半世紀ぶり国産航空機開発への挑戦 「オリンピックまでに飛ばす」…三菱航空機 MRJの未来

航空 企業動向
《撮影 北原梨津子》
  • 《撮影 北原梨津子》
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三菱航空機執行役員技術本部長兼チーフエンジニア、岸信夫氏は6月25日「国産民間旅客機“MRJ”の開発と今後~日本発・最新ものづくり技術で、世界の空へ~」をタイトルに講演をおこなった。 

「およそ50年ぶりに日本の翼を世界におくりだす製作ができることに、本当に感謝しています」  

MRJ開発に感謝の辞を述べ、自動車などで発揮されているような、“コストが低く、乗り心地がよく、環境にやさしい”三つの日本技術の強みを適用した飛行機を目指しつくっている、と語り、MRJの現時点での開発状況から、なぜリージョナルジェット市場だったのか、市場をどのように把握しているか、また競合他機とどのように差別化しているのか、について説明した。

リードエグジビジョンジャパン開催、東京ビッグサイトにて行われた第25回設計・製造ソリューション展専門セミナーより以下、岸氏による講演をレポートする。

◆約50年ぶり「日本の翼を、世界の空へ」の挑戦

一〇式艦上戦闘機、ニッポン号、零型艦上戦闘機(ゼロ戦)など、数々の航空機を生み出してきた日本の航空史は、52年前の戦後再生をかけた国家プロジェクトYS-11以来途絶えている。

YS-11は昭和37年に初飛行、昭和48年には製造が終了した。(販売機数180機、国内99機販売)以来国産民間機事業は中断したが、こののち国際共同開発が拡大し高品質・高効率生産技術を取得してきたという。例えばボーイング787では、日本のワークシェアは35%におよぶ。これらの拠点となってきたのは愛知を中心とする東海地域で、日本の航空機・同関連部品生産の48%を占める(経済産業省「生産動態統計」)。

そしていま「日本の翼を、世界の空へ」をモットーに日本航空機産業にとり半世紀ぶりとなる“国産”航空機開発への挑戦が始まっている。

◆なぜリージョナルジェット機市場なのか 2031年までに5000機の新規需要見込み

MRJとはMitsubishi Regional Jetの略称。日本(参画企業は後述)が開発を進めている民間ジェット機で、70席クラス、90席クラスの2機種が開発中だ。

Regional Jet(リージョナルジェット)とは、定員50~100名程度で、地域の都市間を結ぶジェット機を指す。

飛行距離は、たとえば名古屋を中心とするとマニラ、台北、上海、北京、グアムまで、パリを中心とするとモスクワ、アルジェリア等まで、主要な都市間をつなぐ範囲は網羅するという。

リージョナルジェット機による運航は世界のジェット機便の4分の1(23%)を占め、とりわけアメリカ国内、ヨーロッパ域内都市間等で、現在かなり伸びている、と指摘された。

岸氏はこれを、米国における路線数の増加を例に挙げて説明した。米国におけるリージョナルジェット線数は2003年時点では396路線だったが、2012年までに1889路線に増加(70~99席の路線のみ)。「今後アフリカ、アジアでも使っていただける可能性もありますが、現時点での欧米域だけでもかなり伸びが大きい。」という。

また、三菱航空機による予測によると、2012~2031年70~100席リージョナルジェット新規需要は、およそ5000機以上の新規需要を見込めるという。地域別にみると北米、中南米で45%・欧州中東アフリカで35%・アジア20%という予測が建てられている。

三菱航空機はこのそれぞれに、「風立ちぬ」舞台となった名古屋本社を中心に販売拠点を立てて構えるという。

ちなみに同社需要予測によると今後、航空機需要はリージョナルジェット機に限らず、世界の旅客機運航機数でも20年で2倍以上に増加するという。これは2030年末までに航空機数が合計3万4922機に達することになる。

◆カナダ、ブラジルの二分市場に挑戦 セールスポイントは環境・乗客・エアライン

MRJと同サイズ、席数幅の競合機はCRJ900(Bombardierカナダ)、EMB190(Embraerブラジル)。さらにこれらの二大市場に新規参入するSSJ100-95(Sukhoiロシア)、ARJ21-700(COMAC中国)が存在する。
これについて、岸氏は「市場が固まるまえに参入すべきで、我々は実質的にはカナダ、ブラジルに挑んでいる状況。」と発言した。

MRJを競合機と比較すると、エンジンバイパス比で他の機が4.4:1~5.4:1間であるのに対してMRJは8.4:1となっている。MRJがP&W製(PW1217G)なのに対して他競合機ではGE製CF34やPower Jet製SaM146などが並ぶ。

その他、競合機と比較し、燃費性能、客室快適性、騒音・排出物などの環境性能の点で“優”(他、可もしくは劣の三段階で表示)と言えると説明された。

また、MRJの特徴という点では、「MRJは異なる大きさの機でも共通のパーツを使うため、パイロットの訓練等で汎用性が高い」ため優れていると指摘した。

セールスポイントは「乗客・環境・エアラインへの新しい価値提供」という。

乗客への価値については、「これまではリーズナブルな価格だったら狭くても仕方がない、という認識があったが、そうではなくMRJでは大きなバッグも詰めるような快適な客室、乗客志向の客室設計を意識している」という。競合のエンブライエルよりも広くとり、IATA基準を達成し、米国人男性の97.5%までをカバーする180cm以上の設計としている。

客室設計を競合機と比較すると、CRJ700/900(ボンバルディア、カナダ)が運航経済性、EMB170/190(エンブラエル、ブラジル)は居住性の高い傾向にある認識を示した。そこでMRJは真円に近い形状で両方面での高い設計を目指すという。

また環境への価値では、少ない排出物と低騒音、さらにエアラインへの価値では優れた経済性(複合材技術)がポイントとなるという。「次世代エンジンや先進航空技術で環境、エアラインへ新たな価値を提供することができる。」先進航空技術には複合材尾翼、次世代フライトデッキ(Fly-By-Wire)先進航空技術、低騒音設計、次世代エンジンがあげられた。

MRJは2012年4月にエンジンフライトテストが開始され、来年には初飛行を予定している。岸氏は「2017年には竣工、初号機納入し、オリンピックの時には飛ばしたい。」と語る。その後はMRJファミリーにMRJ90 (90席)を標準としながらMRJ100や78にも広げていけたら、との展望を示した。

《北原 梨津子》

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