【池原照雄の単眼複眼】富士重とマツダ、好対照の“立ち直り方”

自動車 ビジネス 企業動向
富士重工業 吉永泰之 社長
  • 富士重工業 吉永泰之 社長
  • 世界戦略車マツダ デミオと小飼雅道社長
  • 5代目レガシィ シリーズ(ツーリングワゴン、B4、アウトバック)
  • マツダ CX-5 (米国仕様)

今期の営業利益率はトップと3番手

自動車各社の第2四半期(4-9月期)連結決算とともに2015年3月期通期業績の最新予想が公表された。乗用車8社のうちトヨタ自動車など5社が営業利益、純利益で最高を更新するなど、8社ベースではリーマン・ショック前の08年3月期以来の最高収益を確保する。

純利益が初めて2兆円(前期比10%増)に達するトヨタは別格として、営業利益率がトップの富士重工業(スバル)、トヨタに続く3位につけるマツダの業績改善もめざましい。リーマン後からの両社の“立ち直り方”は好対照であり、それぞれが自動車ビジネスの体質強化策のテキスト(教本)となる。

富士重とマツダの今期業績予想とグローバルの販売計画を表に示した。営業利益は富士重が13年3月期から3期連続、マツダは2期連続の最高となる。収益力の指標である売上高営業利益率は富士重が13.7%と、ドイツの高級車メーカーをも凌駕する世界最高レベルにある。マツダは7.2%だが、国内乗用車8社では3番手。自動車メーカーは5%で及第点といってよいので、成績上位組だ。

■15年3月期の業績予想値と08年3月期からの増減率(▲は減少)
     売上高      営業利益     販売台数
富士重 2.78兆円(77%) 3,820億円(8.4倍) 90.9万台(52%)
マツダ  2.93兆円(▲16%)2,100億円(30%) 142万台(4%)
※今期前提為替レートは富士重が1ドル104円、マツダは同102円

◆レガシィの大型化で成長を加速

上記表の増減率は、各社が好業績に沸いたリーマン直前の08年3月期と比較している。そこから7年間の変化率を見るためだ。ともに最高益をたたき出す両社だが、事業スケールの変化率は全くの好対照を示す。つまり、富士重は販売台数が1.5倍に拡大し、売上高は1.8倍に増える。これに対してマツダは販売台数が4%しか増えず、売上高に至っては当時より円高ということもあってまだ16%ショートする見込み。

ここから、富士重は質の伴った事業スケールの拡大、マツダは台当たり収益力に磨きをかけた筋肉質への転換…という異なるルートを経て最高益に辿り着く姿が見えてくる。富士重は09年に投入した主力車種『レガシィ』の5代目モデルを、北米市場を優先したサイズに大型化させたことが転換点となった。

当時、日本と北米の販売台数は同程度だったが、収益性が高い北米優先のクルマづくりに舵を切ったのだ。成功した今となっては当然の戦略に見えるが、当時は「日本軽視」による国内の大幅落ち込みというリスクも伴った経営判断だった。

◆モノ造り革新とSKYACTIVで筋肉質に転換

富士重の米国での販売は08年から7年連続で最高を更新中であり、今期は51万3000台(前期比16%増)と日本の約3倍になる見込み。もちろん、単にクルマのサイズを大きくしたから受けたのでなく、水平対向エンジンや最高の評価を受け続けている安全性能などが総合的に受け入れられ、ブランド力を高めている。その結果、収益を棄損しない量の拡大という好循環をもたらしているのだ。

一方、リーマン後に4期連続の最終赤字という塗炭の苦しみを味わったマツダは、身をすくめながらも従前から進めていた体質改善をしっかりと進めた。06年に着手していた「モノ造り革新」と、その直後に立ち上げた独自の環境技術群である「SKYACTIV」の表裏一体となった推進である。商品の企画段階から設計、生産に至るまでのコスト改善に加え、SKYACTIVによる商品の魅力アップ、安売りしない売り方改革が収益の伴った1台1台のセールスにつながっている。

マツダも富士重も輸出比率が高いため、円安効果が出やすいのはその通りだ。だが、富士重の第2四半期業績は「為替影響を除いても135億円の営業増益となった。実力をつけることができたと手ごたえを感じている」(吉永泰之社長)と評価するように、為替変動への抵抗力はリーマン前より格段に強まっている。マツダも同じだ。従前の業績ピークだった08年3月期の営業利益率は4.7%と今期予想より2.5ポイント低い。当時は今期の前提より1ドル12円ほどの円安だったことを加味すると、贅肉を削ぎ落とした収益体質への転換ぶりが明瞭である。

《池原照雄》

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