【インタビュー】100年企業、ヤナセを支える「5つの財産」とは…井出健義社長

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ヤナセ井出健義社長
  • ヤナセ井出健義社長
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  • ヤナセ・ハイグレードフェア(13日 ザ・プリンス パークタワー東京)
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2015年5月に創業100周年を迎える輸入車販売大手のヤナセ。1915年の創業以来、「いいものだけを世界から」をスローガンに日本の輸入車文化構築の一 役を担ってきた同社だが、これを支えてきたのは「5つの財産」があったからこそだと井出健義社長は言い切る。ヤナセが如何にして100年を生き残ってきたのか、そして次の100年に向けたサステイナブルなビジョンとは。

過去最大規模で開催され、わずか1日で約5000組、7500名にものぼる来場者を記録した展示イベント「ヤナセ・ハイグレードフェア」の会場で井出健義社長が独占インタビューに応えた。

----:100周年を前に、過去最大規模のイベントとなりました。規模もさることながら、なぜヤナセはこれだけの集客力、吸引力を持続していけるのでしょうか。

井出健義社長(以下、井出):地方では継続的にホテルフェアをやっていますが、これだけ大規模なものを東京で開催するのは久々です。やはり楽しみにされている方が非常に多く、この2-3年で来場されるお客様は増えています。7月に大阪で開催した際には、駐車待ちで渋滞ができたと聞いています。これはやはり、自分の目で見て、触って、クルマを選びたいというお客様が非常に多いということです。

インターネットがいくら発達してECの世界が主流になったとしても、クルマは非常に値が張るものだし、皆様が求めるものを選ぶためにはやはり実物を見て、乗って、触ってみないとなかなか決めることができないものだと思っています。

クルマは大きく分けて3つしかないんです。ひとつは「趣味のクルマ」、そして「生活の足としてのクルマ」、最後はその真ん中にあって両方を満たすクルマです。我々ヤナセが扱っているほとんどのクルマは「趣味のクルマ」なんですね。だからこそ、自分の目で見て、ドライバビリティやフィーリングを試して、色を選んで…となるわけです。“選ぶ歓び”というのも大いにありますよね。これはECの世界だけでは決して得られない。

さらにクルマは命を預ける商品なんです。メンテナンスや修理、サービスというものが必要で、とても大切なんです。この2つがある限り、我々の商売というのはそれなりに続くだろうと、また社会からも必要とされているだろう、とそのように理解して続けています。

----:「クルマのある人生を作っている」というキャッチコピーが印象的です。一方で「クルマ離れ」という話題があり、人生とクルマとの乖離が出てきているように思いますが、これについてヤナセとしてはどう見ていますか。

井出:特に東京で見れば公共交通が発達していて、「クルマなんて要らないよ」と思うのは当然の成り行きだと思います。確かに若者の間でも免許を取らない人が増えているかもしれない。でもこれはごく一部の都市だけの話であって、外に出れば、アシとして、クルマがなければどうにもならない世界というものがある。そうした所では、少なからずアシとしてのクルマを買うことになるんです。

都市部では、公共交通機関が発達しているという前提の中で、やはり金銭的な問題、つまり収入と支出の関係から起きている問題であって、限られた収入のなかで何に優先順位をつけていくかという話ですよね。そんな中でクルマなんていらないという言葉になってしまう。ならば収入が十分になれば、クルマがほしいという人も出てくると思います。

ただ、基本的に我々ヤナセのお客様たちというのは、もともと輸入車に興味があって来て頂ける方々なのです。輸入車、つまりクルマが好きな人たちなんですね。元々ニッチな商品を扱っているわけですから、我々のお客様にとっては「クルマ離れ」というのはあまり関係がないのかな、と。影響があるものではないと考えています。

----:なるほど。とはいえ新しい顧客というものを常に創出していく必要はあると思いますが、これに対するアプローチなどはされているのでしょうか。

井出:メーカーと連携しながら、より多くのお客様にクルマを見て頂ける機会を増やしています。来店を待っているだけでなく、こちらからお客様の近くに出向いて行こうというわけです。例えばメルセデスベンツは六本木にコミュニケーションの場を作ったりしていますよね。我々はショッピングモールなどで、これまでとは違ったお客様の目に触れる場所でクルマを展示したりしています。

