【千葉匠の独断デザイン】ジャガー C-X17 が量産車のように見えるワケ

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ジャガー C-X17 コンセプト
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ジャガー・ランドローバー・ジャパンが東京と大阪で特別展示した『C-X17』。クロスオーバーのコンセプトカーだが、26インチの超大径ホイールやフロントのエアインテークに仕込まれた照明を除けば、まるで量産車のように現実的なデザインに見える。

なぜだろう? コンセプトカーならもっと大胆で未来的なデザインにしてもよさそうなものだが…。東京での発表会に来日したデザイナーのサンディー・ボーイズ氏に、疑問をぶつけてみた。彼はジャガーの先行デザイン部門でインテリアを統括する責任者だ。

人々の反応から探る“可能性”

「C-X17の目的は、次世代アルミ・アーキテクチャーが持つ可能性を披露すると共に、それを使ってどんなクルマを生み出せるかについて市場の反応を探ることだ」とボーイズ氏。

「もし宇宙船のような(非現実的な)デザインをやったら、人々は真剣に見てくれず、市場の反応から何も得られなくなってしまう。正しい反応を得るためには、人々が量産車を見るような気持ちで見てくれるようなデザインにすることが大事だ」という。

ここでボーイズ氏は『C-XF』の教訓」を挙げた。『XF』の発表に先立ち、それを予告するコンセプトカーとして07年デトロイト・ショーで披露されたのがC-XFだ。「XFは市場から美しいクルマだと評価されたが、なぜCX-Fと違うのか? とも言われた。これは我々の望まない反応だった」。

すでに決定していたXFのデザインをベースに、C-XFは全高を下げ、キャビンをコンパクトにし、スポーティさを強調した。コンセプトカーではよくあるデフォルメだが、来るべきXFへの期待を煽りすぎたのはジャガー・デザインとしての反省点。「コンセプトカーは、人々がそれを見て信用できるデザインであるべきだと思っている」。

ボーイズ氏は「C-X17のデザインは新しいアルミ・アーキテクチャーが持つフレキシビリティにフィットしている」とも語る。異なるサイズやパッケージングに対応可能なアーキテクチャーとはいえ、そこには自ずと限度があって、どんなデザインでも出来るわけではない。そこを踏まえてデザインしたというわけだ。

「このアーキテクチャーの可能性を見せるコンセプトカーだから、実現できないデザインをやったのでは間違ったメッセージを発信することになってしまう。だから宇宙船のようなデザインにしないのだ」。

実用性を加味した5シーター

C-X17は昨年9月のフランクフルトモーターショーでデビュー。そのときは4シーターだったが、11月の広州モーターショーには後席を3人掛けにした5シーター仕様が登場した。ジャガーは欧米のショーでは4シーター仕様、アジアでは5シーター仕様と使い分けており、日本にやって来たのも5シーターだ。「フランクフルトのC-X17はとてもスポーティで、とてもダイナミックな4シーターだった。そのシェイプは変えずに多用途性を高めたのが5シーター仕様であり、スポーティさと多用途性を妥協なく両立させている」とボーイズ氏。そして次のように付け加えた。

「C-X17のようなクルマが望まれているのか? これはジャガーにとって正しい道なのか? 我々は今、人々の反応を測っている。そのときに、なんだ、4人しか乗れないのかで終わってしまったら困る。そこで5シーター仕様を用意したのだ」。つまりこれも、正しい反応を得るための方策。アジアではより実用性が問われると考えてのことなのである。

ちなみに、4シーター仕様のボディカラーはフランクフルトのときがブルー、ロサンゼルスはシルバー、ブリュッセルはレッドと変わったが、内装色はブラック&ホワイトのツートン。5シーター仕様は一貫してベージュのボディにブラック&タンのツートーン内装を組み合わせている。

内装色に込められた意図

アジア向けにブラック&タンの内装色を選んだ理由について、「アジアの市場では、ジャガーがラグジュアリーなブランドだというメッセージをしっかり発信したい。その意味で、オリジナルのブラック&ホワイトは少しクールすぎるかもしれないと考えた」とボーイズ氏。「革の柔らかさやディテールへのこだわりなどを感じていただくには、ホワイトより伝統的なタンの色味が相応しい」。

ブラック&ホワイト内装ではドアトリムにピアノブラックのパネルを張っていたが、アジア向けのブラック&タン内装ではそこがウォルナットの本杢。ワックス仕上げで木目を際立たせている。タンの本革と美しい木目はブリティッシュ・ラグジャリーを象徴するもの。とくに欧州以外の消費者に対しては、ジャガーらしい高級感をわかりやすく伝えるアイテムと言えるだろう。

ジャガーがクロスオーバーを作るとしたら、人々はどう思うのか? その反応を正しく把握するためには、余計なところで見る人の意見がブレることがないようにデザインしなくてはいけない。C-X17はエクステリアから内装色まで、市場調査目的のコンセプトカーとしてまさに理に叶ったデザインなのである。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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