのひとり。スーパーフォーミュラ(SF)岡山テスト参加中のため、この日の報告会には参加していないが、SF岡山テスト初日にWECでのトヨタのシリーズタイトル2冠獲得についてのコメントを聞くと、こんな答えが返ってきた。
「今年はチームにとって、非常に良かったシーズンだと思います。トヨタとしてレーシング・ハイブリッドに取り組んでから、かれこれ10年近く経つのかと思いますが、それをついに(世界王座という)カタチにできたわけですからね。それに僕も微力ながら貢献できて嬉しく思います」。微力ながら、というのは、自身がレーシング・ハイブリッドに直接関与したのはここ数年だけど、という意味だろう。そして、彼はこう続けた。「ただ、ルマンを勝つことはできなかった。来年こそ、それを獲りたいと思います」。
勝利できる速さは充分あっただけに、悔しさもひとしおのルマン敗戦だった今年のトヨタ。来年こそ宿敵アウディをルマンの表彰台の頂点から引き降ろし、ルマン最前線復帰2年目のポルシェや復帰初年度となる日産も退けての初優勝を目指す。その来季に向けては「(今季のような大きな)レギュレーション変更はないので、現行車の開発をさらに進めて臨みます」との旨を木下代表は語っている。大いに期待したいところだ。