排ガス規制などがあって、ヨーロッパ3大メーカーは揃って小型車を出してきましたよね。こういうクルマは国産車と比べても40-50万ほど高いだけで、手が届く価格帯にあるんです。そうすると面白い現象が起きていて、昔のベンツだと『Cクラス』をショッピングモールに展示しても素通りされてしまっていたのが、『Aクラス』や『CLA』、『GLA』などを展示すると実際にドアを開けて、運転席に座ったり、結構なお客様が見て触ってくれるんですよ。もちろん購入に結びつくこともある。

プレミアムブランドだからといって、富裕層の方だけが乗るクルマじゃないんですよ、というメッセージをきちんと発信していくことも必要です。だけど、大変ですよこれからは。今までは高いプレミアムカーでしっかり利益がとれていましたが、小さいクルマでは数が勝負になる。メーカーにしても販売方法やマーケティングを切り替えて行かないと広がりません。そういう部分ではITの活用も必要だと思っていますし、入り口を広くしていかなければなりません。しかし最後は必ずマンツーマンでお客様との関係を築いていくことに変わりはありません。

----:今年4月の消費増税では、輸入車ブランド各社の販売に大きな影響があったと聞いています。

井出:4-6月は本当にしんどかったですね。1-3月の駆け込み需要で在庫がなくなってしまったことが大きな要因でした。ただ7月以降は、幸いなことにメルセデスベンツのCクラスやCLA、GLAなどが出てきて相当盛り返すことができました。9月の本決算でもきちんと増収増益で終えることができた。ただ他ブランドは厳しい状況で、メルセデスベンツの扱いが大きいヤナセだからまだ助かった、という状況です。

今回のように落ち込んでいる時は、何かしらのきっかけがないと盛り返せないものです。株高や経済効果というのがあれば良いですが、やっぱり我々にとって一番大きいのは魅力的な、新しいクルマが出てくることです。そうしてお客様を刺激する。そうでなければ、新たに買う、買い替える理由付けがないですからね。いかに買う気を起こしてもらえるか、それはやはり魅力的な商品以外にありません。メルセデスベンツが7月に出た、というのは良いタイミングだったと思います。

----:次の100年に向けてヤナセとして取り組んでいるもの、あるいはこれから構築していこうとしているビジョンはありますか。

井出:2010年に、ヤナセ始まって以来となる中長期ビジョンを策定しました。それは、「顧客目線の原点に戻り、魅力的な全天候型、持続成長企業になる」というものです。もともとカンパニーの理念として「ヤナセはクルマはつくらない。クルマのある人生をつくる。」や「世界から良いものだけを」というスローガンがありますが、もっと具体的に「全天候型」という言葉にしました。

私が2008年10月に伊藤忠からやってきた時、まさにリーマンショックの直後で新車の販売が30-40%も落ちている状況だった。「これは大変なところに来てしまったな」と思いましたよ。2009年はどん底で、輸入車の販売は15万9000台まで落ち込みました。この2008年、2009年を踏まえて、今後の10年を見据えた中長期ビジョンを作りました。それが、「顧客目線」と「全天候型」という言葉です。

大きな旗を掲げて、それに向かって経営改革をずっと続けてきています。実は最初に掲げた定量目標というのは既にクリアしてしまっていて、これから新しい定量目標を作ろうとしているところです。そういう意味から言うとずいぶん筋肉質な会社になったなと思います。最後の仕上げということで、全社の経営改革、人材育成、これをきちんとやりながら、次の100年に結びつくものにしていきたいと考えています。

100年というのは振り返ればものすごい長い期間です。自動車の歴史とほぼ同じ時間が流れていますし、関東大震災あり、太平洋戦争あり、90年代にもオペルの大規模なクレームで何100億円もの損失を出したり、そうした大きな経営危機を何度も何度も乗り越えて100年続けることができたわけです。社内で常々言っているのは、この100年を築いてこれたのはヤナセが非常に大切な「5つの財産」を持っていたからだということです。

「素晴らしいお客様にずっと恵まれていたこと」「メルセデスベンツをはじめ素晴らしい商品に恵まれていたこと」「社員の士気、現場力の高さ」「ヤナセという名前、ブランド力」そして「全国に展開している販売、サービスネットワーク」。この5つの財産があり、また育ててこれたからこそ100年生き残ることができた。

2115年がどんな社会になっているか、想像もつきませんが、クルマが道を走っているかぎり我々のようなディーラーは残っていくだろうと。安心、安全を提供することで快適なカーライフを送ってほしいというのがヤナセの願いです。お客様が何を求めているのか、常に先回りして提供する。これを忘れずに、「5つの財産」をしっかり守っていければ、これからの100年もヤナセは生き残っていけると信じています。

《宮崎壮人》

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